書生というもの

エンデヴァーヒーロー事務所。


「量がえげつない…」

「グロッキーだねぇ。おかげ様でこっちは楽できてるけど飛ばしすぎはここでは厳禁だ。分業は大事」

「とは言っても始めて30分で4件はおかしいですって。管轄内騒がしすぎませんか」

「今日は敵も元気だね。年始からご苦労なこった」


エンデヴァーヒーロー事務所は1日に100件以上の事件等を捌く。単純計算で1時間に4件、15分に1件解決すればその数字には到達する。

しかし事件事故は待ってはくれず、いつでも準備万端、むしろ先回りしなければならない。


『こちらキドウ、当て逃げ犯確保したから近くの警察呼んでくれ』

「こちらハーツ。あと45秒で到着するので現場保存だけ少しお願いします。バイクはキルスイッチ切るだけでいいです」

『…一足遅かったな』

『キドウ了解。引き続きエンデヴァーのフォローよろしく』


インカムとモニターとキーボードで各所と連絡をとり事件を解決していく。私はモニターを見るより個性で視た方が処理が速いから事務所の他のサポートメンバーより多く手を回してしまっていた。

忠告通り、任せる部分も見極めなきゃ"全部"は無理だ。


「あー……エンデヴァー、北西1キロ先でトラックの整備不良。路面凍結してるのでスリップの可能性と十字路で歩行者とバッティングしそうです」

『わかった……、もう一つ言わせてもらえばあっちは大通りだ』

『え……はっ、そういうことか。シオンちゃん!次の場所の詳しい位置を教えて!』


全部は無理だがエンデヴァーさんに大見得切って並列処理するって言っちゃったし、先に視て気づいて処理してしまうのはもはや癖だ。

エンデヴァーさんが事件を解決してから現場に到着するインターン生の3人は悔しそうにしている。最初からNo.1と渡り合おうなんて考えはお門違いで各の違いを見せつけられている。

例えば移動速度。スピードならいずや勝くんは自信があったけど、不馴れな土地で溢れる情報をいずは処理できずに出遅れる。


「2t旧式ショートトラック、積載1.5tです。アシストブレーキ故障で40km/hで突っ込んできます。衝撃は細かいこと省きますが700J程度です」

『そんな計算は要らん。全力で止めるだけだ』

「……了解」


全速力で向かうエンデヴァーさん。勝くんは汗腺が収縮しちゃうから冬が苦手でトップスピードをまだ出すことができていない。

轟くんも推薦入学ではトップの夜嵐イナサくんに並ぶスピードで合格していたけど、井の中の蛙状態で現場ではエンデヴァーさんの足元にも及ばない。

知らない土地だから。冬は苦手だから。個性コントロールが得意じゃないから。

そう言い訳をして授業だったら相澤先生に除籍だとか赤点ですとか言われちゃうかもね。でも、


『間に合わなければ落ちるのは成績じゃない』

「……目標停止確認」

『人の命だ』


トラックを片腕で止めたエンデヴァーさんの傍らには腰を抜かした市民が二人いた。彼が間に合っていなければその尊い命が失われたかもしれない。

無線の向こう側ではトップヒーローから現場の授業が行われている。


「ハーツ、君は昼食とったら引き続きこっちでサポートね。ハブられて寂しいだろうけど皆が事務所に戻ってくるまで我慢!」

「了解です。別に寂しくないですけど…戻ってきた彼らもサポートできるように迎え入れたいですね」

「エンデヴァーさんが引き入れたいくらいの土壌ももってるわけだ」


個性を展開させて現場に出ている3人を見れば焦燥感と期待感が混ざり合っている。手が届きそうなのに届かない。ここまで己が育んできた努力は違うのかと問いたくなるだろう。

それを指導してくれるのが先輩ヒーローでありNo.1の彼だ。私ができることは帰ってきた彼らなりの答えを落とし込んであげることかな。

昼食は片手間に食べられるパンやおにぎりを事務所内で食べる。ちなみにこの経費も事務所持ちらしいよ。張り詰めた空気が緩む瞬間でも視ていれば、現場組も高層ビルの上で反省会をしながらパンを食べていた。

届いた音声の先では具体的な課題が課せられる。


「どう?エンデヴァーさんより速く事件解決って課題クリアできると思う?」

「そこは雄英の校訓ですよ」

「更に向こうへ?」

「はい」


できない、できるで言えば…彼ら次第で"できる"と断言できる。なんのために一番過酷な現場に来たと思ってるんだ。

エンデヴァーさんより速く視つけて敵を捕まえているから課題はクリアとカウントされていた。同じ獲物を狙うとしたら私は素でエンデヴァーさんには勝てないけれど、別の獲物を彼が気づくより先に捕まえたから良かったのか。


「ほいほいほい、個性事故によるエマージェンシー。エンデヴァー4丁目3番地の歯科医院に急いで下さい……とまぁ、エンデヴァーが欲しがるハーツだったとしても、手加減しねぇーぞ」

「ご指導、ご鞭撻よろしくお願いします」


束の間の緩んだ空気を張り裂くようにエマージェンシーコールが鳴る。慣れもあるが、迅速かつ正確に必要な情報を収集し捌いて現地のヒーローに繋いでいく。

傲るなよ、私。

”任務”を遂行せよ。




【書生】
他家に世話になり家事を手伝いつつ、勉強をする者。



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次は久々のカッチャンとの絡みあるかも
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