共生というもの

仮免取得試験、夜。


「今日は一段と疲れたからもう眠い〜」

「みんなお疲れね」


疲労感と達成感で満ちた1-Aは共用スペースでくつろいでいる。中には眠すぎて瞼が落ちかけている人もいる。


「明日から通常授業か―」

「始業式に遅れたら相澤先生に除籍されるかもしれないから早く寝よう」

「そうだな!疲れをとるために睡眠は大切だ!」


気づいたらみんな部屋に戻っていて、寮内は静寂に包まれる。


 *


 *


嗚呼、悲しい。苦しい。悔しい。解らない。

向き合うことは悪いことじゃない。自分の弱さを認めて強くなれるから。

彼が何を考えていたかなんてわかるはずない。私の"しんり"は万能じゃないから。心の内に秘めてることはあなたが晒け出さないと。


「ばーか…」


ベッドの上で一人涙を溢す私は泣き虫なピエロ。


 *


 *


コンコンコン


「夜分遅くに失礼します、は?」

「うっせぇんだよ」

「もぅ…どうぞ」


日付が変わった時間だが、コイツが起きてるだろう確信はあった。

部屋へと促されベッドに腰掛ける。椅子に座った脚だけが見える。


「知っとんたんか」

「"しんり"だからね。視えてたよ」


多くを語らずともこちらの意志を汲んでくれるのは今の俺にはありがたい。怪我についても触れない。

それでも、俺たちが喧嘩したことやオールマイトのこと……俺が消化しきれない想いを抱えていたことをコイツは知っている。

個性で嫌でも視えてしまう世界。

賢いコイツはデクと違ってヒントなんて毛ほども見せなかった。バレた時のヤバさはコイツの方が理解してたんか。


「それで、何か得られた?」

「……」

「"人に頼れと言う癖して自分で実践できてねぇ"……というのが私の意見なんだけど」


それは先日俺がコイツに言った言葉だ。ンでそんなの覚えてんだよ。記憶力がいいから忘れるなんてことは滅多にないだろうが、今はそれが恨めしい。


「ねぇ勝くん。私のこと嫌い?」

「あ"?……別に、」

「おーそっか、ちょっとは昇格したのかな」


散々、嫌いだ嫌いだと言っていた自覚があるから昇格というのは理解できる。てか、お前も嫌ってんじゃねぇのかよ。


「じゃあさ、ハグしよっか」

「……………は?」


この女何考えていやがる。


「ハグしたらストレスの3分の1に軽減されて、泣いたら40%解消されるの。つまり、ハグされながら泣いたらストレスが13.3%くらいになるんだよ。嫌いな相手だったら意味ないんだけどね」


両腕を広げて俺を招き入れる態勢を整える様子は至って真剣だ。

ドーパミンやオキシトシンの分泌によって幸福感を感じるだとか、孤独や恐怖心を和らげることができるだとか御託を並べているが、


「おいっ」

「はいはい、文句だったら後で聞いてあげるから」


無理やり感じた正面の温もりは居心地が悪い。


「もういいだろッ」

「30秒はこのままです」


突き放そうとしてもお得意の護身術で動いたら関節が痛むような組み方をされる。案外長い30秒の間俺の心音は落ち着くどころか騒がしくて仕方がねぇ。

…でも、案外悪くない


「ねぇ、バスで手を繋いできたのも一人じゃ無理だって思ったからじゃなぁい?」


間違っていない。他に理由をつけるとしたら、コイツとの差が開いていくのが嫌だから物理的に繋ぎたかったんだ。

1次選考もトップで通過して、2次も一切の減点がなかった。現場を踏んでるだけあって、周りの大人もコイツに一目を置いている。

始めは変わらないと思っていたのに…いつの間にかコイツとの差は簡単には埋められないくらい開いて、挙げ句の果てには石ころだったデクにも抜かされた。

その事実が耐えられなかった。

引っ込んだと思った涙がまた戻ってくる。


「わかってンなら……聞くなや」

「んー、女は言葉を求める生き物だからね。勝くんの口から聞かなきゃわかんないんだよ」


とっくに30秒は過ぎているのに今はこの安心感を手離したくない。ベッドに腰かける俺の足の間に立ち、包み込む温もりに一層目頭が熱くなった。


「俺は…弱ぇ…どうすりゃいいかわかんねぇんだよ」

「うん」

「お前に…縋るしかできねぇ」

「一緒に強くなるんでしょ?私も泣きたくなったら勝くんを頼るからさ。勝くんも私を頼って…」


呪いみたいな言葉だと思った。依存しているわけじゃないが、きっと俺はコイツがいないとダメになってしまうはずだ。

弱いところなんて見せたくなかった。でも、コイツの前では俺は自分を着飾ることができない。


「ほんと…ムカつくなぁ、クソシオン」

「クソは余計よ」


強く抱き締めて存在を確認する。細いくせして…

仕方ないからお前に頼ってやる。泣き顔を見せる女は、コイツで最初で最後だ。

少し前なら縋り合う関係になるとは天地がひっくり返ってもあり得ないことだった。

でも、コイツが俺の前で泣いて…俺もコイツの前で……シオンの前でなら泣いても良いんだという許しを与えられた気がした。

ハグなんて馬鹿げていると思ったが今度からは俺がコイツを甘やかしてやるときに使ってやるか。

こんなにも安心できるんだったら…少しでもお前の視る世界が悲しみで埋め尽くされなくなるのなら。


「勝くん、おやすみ」


俺たちの1人の世界が終わった日。




【共生】 一緒に生きていくこと。

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デクvsかっちゃん2は毎回泣く。
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