エンデヴァーヒーロー事務所。
全員の面倒を見てやると考えを改めたエンデヴァーはトレーニングルームで仁王立ちする。
いずと勝くんの活動情報はほぼ知らない彼はまず、それぞれの個性と描くビジョンを提示させる。
「今貴様らが抱えている”課題”、出来るようになりたいことを言え」
「僕は力をコントロールして最大のパフォーマンスで動けるようにしたいです」
「自壊する程の超パワー…だったな」
いずの情報はあまり持っていないと思われていたけれどどうやら雄英体育祭での試合を覚えていたようだ。思い出してみれば轟くんが炎を使ったきっかけの人物だから多少興味を持ってもおかしくない。
超パワーに加えて発現した二つ目の個性である黒鞭も戦闘で使えなくてはいけないだろう。勝くんとの手合わせで盛大に暴走したり飲み込まれたりはないけれど、実践ではまだお荷物の代物。
「このムチを”リスク”じゃなく”武器”にしたい…今考えているのは新技のエアフォースの要領を……エアフォースというのは風圧での遠距離攻撃なんですがこれは今の身体の許容上限を越えた出力を…(中略)並行処理しながら動けるようになんとかならないか…」
「自分の分析か」
「分析しすぎて迷走してるから逆効果だけどね」
「長くてなに言ってんのかわかんない!」
「ああああウゼー!!」
「つまり…活動中常に綱渡りの調整が出来るようになりたいと」
「わかったんかい!No.1は伊達じゃない!」
お得意のブツブツを披露させたいずの要点をまとめて確認したエンデヴァーは頭が良い。親バカだけど脳筋強個性だけでトップランカーだったわけじゃないのね。
そういえば彼は雄英のヒーロー科を首席で卒業してたんだっけ。そりゃ周りからの信頼もあるわけだ……重度の親バカだけど。
そして目を閉じて思慮したと思ったらいずを見つめる。
「難儀な”個性”を抱えたな…君も、こちら側の人間だったか…」
炎を纏った瞳は誰を見ているんだろう…視ればその感情も触れることなく解るんだろうけど、凪いだ表情は見た覚えがあった。
No.1を経験した者同士で腹を割って話したあの時…
「こちら側って…どちら側だろう……」
「こちら側はこちら側よ。良かったじゃない、エンデヴァーがいずのこと見直したみたいよ」
「え、シオンちゃん今のやり取りのどこでそう思ったの」
困惑するいずに曖昧に笑みを浮かべてあげればさらに困惑しているようだった。オールマイトを敵わない存在だと心のどこかで思いつつも本気で越えようとしていた。
そんな彼と似たような個性にも関わらず、エンデヴァーの目には、いずは個性だけで評価されている人物ではないことを理解してくれた。
その点私はどっち側の人間になるんだろう。”しんり”の個性のおかげで天才だとか、なにもしなくても一番でいいねと言われた過去もある。
けれど私だって努力してこの個性を使えるように鍛えてきた。1-Aの皆や先生たちは私のことをパーフェクトウーマンだと揶揄しながらも実力を裏付けさせるだけの行動を起こしていることも知ってくれている。
きっと…エンデヴァーは案外人をみている人だから、そこも評価してくれてインターンに呼んでくれたんだと思いたい…まぁ捜査をしろって言われてるし…たぶん、大丈夫。
いずの強化ポイントの次は勝くんに話を聞くターンに移行した。
「逆に何ができねーのか俺は知りに来た」
「ナマ言ってらぁー!!」
口角を上げもせず、笑いもせず告げた彼は冗談を言っているようには見えなかった。バーニンはそれを聞きケラケラと子どもが大口たたいて何を言っているのかみたいに笑っていた。
「”爆破”はやりてェと思ったこと何でもできる。1つしか持っていなくても一番強くなれる」
「何でもか?」
「近遠距離の攻撃だけじゃなくて爆破で空中移動もできる。隠密に向かねぇ個性なだけでできねぇわけじゃねェしな」
勝くんは持ち前のハイセンスとストイックさで常にトップを走ってきている。彼を嫌っていた昔から視ていて思ったことは、何でもできる奴ってこと。
勉強もスポーツも、料理も芸術もヒーロー活動も…5段階評価であればほとんどが最高水準を与えられる。
その代わり性格は壊滅的に最悪で、恐らく地球上の底辺に値するようなクソだと言い切ってもいい。彼氏にそんなこと言ってもいいのかって?
だって客観的に見たら勝くんの性格は褒められたものじゃないでしょ?私には優しくてかっこいいところもあるけど……閑話休題。
「No.1を超えるために足りねーもん見つけに来た」
「…いいだろう。では早速」
「俺も、いいか」
「ショートは赫灼の習得だろう!!」
轟くんの申し出にエンデヴァーが吠えた。予てより炎の最大出力について教えるだどーだと言っていたらしい。
反抗期に加えて複雑な家庭事情が絡めば素直に言うことを聞くはずがなかった。エンデヴァーの一方通行の願いは未だ未達成のようだ。
「俺はヒーローのヒヨっ子としてヒーローに足る人間になる為に、俺の意思で”ここに来た”」
轟くんはエンデヴァーの敷いたレールは走りたくないと今まで逆行してきていた。考えを改めた今ならもっと強くなれる。
「あの、この流れに乗って私もいいですか?」
一同が外にヒーロー活動をしに行こうとする前に静かに手を挙げる。私の個性のこともエンデヴァーは認知しているし、既に任務を言い渡されているから別に今さら言わなくても良いって感じだろう。
ただの言霊だ。あれがしたい、これもしたい。思ってるだけなんて簡単だけど、口にしたことじゃないと何事も実現できないはずだ。
「私がここに来たのは私の個性でNo.1をサポートできるかを実証するためです」
そのために得意なことを伸ばすだけではなく、不得意なことも強化してきた。”しんり”は参謀や情報収集の係りとして大変重宝される。
それは神野事件やサーのインターンで痛いほど体験してきた。
逆にできなかったことは?
エンデヴァーに担がれて移動することしかできなかった。力で押し負けてブッ飛ばされた。個性の使いすぎで戦線離脱しそうになった。索敵役は安全地帯で待機がセオリー。
正直パワーに関してはどこをどう改善しても増強系の個性には敵わないと悟った。だからスピードを磨いた。キャパオーバーに関しては模索中だけど…個性に飲み込まれそうになったら勝くんのことを考えるようにした。
そしたら、アララなんと言うことでしょう。そこら辺の細胞にフォーカスするよりも精神衛生上良いということが判明した。
「神野ではエンデヴァーさんに助けられていましたが”今”どれだけ貴方の役に立てるかが知りたい」
「……同時進行で進められるか」
「はいっ!」
「ならば俺の管轄全てを視ていろ」
まず私が彼に言い渡されていた任務。エンデヴァーが言ったコイン、つまりは対反乱作戦に賛同している者たちを徹底的に調べろということ。
それに加えてこの街の監視カメラ役か…やってやろうじゃない。
彼のクラーク博士は言った。
"Boys,be ambitious like this old man”
この老人のように、若人たちも野心家になれ。
それなら十分持っている。長年蓄えてきた。
私の目指す、ヒーローに。
準備は着々と進む。
【野心】
ひそかに抱く、大きな望み。また、身分不相応のよくない望み。野望。新しいことに取り組もうとする気持ち。
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