公然というもの

12月下旬。

終業まで残り数日、教室に響き渡るのは笑い声。


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

『仲は良いです』

「1時間もインタビュー受けて!!」

「爆豪丸々カット!!」

「使えやぁああ…!!!」


先日インタビューを受けた内容が放送されたが…何というか、案の定勝くんの所は丸々カットされていた。それをネタに上鳴くんと瀬呂くんは笑い転げている。比喩じゃなくて上鳴くんは本当に転がっている。

見切れっぱなしに勝くんはギリギリと苛立ちを隠せないでいた。轟くんのは使ったのに自分のが没になって悔しいみたい。


「ある意味守ってくれたんやね」

「あとサムズアップされてる爆豪より環心の使われててさらに笑え…あひゃひゃひゃひゃ!」

「不本意だわ」

「良いとこ取りされてやんの!!」


そう。活躍した彼らだけ映しておけばよかったものの、私のコメントが採用されてしまった。解っていたけどさ……それが尚更気にくわない彼は私にガン飛ばしてくる。


「ンでてめぇが…ッ」

「普段から言ってるでしょ。口が悪いのよあなた」

「暴言改めよ〜」

「うっせ!!アホ面!!」


彼が目指すものは何だったのか。憧れのオールマイトからは遠くかけ離れた言動に周囲は呆れるしかなかった。仮免事件の好評がどんどん下がっちゃってもったいない。

ギリギリした彼を嗜めながら続いて流れるニュースに耳を傾ける。9日前に泥花市で起こった事件。作られたあらすじを伝えるニュースはその悲劇の大きさとこれからについて語っていた。

ヒーローの在り方を再認識されるようになって、エンデヴァーに向けられていたネガティブな意見も今はヒーロー全体を叱咤激励するものに変化しつつあった。

だからといって、ヒーロー一個人の評価が上がるものではない。それに声援は彼らが安心も求めている意思表示でもある。


「エンデヴァー頑張ったからかな?」

「…さぁな」

「楽観しないで!!」

「えっ?!?Mt.レディ!なぜここに!!」


教室に乱入してきた部外者、もとい特別講師のMt.レディはテンション高めにメディア露出の重要性を語る。付き添いでミッドナイトもいた。

確かに相澤先生はメディアを嫌って出ないから、これから露出が増えてくるであろう私たちにメディア論を説くのは難しいだろう。

MEDIAのカードを持ったMt.レディが講師を勤める”メディア演習”はヒーローとしての立ち振舞いを教授するものらしい。


「”ヒーローインタビュー”の練習よ!!」

「思ったよりユルくない?」

「上を目指すんだったら必ず通る道だから…まぁ良いんじゃない?」


ヒーローインタビューは単純に自己紹介であったり意気込みを語ったりするものから、現場で一番活躍した者にだけ与えられる特権のようなものまで様々。

無駄に準備された特設ステージと数人のカメラマン。様々な角度から見られていることを練習するのは大事だが…1カメ、2カメ、3カメ…4カメまで準備しなくても良かったんじゃ…?

まずインタビューを受ける役をするのは轟くんだ。先日もインタビュー受けたからイケるでしょ、みたいなノリでトップバッターを任せられた。


『すごい活躍でしたね』

「何の話ですか」

『一仕事終えた体で!!』


耳郎さんと顔を合わせてこりゃダメだと肩を竦める。天然も行きすぎるとただのアホに見られちゃうよ。あ、また的外れな事言って。


「轟の天然さ、前にも増して酷くなってない?」

「私もそう思う。前は天然の中に計算高い感じがしたんだけど…今は単純に状況把握ができてない人みたい」

『度のような必殺技をお持ちですか』

「…じゃあちょっとあっちで……穿天氷壁。あとはもう少し手荒な膨冷熱波という技も」


天をも穿つ氷の壁…轟くん得意の必殺技を実演させて見せ周囲を惹き付ける。やはり派手な個性は見栄えが良くていいな。

私の個性は目に見えないものだから口頭で説明するしかない。そういえばクラスの中で一番実演ができないの私じゃん。


「私の個性すんごい表現しにくい」

「そりゃねーノンアクションが取り柄だから仕方ないんじゃない」

『安心させたいなら笑顔を見せるべきね。あなたの微笑みなんて見たら女性はイチコロよ』

「俺が笑うと…死ぬ…!?」

『もういい!次!!』

「あれって天然?」

「いや、ただの世間知らず」


自身の個性アピールをどうしようと考える間もなく、轟くんの天然発言で彼のインタビューは終わった。

インタビューで必殺技の紹介するのには理由がある。

まずは世間に自分の存在を知ってもらうこと。トップヒーローや功績のあるヒーローでない限り、国民が私たちのことを知っているとは限らない。命を委ねてもらうための信頼を得なければ意味がないんだ。

特に新人だったら技を披露して印象づけてから覚えてもらうことも1つの手段だろう。

2つ目に自分が何をできるのかを知ってもらうこと。即時チームアップをした際に円滑な事件解決が見込めるからね。そうすることで被害の拡大を防いだり、強敵に立ち向かえたりするから…ヒーローへのPRと考えれば良いかな。

3つ目は敵に対しての抑制。オールマイトがこれを実践していたと思う。何処へでも直ぐに駆け付ける脚力、見付かったら逃げられない圧倒的パワーとスピード。彼ほどの抑制力はないかもしれないが、私の個性はこの部分に尽力するものだ。


「次は誰がインタビュー受ける?」

『模範的なの欲しいから委員長からいきましょうか』

「了解です!委員長参ります!」


フルスロットルな飯田くんが階段を駆け上がる。

再度私のアピールポイントを考えるけれど、結局出てきたのは口頭で説明する地味な画だった。




【公然】
世間一般に知れ渡っているさま。不特定または多数の人が知ることのできる状態にあるさま。

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