皺寄というもの

期末試験、実技。


『演習試験、Ready Go!』


始まってしまった実技試験。ここに移動してくるまでにいずは爆豪くんに会話を試みたけど全く聞く耳を持ってくれない。


「オールマイトと戦うのは危険というか愚の骨頂だと思うから…って待ってよかっちゃん!」

「着いてくんな!!」

「着いてくも何も進行方向はあっちよ……って言ってもオールマイトがど真ん中で待ち構えてる」


会話のキャッチボールなんてあったもんじゃない。いずのはひたすらエラーで爆豪くんは暴投。私は1塁へ投げている自覚はある。


「ここは迂回してっ」

「何で逃げなきゃなんねぇンだ。倒した方が良いに決まってる」

「戦闘は何があっても避けるべきだって!!」

「終盤まで翻弄して疲弊したところを俺がぶっ潰す!!」


アンタ一人でどうにかなるわけないでしょ。倒すことはおろか、オールマイトを疲弊させる前にこちらがダウンするのは目に見えている。


「…私はゴールさせてもらえないだろうから…どっちかがくぐって」

「!?君もオールマイトと戦り合おうっていうのか!!?」

「機動力のない私が彼を振り切ってゴールなんてできない。3人で隠れてゲートへ向かっても、見つかればアウト。パワーはないけど一番翻弄できるのは私」


苛立ちと焦りが募る私たちに打開策なんてもの存在しない。完全にキレてまともな思考ができていない。


「うっせぇんだよ…これ以上喋んなッ」

「!、来る!!!!」


凄まじい風圧と共に感じる大きな存在。味方にいれば心強いのに、敵だと裸足で逃げ出したくなる。むしろ全裸で逃げちゃうんじゃない?


「街への被害などクソくらえだ!」


なんだ、

この威圧感は。


「試験だ等と考えていると痛い目みるぞ。私は敵だ…ヒーローよ。真心込めてかかってこい!!」


一瞬息ができなくなった。呼吸が震えてる、気持ちで負けているんだ。このまま戦闘に持ち込まれたらダメ。二人だけでも逃がして体制を整えてもらわないとっ。


「逃げて!」

「俺に指図すんな!!」


このわからず屋!最大威力を連続して撃たないと大したダメージにはならないのに何をやってるの!?

スピードでは爆豪くんに敵わないため彼へのフォローが間に合わない。オールマイトに撃ち込まれる爆破も音的に強いものじゃない。

足下に飛び込みバランスを崩させる。それでも体幹がしっかりしているため、爆豪くんを地面に叩きつける手は緩んではくれなかった。

本当に彼も本気で私たちを潰そうとしている。例えどんなに仲が悪くとも、追い込んだ果てに協力させて活路を見い出させるための試験、か……にも関わらず彼がシナリオ通りに終わらせてくれるはずなんてない。


「糧には、なってくれないんですか!?」

「君は後回しだっ」


オールマイトのパンチの速さといったらない。ギリギリで避けたが顔面を狙っていた。その衝撃でアイマスクと髪の毛が落ちる。


「君の個性は厄介だし戦闘方法をわかっているからね…先に集中できていない二人を仕留める」


させるかっ。

行く手を阻みできるだけ時間を稼ぐ。今は足を止めさせるだけで良い。

ミリオ先輩に今度ジュースを買ってあげなきゃ。繰り返される訓練の中で、戦いながら個性を使って攻撃を避ける方法を見つけた。あれがなければ私はとっくの昔に追い払おうとするオールマイトの手に捕まりリタイアしている。


なかなか当たらない攻撃に感心してくれてるけど…私の蹴りや拳は軽すぎて効いてない。ナイフも使っているのにまるで刃は通らない。


「じゃあこれはどうだ!!」


最初と同じ風圧を伴ったパンチ。その範囲は避けることができずナイフを地面に突き立てて身体が飛んでいかないようにする。

いった…破片が飛んでくるのが視えず目に入った。おまけに風に耐えてて防御が間に合わず蹴りを食らってしまう。


「そして君も君だ緑谷少年…チームを置いて逃げるのかい?」

「いずっ!!そっちはっ」


背後に来ていた爆豪くんに気づかずぶつかってしまう。連携なんてあったもんじゃない。共倒れしている場合!?


「勝つんだよ…それがヒーローなんだからッ」


大きな壁を目の前にして勝ちたい気持ちがなくならないのは尊敬に値する。でも今は気持ちだけじゃどうにもならない。

いずはセーフティフェンスで地面に縫い付けられるし、爆豪くんはオールマイトの一撃で吹っ飛んでいる。


「あのクソの力借りるくらいなら…まだ、負けた方が、マシだッ」


は?

何よ、それ。

何なのよ、それ。


さっき勝つのがヒーローって言ったじゃない。最後には勝つんでしょ?負けたくないんでしょ、本当はっ。


「シオンちゃん…いくよ」


彼からも勝者でありたいと願うなら何故そんなことを言うんだと不満が垣間見える。


「負けた方がマシだなんて君が言うなよ!!!」

「勝ちたいくせにッ、意地張って嘘つくんじゃないわよ!!バーッカ!!!」


殴って救出。


私たちに足りないものは理解と会話だ。




【皺寄】
矛盾や不都合な点などを自ら解決しないで、他に押しつけること。
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