臨時休校明け、HR。
「おはよう」
「「「「相澤先生復帰早ぇぇぇぇぇ!!」」」」
臨時休校を挟んでの学校再開にまさかの相澤先生。果たしてこれを無事と言うのだろうか。否、いわない。両腕をバームクーヘンみたいにぐるぐるにしてるし、顔面積98%は包帯だ。
「先生…環心は、」
「……意識は戻っている。回復し次第学校に来るから心配すんな」
「ちなみに病院は!?お見舞い行きたいっす」
重苦しく口を開いたのは切島くん。彼もあの場にいてシオンちゃんの怪我を見ているから心配なんだろう。
「何を言っている……戦いはまだ終わっていない」
「まさか、また敵が…ッ」
「雄英体育祭が迫ってる…っ!」
「「「「クソ学校っぽいのきたぁ!!」」」」
先生の厳しい目はあるものの盛り上がりを見せる教室。みんなそわそわしている。雄英高校の体育祭といえばオリンピックに代わると言われる日本の一大イベントで、知らない人はいないと言っても過言ではない。
体育祭の活躍次第でプロヒーローからのスカウトもあるし、卒業後は事務所にサイドキック入りがセオリー。名のあるヒーロー事務所に入るためにはここで結果を残すのが必要条件だ。
一方で敵の侵入により、開催に批判的な意見もあるのが現実だ。しかし、開催することで逆に雄英の危機管理体制の盤石さをアピールするとか。
幼少期から見て研究してきた体育祭に自分が出るのか…でも僕はもうオールマイトというNO.1ヒーローに出会って指導を受けているから…皆とは目標が根本的に違うのかもしれない。
*
昼休み。
「皆、私、頑張るー!!!」
昼休み、麗らかじゃなくなった麗日さんのヒーローになりたい理由。僕みたいに憧れで目指すものとは違う重い覚悟に飯田くん共々感動してしまった。
「そういえばデクくん、環心さんのお見舞い行ったんだって?」
「うん。彼女のお父さん大きい病院に勤めてて、そこじゃないかなって思って行ったんだ」
「環心くんは大丈夫だったのか?」
昨日、心配で居ても立ってもいられず彼女の父親を訪ねた。僕の推測は正しくて、彼女はそこに入院しているみたいだった。父親の奏雅さんには大丈夫だと言われたけど実際に会うことは叶わなかっのは心残りだ。
「集中治療室にいたから会えなかったんだよね、親族しか入れないみたいで。でもシオンちゃんのお父さんは大丈夫だって言ってたよ」
「そうか…早く良くなるといいな」
「体育祭…間に合えばいいんやけどねぇ」
麗日さんの言う通り怪我が早く治ればいいんだけど。体育祭まで残り2週間。僕たちにできることは、各々を鍛えることと彼女の回復を願うことだけだ。
*
夕方。
「ん…ぃった」
「シオン起きたかい?」
「とー、さん……?ここは、びょーいん、か」
酷い痛みと共に覚醒した意識に、自分の身に何があったのか思い出す。私、生きてる。敵に薬を盛られて息ができなくて、だんだんと脈が弱まるのを感じて…怖かった。
「朝にも目は覚めているみたいだったけど意識が混濁していてね。怪我の具合はどうだ?」
怪我の具合といわれても酷い痛みしかないよ。脳無にやられた左腕は痛みだけで他の感覚はわからない。複雑骨折で細かい骨は取り除かないと治りが悪くなるな。肋は…思ったより折れてる。内蔵は治癒の痕跡が視えたから個性で治してくれたんだろう。主犯にやられた目は…
「……父さん、目が、見えなくなっちゃった」
「ッ…」
私の個性は自分の身体の構造だって視ることができる。言い方は変かもしれないけど、損傷具合が自分で把握できるから医者よりも正確な判断ができる。冷静に自己判断するものの、ショックは大きい。
「両目の視神経が崩れてる。専門機関で…治るかなぁ…」
「…やはりそうなってしまったか」
私が眠っている間にも検査はされ、ある程度の怪我は把握していたみたいだが視力に関しては判断をしかねていたらしい。それも私の言葉で診断が正しかったと判断された。
「怪我はあるし、ハンデもできた。でも何より…生きててくれてありがとう」
涙声になった父の表情はみることはできないけどきっと泣いている。心配かけてごめんなさい。私が強かったらこんな心配かけることなかったのに。目が見えなくったって個性で日常生活はできるし、生きていれば傷は癒えるんだから。
「これからも心配かけるけど…」
「あと1分でも措置が遅ければ死んでいたってのに、まだヒーローになろうとでも言うのかい?……目も、見えないじゃないか」
らしくない父の反対。カマをかけているようにも聞こえなくはないが、それほどまでに今回のことは大きな事件だったんだ。小さい頃鉄棒から落ちて脱臼したのとは訳が違う。責められる言葉に申し訳なさを覚えるものの、こんなところで立ち止まってはいられない。
「それでも私は…」
理不尽な世界だからこそ、ヒーローに。
現実は受け止めなきゃ前に進めないんだ。
【嚥下】 飲み下すこと。
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