連関というもの

年明け。


「ようこそ、エンデヴァーの下へ」


巨漢に顔の半分に渡って広がる傷跡。爽やかとはいかないが彼なりに歓迎の笑顔を作っている…というわけではないようだ。不機嫌とまではいかずとも不満だというのはNo.1エンデヴァーの似合わない笑顔から伝わってくる。私服だけど威圧感が凄い。

冷たい空気がビルの谷間を鳴きながら通っていく。スカートと後ろ側で結ばれたマフラーが揺れて、今から始まる怒濤の日々を応援しているようだった。


「なんて気分ではないな…焦凍の頼みだから渋渋許可したが!焦凍と環心だけで来てほしかった!」

「許可したなら文句言うなよ」

「……育成を履き違えてません…か?」

「補講の時から思ってたが……きちィな」

「焦凍、本当にこの子と仲良しなのか!?」


話の途中ではあるが、どうせエンデヴァーさんの愚痴っぽいので私は準備を始める。サポートアイテムのついたグローブはより速い移動を想定して頑丈に、けれども軽いものへと変更。

ガス噴射口が付いて巻き戻しのスピードとパワーが強くなったから最初は身体が飛んでいって大変だったけど、それも梅雨ちゃんと瀬呂くんの協力で今は私の武器になった。

左腕の意思伝達アイテムはサポート会社からではなくヒーロー公安委員会からの支給品だ。壊れにくい時計をヒントに改良され、公安の衛星を介入するとんでもない品物に。おっと、この情報はオフレコだった。

グローブをギュっとはめたところでエンデヴァーさんの愚痴というか駄々っ子も終わったらしく、事務所まで案内するというので後ろを着いていくことになった。

街中に人はそれなりにいるけれど、コスチューム姿ではないため声をかけられない。土地柄ミーハーな人がいないのかエンデヴァーさんを見慣れているからかわからないが、ある意味"普通"に生活しているのが視える。

一般市民も、ヒーローも、敵も。


「エンデヴァー、恐らく"お客さん"…と3時の方向で、」

「視たのなら動け"ハーツ"」

「……りょーかい、エンデヴァー」


私が言い終える前に発火して飛び立つエンデヴァーさん。きっと了解と言った私の声は届いていないだろう。焼けた私服の下からは彼のコスチュームが表れ、強さや威厳を示した炎のマスクが付けられる。

3時の方向…神野でも確かそう彼に伝えて移動した記憶がある。あの時は肩に担がれて移動したが今は勝手について来いと言わんばかりだ。スカートの下に長めのスパッツ履いてて良かった。


「学びたいなら後ろで見ていろ!!」

「ッ指示、お願いします!」


いず、勝くん、轟くんもアタッシュケースからコスチュームを取り出してヒーローの顔になる。インターン生はお客さんではなく一人のヒーロー。

後ろで見ていろと言う彼を見るためには、ついて行かなければ活動どころか姿さえ見ることはできない。

しかし私は、視ることができる。

今、ガラスが砕けた。



 *



街中で起こった敵のアンチヒーロー運動。思考の布教だけならまだしも器物破損と公共の場での社会的迷惑行為(実害有)で敵認定され"星のしもべ"は現行犯逮捕。

その様子を500メートル程離れた高層ビルの屋上から視ていれば、どうやらエンデヴァーが私を探しているようだ。

何故私がビルの上にいたかというと、先ほどの敵の仲間がスナイパーライフルでエンデヴァーを狙撃しようとしていてソイツを確保したからである。


「離せ!クソ餓鬼!俺は仕事があるんだ!」

「ライフルで仕事って…バードストライク対策なら空港でやってください。でもまぁ…実弾はどっちにしろアウトだし、私もヒーローの仕事中なんで大人しく連行させてもらいます」

「は…雄英生のヒーロー……?おい、ちょっと待て、何でビルの端に行くんだよ……ッ、オイ!!!」


テグスで手足を拘束はしても、口を封じる術がなく煩いままの敵を引っ掴みビルの縁に立つ。地上21階高さは100メートルと150センチ。私と敵の体重合計は135…ここから落ちたら4秒ないし5秒くらいで地面に到達するだろう。

ああ、嫌なことを考えてしまった。単純に落ちる行為は好きじゃない…だって人間が本来体験することのない事象だから恐怖を覚えるのは至極当たり前。

引き摺ってきた敵もやはりビルの端に立つのは怖いようで先ほどの煩さは失くなった。証拠品のライフルを回収して安全装置と残弾の確認後、拘束した敵を落ちないように私に固定して……私はビルを駆ける。うん、二人分の体重を早く運ぶためにちょっとガス使いすぎて臭いな。


「戻りました」

「……ああ。ソイツは?」

「さっきの敵グループの仲間です。SCビルにいまいた。ライフルは他に回収されたら危ないので持ってきました」


本当は現場保存のために敵もライフルも置いてきた方が良いんだろうけど、今回は持ってきて警察に引き渡す。

拘束されながら"星のしもべ"を含めた敵は不吉な言葉を残しパトカーに押し込められるのであった。

合流すれば紅く自身より大きな翼を携えたホークスと彼に羨望の眼差しを向けるいず。状況は視ていたけれどコンマ数秒速く敵を確保したのをネタにして大人気ないと言わざるを得ない。

だから勝くんはちょっと不機嫌そうだ。そしてヒーロー活動をしていたのに籠手で、サボりやがってと小突かれた。ちょっと、私はあなた達とは違ってちゃんと敵確保しましたよ。

轟くんはあんまり彼に関心はないようで、単純にスゲーなーと言っている…いや、ここに現トップ2が揃ってるんだから野次馬の皆さんやいずみたいに少しは興味を持ってよ。


「緑谷と言います!」

「指破壊する子だ皆はエンデヴァーさんところでインターンなんだね。ツクヨミから聞いてる、いやー…俺も一緒に仕事したかったんだけどねー」


いずと話しているホークスは、口元に薄い笑みを浮かべながら己がなぜここにいるのかを軽く話している。

元々日本中を飛び回っている彼だから違和感はないが…エンデヴァーさんがピンチに見えたから手助けしたって言える人は早々いない。


「ホークスはやっぱり合流したんですね」

「お前が言っていた"お客"はアイツか」

「はい、そうです。周辺ウロウロしててこっちに意識が向いてるのはなんとなく視えたので」


あれ…?私が知ってるホークスはもう少し表情だけで何を考えてるかわかる人だったのに、今の口元の笑みは機械的でわかりにくい。彼は私を一瞥して目を細める。

彼の置かれている立場は理解しているし、監視されているから表情をわざと単純にパターン化していても不思議ではないか。

何かしらの合図かと思いアヘッドモードで彼が何を伝えたいか視させてもらおう。さっきの視線は恐らく"視てね"ということだ。


「俺が立て込んじゃってて……"悪いなァ"って…、思ってるよ」

「俺の方が速かった」


ああ、今…。

彼の文脈としては、常闇くんに対して"一緒に仕事できなくて悪いなー"と謝罪しているはずなのに……勝くんを見て"悪い"と言った。

言葉の温度が下がった。その温度の示すところは…

上着に隠れた口元はきっとまた弧を描いている。

身も心も冷たくなる1月の風に白い息が飛んでいった。




【連関】
物事が互いに連なり関わり合っている関係。



2021/1/11:加筆訂正
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