林間合宿、1日目朝。
「「環心キター!」」
「相澤先生が言ってたのクリアできたんだね!」
「先生もさ!もうじき戻るしか言わないから心配だったんだぜー?」
相変わらず皆世話焼きというか好奇心旺盛というか…そこに救われるんだよね。
「シオンちゃん」
「う、うん」
自分がコミュニケーション能力ゼロのヘタレになってしまったような感じがする。いずに背中を押されて一歩前へ出ると、怪訝そうに見つめられる。う”……気まずいよ。
「えっとね……休んでた理由はI・アイランドに短期留学していたからで」
「だからあそこに居たんやね」
「メリッサさんが言ってた”ココロ”って環心のことか。なら納得だね」
メリッサはアカデミーで一番よくしてくれた友人。いつのまに彼らと仲良くなったかは知らないけれど、目の事は言っていないようだ。
「でね、留学に至った大きな理由としては怪我を治療する為で…」
怪我なんかしていたっけ?という質問があるけど、していたの。目が見えなかったのというとリアクションは様々。
「えー!でもそれで生活できてたんならやっぱスゲーな!それに治って良かった!」
「何かあったら仰ってくださいね。私たちがいつでもおりますので」
何でこうも簡単に許してしまうんだろう。少しは怒っていいんじゃないかと思うのに、少しの心配と合宿に対する興奮。執拗に心配されないし、何なら興味のベクトルは合宿の方が大きい。
あまり大事にしないでほしいという私の気持ちが伝わったのかどうかは定かではないが、既に話題は合宿で何をするかになっている。
物間くんの煽りすら今はありがたい。
「だから言っただろう。案外難しくねぇって」
「仰る通りで」
スッと横に立って少しドヤ顔する彼は面が良いから尚更ムカつく。
難しいも何も…今日の晩ごはん何かな?くらいの関心だった。あっさりすぎて構えていたこちらが拍子抜けしてしまうほど。
「後はあそこで睨んでいる爆豪をどうにかするだけだな」
「……それが、鬼門」
意識を向けないでもモヤモヤしている爆豪くんは切島くんに当たっている。それで友情芽生えている君たち本当にすごいよ。
弁明するには新たに時間を確保して言葉を選ばないと。
彼のエベレスト級のプライドを傷つけたんだ。自分のした悪事は忘れるのに、人にされたことはずっと覚えてる質が悪い彼だから…和解、できるかな。
「バスに乗れ!出発するぞ」
「「「「はーい!!」」」」
合宿中にどうにかしよう。
*
*
「ここパーキングじゃなくね?」
雄英高の合宿1日目。休憩でバスから降りた瞬間に感じた違和感。パーキングでもないし、10分前まで後ろにいたB組はいない。
「よーう!イレイザー」
相澤先生が頭を下げて挨拶をしているプロヒーロー。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
「今回お世話になるプロヒーロー”プッシーキャッツ”の皆さんだ」
ほぅ、なるほど。これから起こるであろう理不尽に備えて髪の毛を結ぶ。コスチュームの時ですら結ばないけれど汚れるよりはマシだ。
ワイルドプッシーキャッツ。卑猥なネーミングに斬新なコスチュームだけど山岳救助において多大な活躍をしている。いずのナードな知識が正しいとすればあと二人のメンバーは…B組にいるのかしら。
おぉ……年齢は地雷。頭を鷲掴みにされたいずは「心は18歳」の餌食になっている。どんまい。
ローファーか…運動靴がよかったな。スカートだと下着が見えてしまうのは嫌だな。今さらバスに取りに入れそうにはないから我慢か。
「何準備運動してんだ?」
「轟くんもしておいた方がいいよ。見てあの相澤先生の悪い顔」
ニヤニヤとし始める先生とプロヒーロー。悪い顔だなぁ…マンダレイが指差した山の麓にある宿泊施設は歩いていくには骨が折れる距離。
「早ければぁ…12時前後かしらん」
「バスに戻れ!!早く!!」
「12時半までかかったキティはお昼抜きね〜」
バスへと逃げるがもう遅い。そこにはピクシーボブが進路を阻み地面へと手を添える。
「合宿はもう始まっている」
相澤先生の言葉は地獄への招待状か何かだろうか。ピクシーボブの個性で土に埋もれながらも誰も怪我をしていない様子から若干の優しさは感じるけれど。
「私有地につき”個性”の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この…”魔獣の森”を抜けて!!」
「なんだそのドラクエめいた名称は!?」
「雄英こういうの多すぎだろッ」
「文句言ってもしゃーねーよ。行くっきゃね!」
個性の使用が自由っていうならまずは状況把握をしないとでしょ。一帯に展開して……ん?
「あー……、みんな戦闘準備。来るよ」
「来るって何が!?!」
「………え、うそ」
「「「「マジュウだー!!」」」」
林間合宿1日目、はじまりはじまり。
【聴許】訴えや願いを聞き入れて許すこと。
加筆・修正:2020/04/03
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