知慮というもの

職場体験初日夕方、ナイトアイ事務所。


「いやー君がいるって聞いて来ちゃったよね!久しぶりシオンちゃん!」


自分の個性を見つめ直していると、騒がしくドアを開けたのはミリオ先輩。私のスカウトを進言してくれた恩人みたいなものだ。学校終わりに来たらしく明日から何日間か行動を共にする。


「お久しぶりです。お世話になります」

「うん!俺も楽しみにしていたんだよね!早速だけど組手でもするかい?」


今日の職場体験は説明ばっかりで先ほど終了した。ラフな格好に着替えて後は準備してもらった宿泊施設に行くだけだがまだ17時。外も明るくホテルに籠って無駄な時間を過ごしてしまうのはもったいない。


「サー上借りても良い?」

「良いが全裸で落ちてくるなよ」

「善処するよね!」


ミリオ先輩の個性は透過。物理攻撃を受け付けない。しかし透過すると空気や光、音も通り抜けてしまうため扱い方が難しい個性だ。相澤先生が、お前の行く事務所でインターンをしている3年はプロを含めても最強だと言っていた。

変な奴で、最強。一癖も二癖もある先輩と組み手をするのは楽しみだ。


「怪我はもういいのかい?」

「はい、完治しました」

「目も?」


よく観察しているのか、ただのまぐれか。これからお世話になるし、いずれはサーやサイドキックたちに聞かされるだろうから嘘はつけない。正直に損傷が激しく失明状態にあると説明したら明らかに落ち込んでいる。


「治る見込みがあるなら大丈夫だよね!それに俺のオチ○チン見えなくてすむし!」

「…」


オープンすぎる先輩に頭痛を覚えながらもストレッチを行う。物理攻撃は100%無効、というわけではないだろう。先輩だって攻撃してくるし、個性を展開させて攻撃のタイミングを見計らえばいい。先生が最強だと言うんだ、簡単に勝てるとは思っていない。でも、負ける気も更々ない。


「胸を、お借りします」

「かかってこいよ!可愛い子ちゃん!」


 * 


「私……惨敗したの母以外で初めてです」

「俺も初見で一発当てられたのはビックリしたよね!」


想像以上に先輩は強くて歯が立たない。個性で姿を消したと思ったらすぐに現れ背中に一発。カウンター狙いでそれを読まれ頭を床に打ち付けられた。最後どうしても一矢報いたくて相討ち覚悟でわき腹に一発入れたら左頬に強烈なのを食らった。


「女の子の顔殴っちゃったっ、ごめんね?」

「冷やせば大丈夫ですよ。遠慮される方が癪です」


頭がクラクラする。失明状態での激しいタイマンは久しぶりだ。先週授業でしたけど上鳴くんが相手だったから割りとすぐに終わったし。展開し続けると疲弊して制御が上手く出来ない。

それに範囲外に出てしまわれたら再び探るのはめんどくさい。トリッキーで動きが読めない先輩は、逆に私の動きを予測していた気がする。

これが雄英トップの実力。世界は広く上は遥か先で見えない。


 * 


「痛たた」


着替えを取ってホテルに行こう。強いのを3発。背中、頭、頬。等しく痛みが優しくない。互いに本気ではなかったため大した怪我ではないが普通に痛い。


「ハーツ、ミリオは強いだろう」

「はい、とても」

「予測しての戦闘は私を参考にしているらしいが、それはミリオの努力なしに成し遂げることはできない芸当だ」


横からぬっと現れるサーにユーモアよりホラーを感じる。

透過というシンプルで地味な個性。あそこまで強くするには私がした努力とは比にならないくらい沢山の経験を積んでいる。視なくとも拳で教え込まれた。


「私は戦闘はもちろんするが個性柄調査をする事が多い。だからお前に指名を入れた。次の私を育てるために。あの課題もそのためだ」


サーから聞く私を指名した理由。てっきりミリオ先輩が薦める後輩なら…っていうので指名をされたのが大半だと思っていた。私の可能性を私以上に見ていたなんて。強い期待に鳥肌が立つ。


「他にも指名が来ていたらしいが、なぜここを選んだのか聞かせてほしい」

「……最初は、私の知らない世界を見ている貴方に興味を持ちましました。私は今までを視られるけど、未来を視ることは出来ないから」


他の二つの事務所もとても魅力的だった。ただその個性故に相手の動きを読んだかのような戦いをするヒーローに私と近いものを感じた。そして一番は、


「ヒーローを支えることを知っている貴方と話してみたいと思ったから……」

「……オールマイトか」

「はい」


実はサーの事務所に決める前、彼がサイドキックをしていたオールマイトに話を聞いていた。とても優秀なサイドキックであったと。

私もヒーローを支えるヒーローになるという目標がある。サーが何を思いオールマイトの為に尽くしたのか。何故大好きなオールマイトと分かたれてしまったのか。

視えない未来と戦う貴方は。


「教えてください、ヒーロー、サー・ナイトアイ」


誰よりも、英雄を想っている。



【知慮】 先の事、細かい事まで見通す知恵。
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