仮免取得試験、合格発表前。
「どこ行ってたのさ〜怪我でもしたの?」
「それなら私が処置をっ!」
「大丈夫大丈夫。トイレが混んでただけだよ」
合格発表を待つ広場には、すでに全員が制服姿で待機していた。合格発表を待つ時間は何とも言い難い。
周りでソワソワしているのが伝わってくる。私だって多少の不安や高揚感はあるからね。
*
試験終了直後。
「施設は人の出入りを禁止しました。これで敵は逃げられませんが…詳細を教えていただけますか」
「神野事件の際にいた敵連合の一人、トガヒミコらしき人物に遭遇しました。受験者に紛れていたようですが殺気が隠せておらず視たら…」
「判明したということですか」
公安とHUCの人に案内されたのは、今まさに受験者たちの点数を集計している会議室。試験が終わったとはいえ、私がここに入ってよかったんだろうか。
緊急事態だから仕方ないのかな。公安の仕事は早く私がペンライトでSOSをした直後には施設を封鎖していたらしい。察しがよくて大変助かる。
「士傑高校のケミィっていう人に擬態していました。今トガヒミコを捕まえてしまったら本物の安否が掴めなくなります」
敵を刺激してしまったら本当のケミィさんに何をされるかわからない。今すぐにでも現行犯として捕まえたいだろうが、警察からしか逮捕状は出せない。証拠も不十分だ。
「誠に不本意ではありますが今回は泳がします。連合が関わっているとなるとこちらは動けません」
*
『試験は減点方式でした。合格者は50音順に表示します』
わ、わ、わ…
「みみみみみみみ…」
「ばっ!!」
「あったー!!」
「よかったぁ、受かってる!!」
周りで安堵が広がる。感極まり泣いている生徒もいる。どうやら雄英はほとんどが合格したようだ。
「え!轟落ちたの?」
「すまん轟!お前が落ちたのは俺のせいだ」
「よせよ、元はといえば俺がまいた種だ」
「かっちゃん!暴言改めよ!」
「黙れ殺すぞ」
「私も名前がない…」
「ツートップどころかパーフェクト環心も!?」
"環心"は50音順で言ったら大抵最後だ。なのに一番最後の名前は私ではなかった。まさか、落ちた……?正しい行動をした自信はあったのに。
「あー環心?一番最初見て」
「え、、あ、あった」
名簿の最後を見る癖のせいで、一番前になるなんて予想だにしていなかった。というかさ、
「青山君教えてよ」
「ボクのキラメキで霞んで見えなかった!」
前後の名前くらい見えてもいいでしょうが。公安の人たちによって評価が書かれた紙が配られる。
100点…ねぇ。"現場経験しているだけあります。減点する要素が見られませんでした。報告も適切な判断です"
落としてあげるタイプの試験だったが何とか終わることができた。敵に関しては何もしないように指示を受けたので…彼らに任せよう。
"全員"合格が叶わなかったのは残念だが、3ヵ月の仮免補講をクリアして彼らはきっとすぐに追いつくだろう。
「見せろォ…」
「ちょっ、見ないでよ」
「は……100、だと?」
「やっば!!ここでもパーフェクトかよ!」
「だから名前一番最初だったんちゃうかなー」
いや、そんな雑な。
*
合格者に渡された仮免ライセンス。これで有事の際には私たちは自分の意志で動くことができる。
「デクくん泣いとるん?」
「相当嬉しいみたいね」
「あ、いや。いろんな人に支えられて。そうだオールマイトに写真送ろう」
涙でウルウルしていたのにオールマイトに報告する様は目が血走っていた。
無個性だった彼がここまで来ることができたのはオールマイトのおかげだ。彼に個性を譲渡してもらって鍛えてもらって、強くなった。
「シオンちゃんもありがとう」
「はいはい。お礼はトッププロになることでいいよ」
「手厳しいなぁ」
心も身体も成長した姿は、あの日見た夕陽と同じくとても綺麗で……この人を支えてあげたいな。
*
帰りのバス中隣に座っているのは勝くん。珍しいこともあるな。窓へ視線を移すと映る彼の横顔は、終始静かでイヤホンで音楽を聞いている。
そのせいか何を考えているのかわからない。無理やり視ることはできるけど…そんなの皆嫌うよね。
やばっ、目が合ってそらすけどガン見していたのバレたかな。
「ンだよ」
「いやぁ……静かだなって」
そういえば彼はどちらかといえば寡黙な方だった。静かな時とうるさい時の温度差がすごすぎて風邪をひいちゃいそう。
ふと右手を包んだ温もり。驚きが表情に出てるのがわかる。彼の左手は分厚く大きい…手を繋いでくるなんて……仮免落ちたの相当ショックなのかな。
「これが巷で噂されるツンデレってやつですか?」
「黙ぁってろ」
比較的小さな声で話してるから他の人に聞かれることはないだろう。みんな試験の内容についてフィードバックしてて少し騒がしいくらいだ。
からかってみたけど……触れたら視ないように壁を張っても負の感情が流れ込んでくる。
少し汗ばむけど気にする様子もなく顔を窓の外に向けた彼は、甘く苦い香りを漂わせていた。
もどかしい。
【果報】 因果応報、報い。
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