インターン初日。
No.1とNo.2がいる現場でインターンをするとは思わなかった。エンデヴァーは忙しい人だし、ホークスは気まぐれだから一緒に行動できることも稀だ。
そんな気まぐれな彼がエンデヴァーに渡したのはデストロの手記、異能解放戦線の本だった。その本は知ってる。
公安がアンチヒーロー社会を助長しかねない書籍だから法に触れるようであれば報告しろと私に渡してきたものだ。それくらい自分達で確認してよって思ったっけ。
内容は個性の自由を謳い、そのためなら武力行使は辞さないというものだった。至高の思想に一部共感できるところはあれど所詮は絵空事。
皆が自由に個性を行使して生きたら世界は滅亡するだろう。人間は理性があり、それが動物よりも優れていると言われている点だ。
けれど、それを放棄するような考えは文明の退化を推奨しているようなもの。
法に触れる記述は無いから内容を摘発することはできないし、共感している人たちも少なからずいる…ホークスみたいに。
「No.2が推す本…!僕も読んでみよう」
「そんな君の為に持ってきました!」
「用意が凄い!」
本当にこの本に共感して布教活動をしてるのかは怪しい。だって彼ならSNSで拡散した方が手っ取り早いし?
目先だけ…見かけだけのために用意したようなそれに違和感を覚えた。
「君もどうぞ!……えーっと…」
「ハーツです」
「そう!ハーツだった!是非読んで!」
本当は彼とは面識もあるし、なんなら一緒に極秘任務を遂行している間柄なのに”初めまして”の体を装う。
私にもその本を手渡そうとしたけれど、ピクッと渡したら不味いかも…みたいなものが視えたのでこれは私が動いた方がよさそうだ。
…本当は本を受け取らない理由は、単純に今は荷物になるからそんな重くて分厚いのを持ち帰りたくないって気持ちが7割くらい占めているからだけど。
「もう読んだから要らないです」
「!…そっかぁ…、もー読んだかぁ。じゃあもう必要ないかな。感想は?」
「……ヒーロー法を改訂する必要があることには賛成ですね。緩いし、曖昧だし、ヒーローが善だとは言い切れない飽和時代ですから」
「おっ!良いところ突くね!」
「でも、無免許で手放し運転したり"信号"無視をする人にご自由にどうぞと自分の車の鍵は渡せないし、助手席にも乗りたくない…というのが私の"レポート"です」
「っけ、左翼の戯れ言かよ。読む価値ねぇだろ」
「でもかっちゃん。強くなる方法が何かあるかもしれないよ。なんたってホークスのオススメなんだから!」
「キメェ」
目を合わせて瞬きを3回パチパチパチとする。ちなみに2回目の瞬きの時はゆっくり閉じた。
無免許運転を推奨する?3歳児にナイフを持たせる?英語がわからない人に通訳させる?
個性を勝手に行使させる……?背に腹変えられない状況だったらある一定の条件下で許可は出すかも。
例えば、無免許でも良いけど私有地内だけで運転してね。3歳児にはプラスチックのオモチャの包丁で遊ばせよう。英語がわからない人は翻訳機器を使っても良いよとか。
ホークスはキョトンとしていた。また瞬きを3回して、反応のないホークスの目の前で手パーにして振り助言する。
彼の視線がなぞるように5本の指を眺める。サポートアイテム付きのグローブはそんなに珍しくないと思うんですけど…?
「あの、No.1はもう帰りたそうにしていますが何か言っておくことないですか」
「あ”!エンデヴァーさん!絶対にマーカー部分は読んどいた方が良いですよ!2番目のオススメですからぁ!!」
エンデヴァーからの早くここから立ち去れの睨みに怖じ気づくことなく、ホークスは最後にインターン頑張ってと言葉を残して飛んで行った。
白い鳥が飛んでいった方向とは真逆に、追い付けないスピードで姿を消す。
「アイツは何しに来たんだ」
「フラって立ち寄ったって言ってただろ」
「若いのに見えてるものが全然違うな…まだ22だよ」
「6歳しか変わらねぇのか」
「ムカつくな……」
「……勝くんはムカつかないことの方が少ないんじゃない?」
「あ”ああ!?!!」
ほらやっぱり、と思いつつもそれは更に煽る行為だから閉まっておいた。立ち去ったホークスは良くも悪くも私たちに影響を与える。向上心に満ち溢れたインターン生には良い発破になったかな。
その後、私たちはサイドキックが用意してくれた車に乗ってエンデヴァー事務所に向かった。そして文字通り燃えている人たちに迎え入れられるのであった。
「ようこそ!エンデヴァー事務所へ!!」
「「「俺ら炎のサイキッカーズ!」」」
「活気に満ち溢れている!」
「サーのところとはまた雰囲気違うね」
エンデヴァー事務所は血の気が多くてやる気を全面に出している人が多い。一番に挨拶をした有名サイドキックのバーニンの個性も相まって熱かった。
楽なインターンはどこにもないと思ってるけど、30人ものサイドキックがいる中で一端のインターン生が功績を上げるのは簡単じゃない。
「1日100件か…事件解決数は他の追随を許さないねぇ」
「それなのに何ちんたらやっとンだ、No.1様はよォ?」
「たぶん2人は私達と一緒に行動って感じだろうね」
「あ”?No.1の仕事を直接見れるっつーからここに来たんがだが!」
「エンデヴァーは元々ショートくんとハーツちゃんをご指名だったからね」
エンデヴァーは元々いずと勝くんは指名していない。私は辛うじて面識があったから個性を評価されてる。
しかし本来であればサーの事務所でいずがテストを受けたように、自分にどれだけの価値があるのかを所長にアピールしなきゃ使ってもらえない。
しかも自分の息子に焦れ込んでいる堅物エンデヴァーだ。簡単には私たちを育ててはくれない。
そんな彼は引きこもっていた自室から出てきて口をへの字に結んでいた。片手に持っているあの本は潰れて燃やされそうで、口を開いたと思ったら予想外の解答が投げられた。
「ショート、デク、バクゴー…3人は俺がみる」
「3人…、シオンちゃんは…?」
「え……、っ。いや、私だってNo.1の現場で自分が通用するかどうかを」
「いらん。お前は内勤だ」
そう。"簡単"には…私を育てる気はない、と。逆に私以外は育てる事態になったようだ。
「ハーツ。コインを徹底的に探せ」
「へ?」
そう言ってエンデヴァーから手渡されたのはホークスが布教した異能解放戦線の本だった。
そこに込められた感情を視るのは怖い。だって"私"は視ることができなかったものだから。
いろんな意味でたくさんの想い…情報が詰まっている本に困惑して目元を掌で覆う。
「あー…ぶちまけた"コイン"が多いんでしたね。エンデヴァーは不器用ですから…探すの手伝いますよ」
「そうだ、多い」
「誰よりも速く、回収します。今、私にできることはソレなんですね」
掌から彼の焦燥感も視えらけど、エンデヴァーは大丈夫だ。だてにNo.2を何年も守ってきた訳じゃないし、今はNo.1の自覚もある。それに、あなたが憧れてきた人でしょ。
「"私は"表情が変わらないってよく言われるので、許してください」
「……お前もアイツもわかりにくいな」
私の口角は、いつもより下を向いていた。
*
*
『敵は 解放軍 連合が 乗っ取り 数 十万以上』
『4ヶ月後 決起 それまでに 合図 送る』
『失敗 した時 備えて 数を』
『心は 承知済み 公安の 核』
こんな戦争、なくなればいいのに。
【内談】
内々に話し合うこと。また、その相談。
信号:シグナル
シグナルレポート:RSTコード
・-・ : R : 了解
掌 : 5 :完全理解
2021.01.16
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