林間合宿1日目、夜。
「温泉だ〜!!」
「露天風呂があるなんて素敵ですわね」
「うん、これは疲れとれそう」
美味しいご飯を頂いて休息の時間を堪能する。広い露天風呂は足を伸ばせるし、効能も…冷え症に良いのか。
「あ〜疲れがとれるよー」
「うっわ!環心白!胸でかっ!」
「っちょ!葉隠さん!後ろから来るの卑怯!」
「ん〜マシュマロボディですな〜」
「ちょっとッ…もう!」
胸だったら八百万さんの方が大きいし柔らかさなら麗日さんの方が柔らかそうなのにッ。なぜか標的にされてしまった女風呂のお胸事情。期末の時は合服で今日は半袖だったけど……見慣れていないせいかかなり興味を示されている。
「うひょー!ついにその絶対防御がそこに!!壁とは超える為にある!!”Puls Ultra”!!!」
え…峰田くん?壁に張り付いていた音が下から上へ…上ってくる?
「ヒーロー以前に、人のあれこれから学び直せ」
「クソガキィィイイイ!」
仰る通りです。峰田くんはヒーロー以前の問題です。入浴の監視役として性欲の権化を退治してくれたのは塀の上で待機していた洸汰くん。彼によって私たちの入浴の平和は保たれたけど、こちらを見てしまった瞬間驚いて向こう側へ落ちてしまった。
「だ、大丈夫!?」
「気絶しちゃってるけど受け止めたから大丈夫!」
咄嗟に動いたいずにより怪我をすることはなかったらしいが…なんか、ごめん。
*
「ちょっと夜風に当たってから部屋に戻るよ」
「わかった〜」
「湯冷めしないようにねー」
バルコニーで一人風に当たり上を見上げる。
都会とは違って山の星は綺麗だ。夏より冬の方が空気が澄んでいるから星は綺麗に見えるはずなのに、冬に自宅で見たものよりも夏のこの場所の方が断然綺麗だ。
見えるってほんと感謝しないとな…
「寒くねぇのか」
「平気だよ、轟くん」
体育祭が終わってから話す機会が増えた彼。目が見えないときから何かと気にかけてくれていたし、今だって声をかけたのは一人で何してんだ?って感じかな。
「一人で何してんだ、こんなところで」
「っふ……星が綺麗だなって見てただけ」
すると肩に上着をかけてくれた。寒くはないがそれはお風呂上がりだから。山中の寒暖差は激しいためタートルネックのノースリーブではそのうち鳥肌がたつだろう。
「轟くんが寒くなるよ」
「俺に気温の概念はあんまし通用しねぇよ」
左側を積極的に使うようになった。明日からの強化メニューでは絶対にその扱いは組み込まれるだろうな。
「爆豪と話したのか」
「…話そうとしたけど拒否された。お風呂上がりにも声かけたけど無視されて…会話を始めることすらできないよ」
私が騙すようなことしてたのが悪い。それはもちろん理解している。
期末試験の時に、会話をして理解を深めなければこの先ずっと解り合えないだろうとは思ったけどここまで酷くなるなんて。沈んだ瞳を見ることが怖かった。彼に対して畏怖を抱くなんて。
「元から、嫌われてるから………むしろ私も彼のことが嫌いだから好かれようとは思わない」
「ああ」
「でも…なんか、寂しいなぁ…って」
*
*
「でも…なんか、寂しいなぁ…って」
「普段の貶し合いもなくなって…ここに着いたとき、いつも通りに話せてるって思ったのに……明らかな拒絶されて」
「爆豪くんはね、認めてる人の名前はちゃんと呼ぶ傾向があるの。それがなくなっちゃった…」
「なんでアイツのためにこんなに悩まないといけないんだろうって思うけど…彼は彼なりに私のことを心配してくれてたみたいだし…」
「悔しくて……涙、出てきた…ッ」
アイツの腕の中で泣いている姿に傷ついた。俺こそあんなクソスクエアのために傷つかなきゃなんねぇんだ。
今まで他人だったやつの胸を借りるのは俺への当て付けか?声を震わしながら涙を流すのを初めて知った。
「バーカ…話くらい聞きなさいよ、このわからず屋…ッふ、すり抜けていくのはそっちも同じじゃないのよ……」
いつの日か俺が思ったこと。あいつ視てやがったのか。
やっと本音を言ったかと思えば、それは俺ではなくあの舐めプの半分野郎。とっとと俺に真実を話して許しを請うていれば許してやらんこともなかった。
どんなに泣いて謝られても今はその謝罪を聞きたくないし、許しを与えたくない。認めたりなんかするもんか。
壁に隠れて聞く会話は声が小さくなり、風の音が気に障るようになる。今はもう嗚咽しか聞こえない。
縋る矛先間違えんな。
だが傷ついた心を癒すのは、俺の仕事ではない。
【心頼】
心の中で頼りに思うこと。また、そのものや人。
加筆・修正:2020/04/03
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