毒気というもの

翌朝、HR。


「今日は君らに、学級委員長を決めてもらう」

「((((学校っぽいのきた〜))))」


皆あからさまにホッとしちゃって…学級委員長か。ヒーロー科の生徒は目指す職業柄、他の前に立つことが多い。


「静粛にしたまえ!他を牽引する重大な仕事だぞっ!」


そこに聳え立ったのは真面目一徹眼鏡の飯田くん。御託を並べながらも彼も委員長がしたくてしかたがないらしい。なら、なんで自分がなれる可能性の低い投票制にしたのか甚だ疑問であるが。

私が選ぶとすれば…先頭訓練で的確な意見をのべていた八百万さんか、身内のいず。それと委員長という言葉がしっくりくる飯田くんかなぁ。


「僕3票!?」

「私2票…?」


自分に入れていないにもかかわらず二人も私に票を入れたというのか。軽く回りを見渡していると梅雨ちゃんと目が合う。なるほど一票は彼女から。曖昧に笑って返す。

そうなると票が入っていないのは麗日、常闇、轟の3名。消去法で常闇くんかなぁ…ありがたいがそうなるとまた問題が発生する。


「同率2票の八百万と環心はどっちが副委員長をする?」

「…投票してくれた人には申し訳ないけど私は辞退するよ。やりたい人がやった方が良いと思うんだ」


前の席にいる八百万に声をかけると不思議そうな顔をしながらも了承してくれたらしい。疑問の表情と共にあった少し思い詰めるような、迷っているような感情を解決するのはきっとこの投票結果だろうと背中を見送った。

ところでいずはそんなに緊張しちゃって大丈夫なの?


昼休み、教室。
今日はお弁当持参で梅雨ちゃんとお昼ご飯だ。


「環心ちゃんは緑谷ちゃんに投票したの?」

「私は飯田くん。経緯はともかく彼が委員長になると思うんだよね」

「それは個性でみたの?」

「んーん、勘」


ウ”ーーーーーー!!


!?

『セキュリティ3が突破されました。生徒は速やかに屋外へ避難してください』


突如鳴り響いた雄英の緊急サイレン。避難しろって行っても雄英バリアが突破され侵入された原因がわからないことにはどこも安全じゃないじゃないか。

教室内にいた生徒は外へ向かおうとするものは少ない。それは単に廊下が避難する生徒でごった返しているから。


「セキュリティ3って何だ??」

「屋外に避難しろって言ってもこれじゃ二次災害が起きるぞ」


未だに鳴り止まない警報に顔をしかめる。これを打開するには原因を突き止め速やかに職員へ報告すること。詮索能力に長けたプロヒーローもいるだろうに何でこんなにケイオスなんだ。


「障子!お前個性でなんかわかんねぇか!?」

「この状況では外を見ることも音を拾うこともできない」

「私がやる」


人が多い状況で個性を使うのは私にもリスキーだ。頭が割れそうなくらいの情報量に目が回り最悪吐いてしまう。廊下にごった返している生徒ではなく探るのは何者かに突破されたであろう正門。


「すぅ……キャプチャー…オン…」


壁に触れて目を閉じる。音が遮られる感覚。建物を伝って意識を外へ向ける。余計なものは視るな、集中しろっ。頬に汗が流れる感覚がする。着いたっ。


パンッ!!!!

「!?!!?!」


侵入してきたのはマスコミだとわかった。その次に正門を突破するような輩を探し出そうとしたら発砲音のようなものが聞こえ弾き出された。いや、自己防衛でこれ以上視るなと言われているようだ。


「環心ちゃん、大丈夫?」

「ビクッてしてたけどどうした!」

「いや、…侵入したのはマスコミで相澤先生とプレゼント・マイクが対応してる…警察ももうすぐ来る…」


警報も鳴り止み辺りは平静を取り戻す。その後非常口飯田と言われた彼が、私の勘の通り委員長に任命された。そして授業も何事もなく行われ下校となったが、あの時弾かれた感覚がどうも引っ掛かる。

ボロボロに壊されていた雄英バリアの残骸は騒動のあと撤去されていたようで生徒たちはいつもと変わらない様子で下校している。

ただのマスコミに強度のあるこの壁が壊せるものなのだろうか。セメントス先生とパワーローダー先生による特別配合のコンクリート。それに自己防衛により見えなかった真理とは何なんだろう。通りすぎる際正門のアーチに何気なく触れてみる。

は…?


「どうしたの?帰ろう」

「ごめんいず……ミッドナイト先生に呼ばれてるの忘れてたから、いかなくっちゃ」

「ああ、気に入られてたしね…話長くなるだろうから先に帰ってようか」


いずの言葉に大きくうなずき職員室へと急ぐ。


嗚呼”しんり”とは時に残酷なものだ。


「先生、お話があります」


無邪気な悪意が世界を蝕む。




【毒気】
人に害を与えるような感情。




加筆・修正:2020/04/03
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