セントラルタワー、風力発電システム。
どこからか聞こえてくる爆発音と揺れるエレベーター
BOOOOOOOOMB!!!!!
「死ねぇええ!」
死ね?
大規模な爆発のせいでエレベーターが止まってしまった。脱線したそれを戻さなければ管制塔には進めない……あの爆発絶対爆豪くんでしょ…ッ!
戦闘音のする方へ向かえば、轟音と共に爆煙に纏われて視界が悪くなる。こういうとき個性があってよかった。
さっきタワー全体を視たせいで気分がよくない。口枷が着いたまま吐くなんて大惨事じゃん…耐えろ、私。
「環心!?何でここに!?その口と手どうしたっ!」
どうした!はこっちの台詞よ、切島くん。警備ロボが赤く点灯し排除モードなのはわかっていたけど……残骸になった数からして相当な時間ここで戦っているのね。
「話はあとだっ!」
「んん”んん!」
左上半身を晒けだした轟くんもロボに奮闘している。お願いっ、この手の金属冷やして!
必死のジェスチャーでわかったのか氷で覆われる手首。しっかり金属のみを覆ってくれた。
冷やして、冷やして……あとは衝撃。
ガンッガンッガコン!!!
瓦礫に打ち付けるとブレスレットのように拘束が分かれる。腕に残っている金属は気になるけど自由になった腕なら存分に戦える。
近くに落ちていたパイプでロボの電子回路を一突きで破壊する。弱点さえわかればこっちのもの。
それを見ていた轟くんと切島くんは確実に仕留める。麗日さんも浮かせてサポートをしてくれるから戦いやすい。
…相変わらずワンマン爆豪くんは知らないけどねッ。
*
*
鼻で呼吸を整えるのはキツい。酸欠で頭が痛い。鼻血が出ているせいでちゃんと呼吸ができない。喉に流れる血液に噎せそう。
無理な個性使用の連続で体力的にも警備ロボを倒すのがキツくなってきた。パイプを持つ手は力が入らない。
キツいことばっかり。こんな状況で弱音なんて言ってらんないけどさ…ッ。
「環心!フラフラするな!しっかりしろ!!」
膝が地面と仲良くなる。肩をどれだけ大きく揺らしても入ってくる空気は増えない。
「環心さん!?」
「俺の後ろにいろ!!ぜってぇー守ってやる!」
盾となる宣言の切島くんの背中は広く頼り甲斐がある。しかしロボの数が多すぎて左側から…
「停まった……?」
厳戒モードのロボも緑色のライトが点灯して正常に戻っている。誰かがシステムを戻したんだ…
視えたのは、メリッサ…?
メリッサが最上階でシステムを復旧させている。さすがアカデミーの優秀な科学者の卵だ。
轟くんに腕を引かれながら騒音の中心…敵の本丸と戦っているである屋上へ向かう。息が整っていないから今の私は足手まとい。足が絡まって走れないし、ホント力、入らない…
「悪ぃ、」
「ん"?!」
一応謝罪の言葉を入れてはくれたけど俵担ぎはお腹が痛いよ、轟くん。他意はないんだろうけど麗日さんと切島くんは目が点になってる。
どちらにせよ酸素が足りない。耳鳴りがしてきた。
*
空中で金属を全身に纏い巨大になった敵はオールマイトを潰そうと手を伸ばす。
「オールマイト!!!」
目の前で繰り広げられる戦闘で俺ができることは、コイツをブッ飛ばすことだけ。
クソデクが振るう拳は癪だがとっとと殺れ!
「行けー!」
「「オールマイト!!」」
「「「緑谷!!」」」
「「ぶちかませ!!!」」
光と共に崩れ落ちる金属。それは敵を倒したことを意味しており、朝陽も祝福しているかのよう。
ふぅっと息をつき周りを見渡せば酷い惨状だ。科学の結晶であるタワーは崩れ落ちはしないものの、これじゃ明日のIエキスポは中止だろうな。
「環心!?」
焦ったような声に振り返ると地面に伏せたクソスクエア。口を拘束していた器具は完全には外れていない。
様子がおかしい。
モタモタしてる奴らを押し退け頭を鷲掴み無理やり器具を引き離す。敵の個性は切れていたが、案外力を入れないと外れなかった。締め付けの跡がついている。
…唇が少し紫がかっている。酸欠でチアノーゼか?クッソ、フラフラしてやがったのはそのせいかよ。
口元を遮るものは無いというのに呼吸は正常には戻らない。あん時みたいに人工呼吸しろってか?ふざけんなやッ。今のてめぇなんかに誰がしてやっか!
バチン!!
「ひぇっガチビンタかよ!?そっちの趣味?」
「っちょ爆豪くん乱暴にしたらあかんって!」
モブの言うことなんか聞いてられっか。真面目にしとるわ!
「息しろや!!クソスクエア!!!」
すると思い出したかのように大きく吸い込まれる空気。噎せて咳をしたとき血が混じっていたがこれは鼻血のだろう。
荒い呼吸は落ち着きをみせ、唇も色は戻ってきた。虚ろな目もその内戻るはず。そう思っていたのに瞼は落ち脱力した。
「オイオイ…これってヤバイんじゃねーの?もしかして………死ぬのか!?!?」
「医者を早く呼ばねば!!」
「私が担架を創造致します!そちらへ!」
何を勘違いしてるのか知らねーが、ぐうすか寝てるコイツが命の危機な訳ねーだろ。
「アホか。寝とるだけだわ」
てめぇは何回俺の腕の中で寝る気かよ。毎度毎度死にかけやがって…そのくせ一人で突っ走って頼ろうとしねぇ。
ザコなお前はなでもかんでも背負い込む。
肌触りの良いタイトなグレーのドレスから覗くのはスリットの入った脚のみ。拘束されていた手首の怪我を見るため袖を捲れば赤い跡。顔面に何かが当たった跡はあるが鼻血だけで、外傷は他には見られないからそこら辺に転がしといていいだろ。
「爆豪!環心下まで運んでやれよ!」
「あ”!!?何で俺がこのクソを運ばにゃなんねーンだ!!」
「できねぇのか?なら俺が代わるぞ」
「できるわボケ!でしゃばんな半分野郎!」
「じゃ頼んだぜ!俺は上鳴運ぶから!」
チッ…何で俺がこんなやつ。背中に抱え直してみれば、冬に登山で使うザックとそんなに変わらないくらいの重さ。いや、コイツの方が重いけど。
不本意ながら最後尾を歩くと目の前には半分野郎。俺の前を歩くんじゃねぇ。
「環心の目、たぶん治ってたな」
「は?」
「帰ったら聞いてやれよ」
学校に来なくなったのも治療のためだろうとは思っていた。さっきの戦闘からも見えているような気はしていた。
何でお前が知ってンだよ。俺には…ましてやクソデクも知らなかったコイツの目のことを、舐めプであるお前は何で知っているんだ。舐めプ同士仲良くってか?
心底腹が立つ。
黙っていたクソスクエアにも、当たり前のように知っている半分野郎も…隠されていた自分にも。
*
*
「ああ、Ms.環心!」
「君、彼女を助けてくれてありがとう!」
下の広場につくとI・アイランドの研究者らしき連中に囲まれてスクエアを回収される。結局目が覚めなかったため問いただすことも、責めることもできなかった。
次の日にお詫びとして開かれたバーベキューにさえも顔を出さなかったあいつは、研究チームのデータ復旧に馬車馬のように働かされているらしい。
デクが何処にいるのかと喚いていたがウザったくて肉が不味くなっちまうからその場を離れた。
感動の再会なんてあるわけないし、そもそもあの状況ではそんなことも言ってられなかった。1ヶ月クソの顔見なくて済んで清々していたのに、癪の種は簡単に現れた。
不快さは宙ぶらりんで帰国する。
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