火急というもの

仮免取得試験、二次選考。

「位置を特定してこちらの端末に映し出します!」


キャプチャー・オン


二次選考は市街地での大規模テロに遭遇したバイスタンダーとして行動する。評価基準は判らないがリアルに考えて行動すれば自ずと合格ラインをクリアできるはずだ。

救助者の位置把握…、HUCの人数は受験者と同じで100…


「位置入力します!」

「え、自動で入力………?ってわけじゃないのね。各エリアにこれを届けて!」

「リアルタイムに共有していきますが…私の有事の際にはこちらをタップすれば印は消えます」

「わかった!よし、行くぞ!」


自動入力と間違われるくらい入力スピードは磨きをかけた。その間僅か2秒。連動も上手く行ってる。ヒーローと救助者の区別もできている。


「ゆーちゃん、3歳、軽傷です。でも頭を打っているので観察が必要です!」

「わかりました。私が受けとります」


小さな子ども…ではないけれど、受験者の腕から受け取ったのは頭から血を流した女の子。


「3つかー、お喋り上手だねー。ゆーちゃん一人でいたの?」

「ママとチリンチリンでぇ……ぉうちにー……」


3歳児にしては受け答えがしっかりしている。親を探して泣き喚くこともない。視ながらこの子の意識の確認をしているが混濁はみられない…そりゃ健康体のHUCだからそうか。

いや、語尾が聞こえ辛い…なるほど喋り方もヒントか。

チリンチリンは…自転車だ。自転車に乗っていて倒れて怪我をしたと仮定したならかなりの高さだったと考えられる……母親は?

アイマスクを外し目視で確認するが……瞼が開いていない、これは赤に近い黄色だ。自立歩行も掌握も満足にできていない。


「一応黄色です。頭は動かさないでください。自転車の後部に乗っている状態で襲撃されたと仮定して…瞼も落ちっぱなしです。受け答えはできていますがボンヤリし始めました…極めて赤に近い」

「ありがとう。疲れて眠いのか、意識障害か…こちらで預かります。会話に矛盾が生じたらすぐ赤に切り替えます」

「お願いします」


先輩であろう受験生に女の子を渡し展開を続ける。私の役割は救助者の把握だ。女の子と一緒に行動も考えたが症状が悪化する場合もある。幸いにもトリアージの判断は間違っていなかったようだから場馴れしている人に託すのが良いだろう。


「シオンちゃん」

「え、名前何で…士傑の…えっと」

「ケミィって呼んで。お名前は後輩に聞いたの」

「そう……なんですね」


士傑の後輩はきっと夜嵐くん。しかし私は彼に名字しか教えていないはずだ。私の名前は世間様には知られていないはずだから……おかしい。


「出久くんってとっても素敵よね。シオンちゃんが羨ましいわ」


大事な試験中に恋バナでもしようっていうの?それにこの感じは…殺気だ……何故?解らなければ視ればいいじゃないか。


「羨ましがられることは…彼はもっと成長しますよ」

「うふふ、そうね。じゃあ……またね?」



あり得ない。


何だ?何故こんなところにいる。



BOOOOOOOM!!



突如として轟音を響かせる施設内。


『敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ救助を続行してください』


以前共闘したギャングオルカ率いるサイドキックたちが敵として受験生を翻弄する。救助者の安全を確保することはもちろん、敵の相手をしなければ…


「本当に、実践じゃないの」


この空間に本当の敵がいるという緊張感。試験だからそれに沿った行動をしたいという願望。

早く知らせなくてはいけない。どうやって?大きな動きをすれば受験者の集中を削ぎ、試験どころではなくなる。その上敵には逃げられる可能性が高い。

さっきから私を監視している公安の人に何かしらのアプローチをかけるのが手っ取り早い。不振な動きは敵にバレる可能性があるし…しかもこの状況で一時離脱は難しいかもしれない。

情報共有端末をいじり避難誘導しながら思案するが…そうだ、アイテム。ペンライトだッ。これで知らせることができる。

カチカチ、カチカチ、カチカチ、カチ…カチ、カチ…カチ、カチ…カチ

(SOS…メーデー、メーデー、神野、敵有り……)


光量にも限界はあるけどきっとこれで気づいてくれるはず。詳細については今すぐにでも伝えたいが、正直モールス信号なんてこれで限界だ。


「おねぇ……ちゃん」

「大丈夫だよ、ここには強ーいヒーローが沢山いるからね。お母さんあっちで呼んでるよ?」


公安へのSOSと避難の誘導とを並行作業するのは二度としたくない。その感情が顔にも態度にも出ていない自信はあるが内心は参っている。

子どもが不安がらないようにあえて明るく弾んだ声を出すのですら億劫である。


『しゅうりょ〜!!!』

「……まだ、終わってないんだなぁ…これが」

「お前、公安が呼んでいるぞ。行け」


さっきまで泣きそうな子どもだったのにいきなり渋い顔をしないでください。ビックリする。

どうやら私の意思をしっかりと汲み取ってくれた公安へ情報を上げなければいけないようだ。

合格発表まであと少しです。




【火急】
火のついたように、さし迫った状態にあること。



加筆訂正:2021/06/18
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