分掌というもの

林間合宿1日目、魔獣の森。


「「「「マジュウだー!!」」」」


2mは越えようかという魔獣は大きな口を開けて峰田くんに襲いかかろうとする。口田の個性でも操れないなら、あれは……ピクシーボブの土かッ。

セメントス先生と類似の個性。操るのはこの地面にある土のみなら、構成成分は…

ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム……

微生物や朽ち葉、植物の蔓も混じっているけど黒色土。


「ただの黒土!衝撃で壊れる!」


飛び出たのは轟くん、飯田くん、爆豪くんにいず。咄嗟の判断ができて機動力もある4人だ。


「あの魔獣を瞬殺かよ、やったな!!」

「盛り上がってるところ悪いけど次が来たよ」

「おいおい、いったい何匹いるんだよ…」

「どうする…逃げる?」


森へと踏み入れた私たちを取り囲むように土魔獣が蠢いている。


「環心、視えるか?」

「新規7体…逃げられそうにないわよ…委員長」

「行くぞA組!!」

「「「「「おー!!!」」」」


飯田くんの気合い入魂により一致団結する一同。

襲いかかってくる魔獣に各々の個性で対抗する。私も個性だけじゃなくて八百万さんに作ってもらったバールで応戦だ。


「ちくしょー!ゴールはどこだよ!!」

「なかなか進まねぇ!!」

「ッ、私が視て先導する!」


魔獣の個体は一つ一つ形状が違うため一度触れてから弱点を見破り倒すのは疲労とリスクを伴う。それに加えてゴールである宿泊施設を視ながらだと吐いてしまいそう。


「耳郎さん、障子くん。策敵は任せた」

「「了解っ」」


後方支援をしていたがこうなったら前に出る他ない。先頭は爆豪くんと轟くん。若干だけどコースアウトしていて少し遠回りになりそうな所走ってる。


「最短距離はこっち!!戻ってきて!!」


ひたすらに走ってみんなが分かりやすいように魔獣の屍をパン代わりの目印にする。これだったら鳥に食べられて道がわからないってことはないでしょ。


「クソスクエアはすっこんでろ!指図すンじゃねぇ!!」

「このまま真っ直ぐでいいのかっ!?」


対照的な態度をとる二人に不安を感じながらも、ここを乗りきるには二人の攻撃力は必要だ。


「とりあえず真っ直ぐ1.6km!」



 *


 *



「3時間で着くとか…ムリ」

「あれ、私たちならって意味ね」


実力差を見せつけた嫌味を披露されて疲労が増す。ヒーローの”ヒ”を習った程度の学生に過酷すぎる。雄英の準備する壁って毎回容赦がないな。


「いいよ君ら…特にそこの5人!躊躇の無さは経験値によるものかしら?」


土魔獣が思いの外簡単に攻略されたことが嬉しそうなピクシーボブは、最初に飛び出して魔獣を倒した4人と私を指さす。最初に指示を出したのを評価してくれたのかな。


「3年後が楽しみ!唾つけとこ!」


唾つけるって…物理的に着けてどうするんですか。汚いだけですよ。婚期に焦るのは女性として普通なのかもしれないが…私たちあなたの半分くらいしか生きていないガキんちょですけど逆にいいんですか?


そして話題はまだ小さい洸汰くんへ。


「えっと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷出久。よろしくね」


積極的にコミュニケーションを取りに行ったいずだけど…おーやるー。急所に綺麗な右ストレートでいずは戦闘不能だ!


「あれって痛いの?轟くん」

「…痛さでしばらく動けなくなる」

「ふーん」


急所であることはわかるが痛さのレベルはわからない。男子が女子の生理痛をわからないのと一緒で、知識としてはあるけれど体感することはできない。


「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」


とても悲しい怒りを持っている。まだ小さいのに何が彼を思い詰めさせているんだろうか。


「っふ、マセガキ」

「あいつ爆豪に似てねぇか」

「うん、そっくり」

「あ”あ”!?似てねぇわ!!」


似てると思うんだけどな。口が悪くて傲慢な感じ。他のやつらは理解できない格下のモブ。そんな感じだった。


「ね、ねぇ爆豪くん…後で時間もらえないかな?話したいことがあるの」

「誰がてめぇなんかの話聞くかよ」


声を荒げるんじゃなくて静かな拒絶。嗚呼、これは本気で怒っているときのやつだ。


「話さなかったらそれはそれで怒るじゃないッ」

「クソスクエアの独り善がりの話なんざ聞いて誰が納得するかってんだ」


一筋縄じゃいかないことくらいわかっていたけど、こうもキッパリと拒絶されるとクるものがある。

そういえば、名前…呼ばれなくなったな。いつからかは思い出せないけどずっと”スクエア”だ。

彼に名前を呼ばれるのは認められている証拠みたいなものだから、私はそれに値しなくなったってことなのかな。


「部屋に荷物運んだら飯だ」

「「「「はーい!」」」」


お腹すいたな。お昼抜きだったから尚更だ。

空いたお腹と同じように、心も簡単に満たせたらいいのに。



【分掌】役割りを手分けして受け持つこと。




加筆・修正:2020/04/03
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