12月31日、夜。
「こんなに良いお酒もらちゃってよかったのー?」
「どうーせ家にあっても飲まないんだし、みんなで
のみたいじゃなーい?」
「僕お酒弱いんで…でも爆豪さんのこの料理もおいしいですねー。お酒が進みます〜」
「シオンちゃんも料理手伝ってくれたんだってねーありがとう」
「……あ、はぁ、、、はい」
「クソ飲んだくれ共が」
始まった酒盛りで酔っ払いから屍に変わりつつある両親達に私たちはドン引き状態だ。ダイニングテーブルには光己さんが作った和食とお酒のつまみがいくつか並んでいた。
私と勝くんはお酒の臭いから逃げるようにソファーで夕飯を食べている。辛めに作った麻婆豆腐は少しだけ口にしてあとは勝くんの胃袋のなかに消えていった。
家に帰ったら年越し蕎麦を食べる予定だから控えめにお腹を満たすことにしてるんだけど、10時になり食事も一通り終わるが両親達は帰る気がなさそうだった。
「ねぇ、そろそろお暇しない?」
「んふふ〜私はまだ光己ちゃんと話し足りな〜い」
「…呑み足りないの間違いじゃ?」
「ん〜あくごーさん、顔色変わあないでふねー、僕なんてもーめがまわって〜」
間違いなく話し足りないではなくて呑み足りないお母さんと光己さんは顔を赤くしながら楽しくなっちゃっているみたい。お父さんは機能していない。
お酒が美味しくて止まらないってのはわかるんだけど、せめて動けるくらいまでに留めてほしかった。新年から二日酔いで苦しんでも知らないからね。
さて、これから二人をどうやって家に連れ帰ろうかしら。介抱しながら往復すれば…、それか勝くんに手伝ってもらう…?いや、ただでさえ酒盛りで不機嫌になってるのにそれは頼めないか。
「Hey shiri『 大人二人を担ぐ方法』」
「まぁまぁシオンちゃん。二人はここで過ごしてもらって構わないよ。一人で家にいるのも危ないから今日は泊まりなさい」
「ま、勝さん…、それは悪いですって」
「勝己くんも泊まってもらった方が安心でしょ?」
「…テメーが敵に捕まりでもしたらクソ面倒」
「ね、勝己くんもこう言ってるし」
「えー…」
確かに私たちが帰省できた経緯を考えたら一人での行動は避けた方がいいし、一人で年越しを迎えるのは虚しいなと思う。
最終的には丸め込まれて爆豪家に泊まることになり、荷物をこっちに持ってきて今はシャワーを借りている。初めて入る彼氏の実家の浴室…借りたボディソープは勝くんの香りがした。
「…お風呂、借りました」
「おう…クソ親父も潰れた」
「あー…うん、そこら辺はもう諦めたよ。お蕎麦の準備してるね」
キッチンを借りてお出汁をとったりお蕎麦を茹でたり、おつまみが欲しいらしいお母さん達に金平ゴボウを出したりして時間を潰した。
石鹸の良い香りを身に纏った勝くんはリビングに入ってくるなり凄く嫌そうな顔をする。キッチンはお出汁の香りがするんだけど空き瓶の数だけでアルコールの臭いもそれなりにするから、主張の強い3つの香りは混ぜるな危険である。
「勝くんもう食べる?」
「食う…酒臭ぇとこじゃなくて部屋で食うぞ」
「あ、うん。年越し蕎麦は茹でればすぐ食べられるようにしてるから、できれば日付が変わる前に食べてねー」
「「「はーい」」」
返事だけはいいんだから…酔っぱらって精神年齢は私よりも下になったような親たちに年越し蕎麦の存在を知らせる。無病息災だったり今年の不運を断ち切る意味のある年越し蕎麦だから、日付が変わる前には食べてほしいのだが…これはアルコールと一緒に持ち越しそうだなぁ。
温かいお蕎麦に味変用の柚子と一味を携えて勝くんの部屋へと向かう。2階の日当たりの良さそうな場所が彼の部屋だ。
「炬燵がある!」
「寒ィだろ。蕎麦が伸びる」
勝くんの部屋に入るのは小さい頃以来だからレイアウトなんて記憶にあるのとは大きく変わっていた。寮の部屋には少し似ているけれど最大の違いはセンターに鎮座した炬燵。
冷えた足を入れて温かいお蕎麦を啜る。
「あったまるぅ…」
「足冷てぇからこっち寄んな」
「酷いなぁ。冷え性なの」
鰹節の出汁の香りが鼻から抜けていく。味はそれなりに美味しいと思う…勝くんも黙々と食べてもう完食しそうだから味はお気に召していただけたはず。
お蕎麦を食べながら明日から始まるインターンの話を少しだけした。彼はいずと轟くんと一緒は嫌だけどエンデヴァーさんの現場を見られるから我慢するらしい。
「仲良くできないかなー?二人はお友達って言ってたじゃん、轟くん」
「お前も頭沸いたこと言うなや。誰が舐めプとなんかッ!俺が強くなるためのよく弾む踏み台だわ」
「ふふっ、喧嘩はしないでね」
移動した勝くんに後ろから抱き締められる。お腹に回った筋肉質で太い腕は、洋服の上からでもゴツゴツした感触がする。
項に軽くキスをしたあと、額が肩に押し付けられて眠そうだなと思った。見た目に反してフワフワの髪の毛は撫でれば指が沈み込み、柔らかくてチクチクしたものは首に刺さる。
「勝くんが甘えてる…」
「ストレス発散の前倒し」
それは意味がないのでは?という言葉はお腹をキツく抱き締められたせいで引っ込んでしまった。私って勝くんに愛されてるんだな…って無意識にも視えてしまうのがむず痒い。
あまり視ないようにしても私を心配してるし求めてる。ただ、ハグによってストレスを軽減させるのであれば一方的に抱き締められているだけだと相互効果は得られないんだよ。
腕の中で身体を動かして、脚の間に横向きになるように座りながら勝くんに抱きつけばビクッとされる。こうすれば私も彼にハグができる。あ、でもこれ失敗したな。
右太股に当たるナニかと這い上がってくる手。彼が私を好いていて、クリスマスにそういう行為をしてからボディタッチは明らかに増えた。二人きりになったらすぐキスしようとするし、個室だったら服の中に手を入れたがるしで、元々耐え性のない彼に我慢させるのは何度目だろうと思い出す。
昨日は10回以上は注意したよ。ちょ、どこ触って……私生理中だって言ったでしょうが。
「…勝くん……?」
「わーっとるわアホ。生理現象舐めンな。あと10分」
「どんだけストレス発散の前倒しするのよ。まぁインターンが始まったらこういうのも厳しくなるだろうけど」
「インターン中もする。3日……否、最低でも2日に1回」
「え、そんなに情緒不安定?」
「情緒不安定はお前だろ…パンクしねェようにだ」
恐らく彼は、No.1の事務所はそれなりに視ることが多くて精神的に辛くなるだろうから、定期的に俺で癒されとけって言いたかったんだと思う。
"今"も想像していたよりもしんどいから、彼の無理矢理にでも休ませる行為は私を救う。不器用すぎる優しさに甘えてるなぁ。嬉しくて口許が緩む顔を見られないように首に縋りついて隠した。
けれど私の行動を読んでいた彼は顔を覗き込むようにしてキスをしてきた。年越し蕎麦に一味いっぱい入れて食べてたから心なしかピリッとする。
触れた舌先の違和感に抗議する余裕もなく侵入してきて、舌全体にヒリヒリとした刺激が広がっていった。
無言で絡み続けた舌も息が苦しくなって胸を叩けば距離が放される。そのときに引いた透明な糸はすぐに切れて、サラサラな唾液だったんだなぁと情緒もないことを思う。だってそれは副交感神経が働いているとき…つまりはリラックスしているときに分泌されるものだから。
彼も私も、今はとても心が休まっている証拠だ。
いつの間にか変わっていた日付。テレビの向こう側ではアイドルたちが新年を祝う言葉を口々に発信していた。一緒にカウントダウンしたかったな。
「年越しの瞬間何してたって聞かれたら、キスしてたって…答えられないねぇ……」
「別に良いだろ……年明け一発目は彼氏に愛されとったとか言っとけ」
「…んっ、誰にも言えないよ。いずとオールマイトしか知らないんだから」
「…………クソ髪は、知っとる」
「は、何で」
「…………、知らね」
ああ、何事も上手くはいかないものである。新年から嬉しくない知らせに頭を抱えるがベッドに投げ込まれたことで諦めがついた。どうせいずれ全員にバレるんだから。
勝くんの部屋で、同じベッドで彼の香りと体温に包まれて眠る。絡めた脚は冷たいと言いながらも熱を分け与えてくれる。
夢も視ない深い眠りは心地が良い。
【陰徳】人に知られないようにひそかにする善行
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次からやっとこさNo.1インターン編。
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