私事というもの

圧縮訓練5日目、夜。

「フヘェエエ毎日大変だァ…!」

「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」

「あと1週間もないですわ」


疲労が溜まりつつあるが弱気なことは言っていられない。なんせ私たちよりも経験を積んだ上級生たちと合格を奪い合うんだから。

必殺技もできたり、できなかったり、個性を伸ばしたり。自分のスタイルに合わせた訓練を行っている。


「環心はどんな?」

「サポートアイテム使ってできる範囲を広げてる。あとは私も個性伸ばしかなぁ」


位置情報を共有するアイテムは今日使ってみたけどあれは慣れだ。相性もいいから早速実践でもイケる。


「お茶子ちゃん?お疲れのようね」


問いかけにも上の空だった麗日さん。咥えていたストローはジュースを吸い上げておらず、本来の役割を果たしていない。


「最近ムダに心がザワつくんが多くてねぇ」

「恋だ」

「ギョ」


あーあ、あからさまに動揺しちゃって。頭を占めるのは…いずじゃん。まぁいずは昔から一生懸命で可愛いけど、格好いいところもある。

へぇ、いずねぇ?少しニヤニヤしちゃう。隅に置けないな。

ある一定を見つめた彼女の感情が柔らかくなった。そこを視てみるといずがいる。

恋愛感情…といよりも憧れからくる心音。今は尊敬できる相手としてって感じなのかな。恋愛なんてしたことがないからわからないけど、互いに認め合った関係は素敵だと思う。

麗日さんの心はずっとザワついている。


 *


 *


仮免取得試験当日、国立多古場競技場。

大きな試験会場と受験者の多さにビビる雄英生。緊張感をもって試験を受けられることは良いことだが、緊張しすぎるのはご法度。


「取れるかじゃない、取ってこい」

「おっもっ、モロチンだぜ!」

「この試験に合格し仮免許を取得できればお前らタマゴは晴れてヒヨッ子…セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」

「「「「はいっ!」」」」


眠たげな瞳に情熱を持った相澤先生の激励は私たちに自信と覚悟を持たせてくれる。


「いつもの一発決めて行こーぜ!せーのっ」

『Plus……』

「Ultra!!!!!!」


私たちの唱和に乱入してきた体格の良い坊主の人。というかあの制服は、


「東の雄英」

「西の士傑……あ、ごめんセリフ取っちゃった?」

「チッ!」


まぁ勝くんはいいや。士傑高校。漢字から読み解くに「立派で他よりも優れている」高校ねぇ。秩序と、気品を感じる立ち姿だけに坊主の彼は異質だ。

雄英好きを全面に押し出している様子に悪意は感じられない。本心で言っている素直な人……なんだけど、顔面血だらけは狂気的だ。

夜嵐イナサ。相澤先生曰く、"本物"。今のうちに情報収集しておこう。きっとこの試験は私たちに圧倒的に不利だから。

推薦入試で轟くんより上の成績だったにも関わらず入学を辞退した……雄英大好きなのに?事情は追々視るとして…いつの間にか周囲に知らない人も増えてきた。


「イレイザー!?イレイザーじゃないか!」


そのうちの一人スマイルヒーローMs.ジョーク。相澤先生の嫌悪感が一気に増したけど何されたんだろう。Ms.ジョークの感情が視えないから、神経作用系の個性は苦手だなぁ。

傑物学園2年。身体つきも私たちよりも一回り大きいかもしれない。アベレージは言うまでもなく上だろう。


「今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」


爽やかイケメン笑顔を振り撒きながら雄英に挨拶する様子はとても好意的である。

端から見ればね。


「フかしてんじゃねぇ。台詞と面が合ってねぇんだよ」

「こらおめー失礼だろ!すみません無礼で」

「良いんだよ!心が強い証拠さ!」


勝くんに振り払われた手は未だ無人。その手を取り握手をする。


「そんなギラついた目で"胸を借りる"?心臓狙ってますの間違いじゃないんですか?」

「へぇ、随分と確信めいているんだね」

「私に嘘はつけませんよ」

「気に入ったよ」


触れた瞬間に視えた雄英潰しのビジョン。加えて大胆な行動をするまでに培った努力や決意。やっぱり1つ上なだけだけど、想いの強さはかなりのものだ。


でも私たちも負けてはいられないんですよ。多くの逆境に耐えるため、雄英高校という一流ヒーロー養成学校というメンツを守るため。


「おい、コスチュームに着替えてから説明だぞ。時間をムダにするな」

「「「「はい!!」」」」


 *


[え?あのコス神野でプロと共闘してた…]
[仮免もないのにあの場にいたのかよ]


わかってはいたさ。私に向けられる視線は他の人とは違う好奇心と悪意。陰でコソコソと…言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。


[まぁ女だし、攻撃系の個性じゃないからごり押しでイケるっしょ]
[だな、さっさと雄英潰してしまおう]


説明会場には多くの受験者がいる。様々な考えを持つのは当たり前だ。

ステインの影響でヒーローの在り方を考え直させられているのも現状。


「条件達成者先着100名を通過とします」


スピードが求められているからって厳しくないですか?半分どころか通過率6.5%くらいじゃないか。

達成条件はボールを相手のターゲットに当てて2人倒すこと。単純だけど所持したボール数とターゲット数を考えるとかなりシビアだ。

苛烈なルール、やってやろうじゃん。




【私事】 個人的な事柄。ないしょごと。
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