禍々というもの

午後、救助訓練。


「私、思ったことなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

「っは、はい!あ、蛙吹さん」

「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの個性オールマイトに似てる」


私を挟んで行われた会話に思わず表情が崩れそうになる。梅雨ちゃん周りをよく見る子だと思っていたけどまさかそこに感づくとは。


「まてよ、梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ?似てる比なるアレだぜ」

「…それにオールマイトは常時身体能力高いけど、いずは普段そんなにパワー無いわよ」


慌てすぎていつボロが出るかわからない。一応フォローはしたし切島くんもを始め大半の人はただの増強型だという認識だ。


「派手でつえーっつったら轟と爆豪だな!」

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそう」

「ンだどコラ!!出すわ!!!!」

「この付き合いの浅さでぇ、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってスゲェよ」


梅雨ちゃん君って子はさっきから的を射すぎてはいないか?そして上鳴くんの言葉のチョイスのセンスの高さに感動を覚える。

先程からクラスメイトの言動に戸惑いを隠しきれていないいずは、まるで天と地がひっくり返ったような戸惑いっぷり。


「わわわわわ」

「爆豪くんが弄られてるの新鮮だね。確かにクソの化身だから擁護できない。する気もないけど」

「うっせぇ!!クソスクエア!!!!こっち見んな目隠ししてろ!!」

「スクエア??」

「真面目ちゃんってディスってるんだと思う」


この関係は嫌いじゃない。1つの存在に畏怖することなく、認め合っている感じ。畏怖の対象といえば相澤先生だけど彼もなんだかんだ言って担任だ、優しい。昨日の放課後、混乱した私の話を辛抱強く聞いてくれた紳士的な教師。そして、今日の3人体制での授業。


 * 


「もう一人って13号!」

「水難事故、土砂災害、火事…etc、あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も、USJ(ウソの事故や災害ルーム)!」

「「「「((((ホントにUSJだった))))」」」」


13号が構想した災害救助訓練施設、略してUSJ。某テーマパークを意識したとしか思えないような施設だけど、それらは理にかなっていて設備は素晴らしい。


「えー、始める前にお小言を1つ、2つ、3つ…」


お小言がたくさん並んでいきそうな予感がしたが13号の演説は、ヒーローを目指す者として心に留めておかなければならないことだった。話を聞く前は少しゲンナリした感じがあった生徒たちも前を向く。


「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰って下さいな」


私の個性は殺傷能力はない。だから軍事格闘術MCMAPを修得したんだ。それは護身術として学んだけど人を殺すことだってできる。個性はもちろん自身が持つ能力も正しい使い方をしなければならない。ヒーローを一番近くで支えるヒーローになるために。


「よし、そんじゃまずは」


ビリビリビリビリ


「!!?…もしかして」


相澤先生の指示を妨害せんとするライトの不具合。USJ中央に現れた黒いモヤ。視るまでもなく解ってしまう嫌な気配に心臓が強く脈打っている感覚がする。


「先生…来ました」

「どうやら、そのようだな」


 * 


前日、放課後。


「先生、お話があります」

「どうした慌てて」


ノックもせずドアを開けた私に教室内にいた先生たちは珍しいものを見たような顔だ。職員室には数回お世話になっているし、ミッドナイトのお気に入りと認知されているから普段とは違う空気に違和感を持たせてしまった。誰でもいいから、早く聞いてくださいっ。


「さっき、門に触れたら視えたんです。あの原因はマスコミじゃなくて敵だった。明らかな悪意がありました。それと同時に遊んでいるような、楽しんでいるような感覚。未開のダンジョンに踏み入れて快感を得ていて…でも悪意があって、楽しさと一緒にグルグルしていて…ッ」

「落ち着け。俺たちもあれはマスコミの仕業ではないことには感づいていた。大まかなことを話せるか」


いつからそこにいたのかわからないが、私の不安を汲み取ってくれた相澤先生が諭す。隣には不安そうに覗きこむミッドナイト。大丈夫、あなたの味方だから、ここにはプロヒーローがいるんだから頼りなさいと優しく落ち着かせてくれた。


「敵が…雄英に攻め入ってきます」



 * 


 * 


「一塊になって動くな!13号、生徒を守れ」

「USJ内に多数、電波妨害あり…バリア壊したやつもいます。先生っ」

「動くな!ああ、あれは…敵だ」


禍々しい無邪気な悪になんか、負けてたまるか。




【禍々】
悪いことが起こりそうである。不吉である。
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