暗礁というもの

期末試験、実技。

一瞬の不意をつき全力ダッシュで身を隠す。爆豪くんを抱えたいずはどこに行った…


ドンッ


遠くで微かに聞こえた爆発音。視てみると案の定怒りに身を任せた彼がやったのか。

これ以上やったらせっかくの態勢を立て直す状況さえも無駄になってしまう。急いで彼らのもとへ駆けつけて説得させなければ。


「テメェ黙ってろぶっ殺すぞ!!!」

「爆豪くん!何やってるの。下らない意地張ってないで試験にクリアすrウグッ」


怒った彼には私の言葉は着火剤にしかならないようで胸元を掴んでいずとは反対側の壁に押し当てられる。


「何、すんのよ」

「ヴ……シオンちゃん?」

「ッ…やっぱ、見えてねぇんじゃねぇかッ!!!」



今、何て言った。

何を、したの…?やっぱりって、?


胸元を締め付ける彼から伝わってくるのは、怒りと悔しさだ。この期末演習だけで明らかにフラストレーションが溜まっていて、それが雪崩みたいに迫っている。


「見えてねぇクソスクエアに説明してやるよ!…お前俺の閃光に何の反応も示さなかったンだよ!!」

「っ!?」


閃光…まずそんな攻撃手段があったことすら知らない。私の記憶に残っている彼の目眩ましは爆破を含めた爆煙。そんな高度技術も身に付けていたんだ。見えなくなってからその技披露するとか卑怯じゃないかッ。


「初撃オールマイトに閃光弾食らわせたときもそうだった…あんときはアイマスクで回避したのかと思ったけどよぉ。見えてたら反射で目瞑るし瞳孔も縮むよなぁ!??」


全てにおいて力不足。

全てにおいて準備不足。

全てにおいて注意不足。


”しんり”を余すことなく使えていたらこんなことにはならなかったのかもしれない。光という概念は久しいもので頭から抜け落ちていた。

荒い息遣いが感じるくらい目の前にいるのに、彼の顔は見えない。


「テメェこそ下らねぇ意地張って俺をバカにしとンか!!!」

「クッ、バカになんか「してんだろーが!!!」」



[いつまでたってもすり抜ける]

[必死こいてやってもまだダメなのかよ]

[あん時テメェを救けたのは俺だッ]



強い、想い。

動揺が顔に出ているのがわかった。彼は今まで真実を知りながら私の動向を観察していたのか。退院した日声をかけてきたのもそういうことか。わかりにくいんだよ、とんだ茶番じゃないか。


「…ッその話は後で詳しく、聞かせてもらうからね、シオンちゃん……今はオールマイトだ」

「クソッ……」


いずからは疑念が絶えない。失望させてしまった。こうなることが怖くて黙っていたのに。


「ッチ…勝ってやる」


 *


策をどれだけ考えてもシンプルな強さで捩じ伏せてくる。怒りは力に変わるがそれすらも蚊程度にあしらわれる。爆豪くんとの連携なんて目にも当てられなかった。私の言葉なんて聞きやしない。

籠手は壊されたし、彼はもう最大威力を何回も撃てない…ッ、爆破はなくなりかけのスプレーみたいな音しかしなくなった。


「はよ、行けやクソナード」


力ない命令だ。掠れた声は悔しさを内包する。


「折れて、自分をねじ曲げてでも選んだ勝ち方で…それすら敵わねぇなんてっ、嫌だ…ッ!」


いつまで私は壁にめり込んでいるつもりなの。ナイフは使いきった。拳は痛くてもう全力では打ち込めない。足だって生まれたての小鹿より酷くボロボロだ。

でもッ…そんなこと、言ってる場合じゃないでしょ。泣きながら懇願した勝利を、叶えなきゃダメでしょ。


「退いてください!オールマイト!!」


オールマイトの攻撃で腰椎すべり症か…腰部挫傷になったはずのいずだって痛みに耐えて、勝ちにいっているんだ。動け、動けよ!


「邪魔させるかッ!!!!」


戦闘によって破損した電柱を蹴り倒すことでオールマイトの進路を塞いだ。確保テープほどじゃないが耐久性のあるテグスで少しでも時間を稼がないと…ダメージで動きが鈍いいずがゲートを通るまでおよそ1分。


「特殊性フロロカーボン80号ダブルクリンチノットを改良した結び方です。動けば肉に食い込んでナイフより痛いですよ……いず!急いで!!」

「shit!!環心少女、君ってやつはなんてやつなんだ!」

「はは………バカ、やっちゃうんですよッ」


勝てる見込みもないのにオールマイトとこんな風に対峙するなんて、冷静な思考を持っていない証拠。実力差は蟻と象。小さなアリは人間に踏み潰されたら終わりなんだ。

でも知ってます?じゃんけんでいったら蟻は象に勝っちゃうんですよ。その大きな耳に噛みついて痛みをもたらす。


「………身が焦がれそうなほど大好きだから、輝きを失いたくないから…盲目的になっちゃうんですよねぇ」


その人のために在りたいと思うから傍にいたいんだ。ベストジーニストのサイドキックたちが良い例かな。あそこは心酔者の巣窟。

私はヒーローのためにできることをするんだ。


「茨の道を行くというのなら先に行って少しでも歩きやすいようにしたい」


「引き摺り下ろそうとするモノがあるのであれば私が切り離したい」


「道に迷ったのなら指し示してあげたい」


「辛く折れそうなことがあったら守りたい」


とても感情が高ぶっているのがわかる。感情が高ぶって涙を浮かべるなんて、どっかの誰かさんたちの性格が移ってしまったようだ。


「それが、リードヒーロー”ハーツ”です……真心込めてッ、行かせてもらいます」


残り30秒。食い止める。




【暗礁】
水面下に隠れていて見えない岩。急に遭遇した困難。
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