認知というもの

職場体験2日目、朝礼。


「おはよう諸君。今日もユーモラスにいこう」


「「「「はいっ!」」」」


怖い顔してユーモアを語るサーの挨拶から始まった朝。今日は午前中は捜査依頼があるらしくそれに同行する。午後はバブルガールとミリオ先輩と事務所で組み手をしながら留守番。


「ハーツ何か掴めたか」

「いいえ。考えを見直して余計にわからなくなりました」


基本的に彼は長ったらしく報告されるのを嫌うらしく端的に答える。昨晩も考え遺留品であるチェーンのわっかを掌で転がした。サーが私のために特別に検察から奪い……譲り受けたらしい。

目的地へ向かう車の中で自身の実力不足を痛感する。期限は残り6日。それほど急を要する案件なのに何も出来ない。


「早く糸口を見つけるんだな。敵は待たない」

「はい」


厳しい口調だがそれは私を鼓舞するもの。昨晩サーの想いを聞いて、視たため彼の優しさを感じとることができる。今からプロの現場だ。


 * 


捜査の依頼を受けてからの手続きや実際の現場を見せてもらった。特に何をするでもないが嫌な感情が充満していて居心地はよくなかった。

この感じはUSJに敵が侵入してきたときと似ている。言い表せない邪気に蝕まれているような感覚。

あの時は確か正門に触ってみたら視えたんだ。敵の無邪気な悪意が。あれ、人じゃなくてモノから感情が伝達してた…しかし今はこのチェーンの欠片に触れても伝わってくるのは構成成分だけだ。

何が違うんだろう。


「そんなにボーッとしてたらサーにヘル行きにされちゃうぞ!」

「煮詰まっちゃって…」


先輩が言うヘルというのは擽りマシンだ。使用している所に遭遇したことはないが、彼曰く地獄そのものらしい。

自分の個性がわからなくてこんなに悩むとは思っていなかった。物心つく前からあったものだし、自己分析は得意な方だ。個性分析だって真理を感じることで解っていたつもりだった。

そう、"つもり"だった。


「先輩は自分の個性についてどこまでわかっていますか?」

「今はかなり解っているよね。でも俺は1年の時ドベまで落ちた。その時は理解なんて全くできていなかった」


ミリオ先輩の努力は昨日の訓練で肌で感じた。強い個性にするということは自分の弱さを認め、見直すこと。


「ワープみたいになるなんて最初はビックリしたよね!それを戦闘で使うようになってから俺は強くなったし使わなくても強くなるように鍛えた!」


トリッキーな動きは彼の努力の結晶。私にもそういうバグがあるのかもいれないし、サーが言ったように過程をすっ飛ばしている事があるのかもしれない。


「煮詰まったら頭空っぽにして全てを受け入れる準備をするんだ!そうしたらたくさん吸収できるよね!」


相変わらず強引だけど理にかなっている。私は常に考えて動くことが正しいと思っていた。でもたまには何も考えずにリセットすることも必要なのだろう。後ろにしれっといたセンチピーダーも肯定的な反応を見せている。


「午後は頭空っぽにして組み手をしよう!本能のままにかかってこい!」

「先輩ありがとうございます。今度は勝ちますから」


 * 


同日、夜。

今日も先輩に負けた。しかも一発も入れることなく。バブルガールに怪我の手当てをしてもらいベッドにダイブする。本能のままに戦うと個性で細部まで探らない分どこにいるのかわからなくなる。

ただ収穫はあった。先輩に触れられた瞬間だけ考えが読めた。明確に。いつもは感情の輪郭しか視えないものが思考へ干渉していくのがわかった。

結果としては次の攻撃を視て避けるまでしかできなかったけど、確実に"しんり"の可能性を広げている。


心理、心裏、審理。それぞれが欠けてはいけない。もし1つでも欠けてしまうと真理には辿り着けない、か…

例えばRGBやCMYKのようにどれかが欠ければ中心の色はできない。たぶんそういうことなんだと思う。今の私の状態は予め用意されている白や黒を使って世界を彩っているだけ。カラーが欠けている私の世界は単調で味気無い世界。


頭空っぽにして、すべてを受け入れるだけ。なにも難しいことはない。感じて、受け入れる。強い感情が勝手に入り込んでくるときと同じような感じにすればいいんだ。欠片を握りしめ受け入れる。


「私に教えて…?」


 * 


サーの言うことは無茶苦茶だけど間違ってはいなかった。きっと喉が乾いたから宇宙人に会いに行って水を貰ったんだ。最終的には乾きを潤すことができた。


「サー…どうしよう……視えたッ」


視えるものは赤。
その赤と共に私の思考は落ちていった。



【認知】
ある事柄をはっきりと認める、外界を認識すること。
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