林間合宿前日、自宅。
「何でギリギリになるかな」
「まぁそんなに怒らないで」
「怒ってない」
うるさいなぁ、もう。雄英高から書面で言い渡された「目が治るまで学校に来るな」から早1ヶ月半ほど。細胞移植も無事に終わり眼球の完全再生を果たした。
医療の最先端ってすごい。見えなくて苦しかった期間と治療の時間は後者の方が短期だった。
でも治療先であるI・アイランドでの騒動のせいで帰国予定も大幅に延びてしまったことは誠に遺憾である…あの敵め。
「怒ってないでリフレッシュして来れば?準備は終わったんでしょ?」
「…走ってくる」
「久々に日本の海でも眺めてきなよ」
家に帰って明日の合宿の準備をする。決して怒っている訳じゃない。ゆっくりする時間がほしいと思っているだけだ。
日本にいて外で個性を使わずに歩くのは新鮮に感じる。こっちの方が暑いな。日差しが眩しい。
眩しい、か…眩しかったら目を細める。それはごく当たり前。それが期末試験の時はできなかった。
ランニングしたら余計なことを考えなくてすむと思ったけど……やっぱり考えちゃうなぁ。
考えすぎて海岸沿いまで来てしまっていた。真夏の日中に走るもんじゃない。ペースダウンしてぬるくなったドリンクを体内へ入れるけど、日焼け対策で着ている衣服からは熱が逃げない。
暑い…けど磯臭い潮風が熱を奪っていく。いずが綺麗にした海岸だ。ここで鍛えられたんだよな。
目の前に広がる地平線。広がった砂浜と太陽で反射した海が綺麗だ。ずっと見ていられる。
見えなくても生きていけると思っていたけど、この感動は視力がある人に与えられた感謝すべきものなんだ。
「シオンちゃん、おかえり」
「い、ず…?」
あの時みたいな疑念はなく晴れている。何で?
「よくここでトレーニングするんだ……君が海を眺めているのが見えて…。目は治ったんだね」
「……治ったよ。I・アイランドで治療したの。USJの後から眼球の破損で見えなくて、個性で視て生活してた。黙って騙すようなことしてごめんなさい」
視線が下がってしまった。隠し事がバレた小さい子どものように気まずい。話すことが纏まっていないから、どう言い訳をしたら良いかわからない。
「こっち向いてシオンちゃん…わかってるよ、考えなしに隠してたんじゃないって」
「私…バレなきゃ言わないつもりだった」
「話してくれなかったことはショックだったよ」
見つめられたら反らすことはできない。優しくて強くい。伸ばされたゴツゴツの右手。
怪我をしたのは知っていたけどこんなに傷だらけだったんだ。形も歪でリカバリーしきれなかった負荷が現れている。
「君は、オールマイトを信じる僕のためにヒーローになることを決めたんでしょ?」
「聞いたんだね…」
「うん。そして隠した理由を考えたんだ。かっちゃんが言ったように意地もあると思うけど、君は昔から利他的な子だって知ってるから」
小さい頃はおでこを合わせて感情を視ていた。大きくなるにつれてそれを行う機会は少なくなったけど、大事な儀式みいたいなもの。こんなに暑いのにくっつくなんて、端から見たらバカップルかってなるな。
「ごめん。結局は自分本意な嘘だったかも」
「僕はそう思ってないよ。きっとクラスのみんなも。まぁ……、シオンちゃんが学校に来なかったから騒いでいたけど…」
明日の合宿の時は質問攻めだ。轟くんが言っていたみたいに、あっさり許してくれたいずは太陽みたいに温かい。否、暑い。
「いず、ありがとう」
「僕もいつもありがとう」
気分転換のランニングのつもりだったのにずいぶん遠いところまで来た。それに思わぬタイミングでのカミングアウト。
爆豪くんに話すときはすんなりいくとは思っていないけど、殴り合いの喧嘩にならなければ良いな。
「帰ろっか」
「そうだね…、どっちが先につくか勝負ね!よーいスタート!」
「ちょっと!!それズルいって!シオンちゃんただでさえ速いのに!」
明日からはもっとキツい合宿が待っている。
私たちがヒーローになって活躍したら、今日の日のことを美しい思い出として語れる日が来るんだろうか。
…きっと大丈夫だって”しんり”が教えてくれる。
待ち受けるものは巨大な悪。隠れた悪もたくさん出てくるし、個性の使い方もまだまだ改善すべき点はたくさんある。
ヒーロー、ありがとう。これからもよろしくね。
【趣意】 物事を成すときの考えや狙い。
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集中できずに書いて完結させちまったぁ…脊髄反射でタイピングしたからクソ雄なデっくんが出てしまって書き直したよ……
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