体育祭1週間前、病院。
「君は相澤先生じゃないんだから無理しなくても良いんだよ?!」
「そうですよ、まだ骨はくっついただけで脆いんですしっ!左腕だってまだボロボロよ?」
「元々動き回れるのに先生たちが過保護すぎるんです。あとの怪我はリカバリーガールに治してもらいますから」
およそ1週間の病院軟禁生活。体力の回復を待って、助骨の治癒と腕の砕け散った骨を取り除く手術。盲目の中個性を使った歩行訓練。一番歩行訓練に費やした時間が多い。視すぎないように個性を使って歩くのは以外と難しいということを知った。
敵に打たれた薬の影響か体力の回復が遅くてなかなか怪我の治療も進まなかった。
目は瞼の皮膚は再生してもらい傷が残っている状態である。まだ、視力は戻らないが早い時期に専門機関で治療をできるようにお願いはしてる。
「僕は娘を学校に送っていくので一旦抜けますね」
「シオンちゃん本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、この子は強いから」
そう言って頭を撫でる大きな手からは比較的穏やかな感情が流れ込んできた。父の車で雄英に向かうが今から行ったら着くのはお昼休みか。まずは職員室に直行かな。
「目が覚めたときは反対してたくせに、なーにがこの子は強いよ」
「”フリ”だよ、”フリ”。意思確認じゃないか。生半可な気持ちでヒーローを目指しているわけじゃないのは知っていたけどね」
お見通しだと言わんばかりの口調だが、きっと2割くらいは本音が入っていたはず。心理の方が使えればおちょくられることもなかったのに。
「心配しているのは本当だから」
次いでみたいに言われた本音は、ありがたいが有り難みに欠ける。ヒーローを目指す子どもの親というのはこれくらい楽観視できないといつか心労で倒れてしまうから、これで良いんだよって…はぁ、今日の授業は何だったかな。
*
学校に着き職員室へと足を運ぶ。授業中だからか人の気配は周辺にはあまりない。
「失礼します、環心です。相澤せn「シオンちゃん!!」
相澤先生にお話があって伺いました。そう言うはずだったのに顔面に柔らかい何かが押し付けられる。
「ミッドナイト先生の胸に挟まれても私にはご褒美でも何でもないんですけど」
「相変わらずの辛辣ップリね。でも可愛いお顔が痛々しいわ…」
瞼の傷跡のことを言っているんだろうが生憎私にはそれが見えない。そんなに酷いのかな。瞼の筋肉も形成されてないから開けることもできない。
「これしとけ」
声と共に渡されたのは布。包帯はしなくてもいいって言われたんだけど、これは私のアイマスクだ。相澤先生何故持っているんですか。大人しくアイマスクをミッドナイトつけてもらいコスチュームの感覚を味わう。
「まだ皮膚がしっかり出来上がってないのに…ったくもう少し休んで回復してから来い。手間かけさせんなよ」
このアイマスクは通気性もよく粉塵防護は完璧だ。包帯でも巻いとけと言い出しそうな怪我の具合を説明されたが、棚上げしてません?
「今見えないのでなんとも言えませんが、相澤先生が反対押し切って退院したの知ってるんですから。声もこもってるから口許に包帯してますよね」
ゆっくりと個性を展開しキャプチャする。私よりも重傷も重傷じゃなの。左腕を骨折して吊っている私と、両腕だけでなく全身包帯の相澤先生。頭蓋骨まで骨折していたの?どちらか一人を休ませろという問いがあったのならば、間違いなく先生が選ばれるだろうに。
「雄英体育祭もあるんだ、休んでられるか」
素晴らしい心意気だがこんな状態で何ができるというのか。きっと日常生活もままならない。独り身だろうし誰が彼の身の回りの世話をするんだ。
体育祭ってそんなに大事なのかな。ヒーロー科の担任だし力注ぐのは当たり前か…いや、士気に関わるからもう少し回復させません?
「なら、私も休んでられませんね」
「お前体育祭は出るな」
厳しい口調で咎められた体育祭への出場。残り1週間もあるし怪我ならきっと治して見せる。目が見えないハンデを気にしているの?元々コスチュームはアイマスクで視界を制限していたんだ。今さらハンデにもならないだろう。
「ッ、怪我は明後日にでも治ります」
「敵のことだってあるだろう」
先生の言うことは何も間違っていない。だからこそ悔しくなる。ヒーロー科にとっては外せないイベントで、今回襲ってきた敵はそれを見ているかもしれない。私が出ることで敵が襲ってきたら…それも含めて大人しくしとけということか。
でも私だってヒーロー科の生徒だ。与えられるはずのチャンスをむざむざと奪われるのは嫌だ。
「お前には役割をやるからそう落胆するな」
「役割…?」
この声色はまずい。
「個性の特訓も含めているから、死ぬほどキツいぞ?せいぜい死なないように頑張れよ」
相澤先生からの死刑宣告に聞こえる役割って…
明日教えるからと青ざめる私にミッドナイトが同情から肩をポンと叩いた。
「相澤くんってSだけど虐めたくなっちゃう」
知らんがな。
【隔靴】
核心にふれないで、はがゆいこと。
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