余聞というもの

12月下旬、メディア演習。

クラスの殆どがMt.レディからのインタビューに即興で応えている。一部生徒はメディア向けな発言ができないため咎められていたけどね。ほら、あそこの勝くんとか。


「俺ァテキトーな事ァ言わねぇ!黙ってついて来い」

「うん…一人だとまだマシね。わかったわ、ソリが合わなかったのね。人類と」

「悪ぃ…俺たちがいたから丸々カットに」

「轟くんは悪くないわよ。脇役の私にすらコメント取られる態度がいけないんだから」

「うっせーぞ!!思い上がんな!てめーらなんぞが俺に影響与えられるワケねェだろが!!」


彼はメディアにでない方が彼のためにも良いのかもしれない。最早人類に合わせる気のないコメントや態度に先生たちも困り顔だ。

よく考えてみればそんな人と私たちは物心つく前から一緒だったなんて信じられない。というか…よく考えなくても彼と付き合ってる私は凄いのでは…?


「私たち人類と合わせる気ない人とずっと一緒とか凄くない?」

「そうだね…僕なんて保育園からずっと同じで最近まともに話せるようになったから人類とかっちゃんが会話できる日は遠いかも……あ、でもシオンちゃんは”特別枠”だよね」

「それは……私が誰にでも合わせられる技術があるからじゃない?」


その特別枠に入るまでに紆余曲折していた癖にね…偉そうに技術とか言っちゃって。彼は人類と合わせる気がないから周りがどうにかして合わせていかないとダメな気がする。

たぶん、頑張って合わせようとしたら彼の良さもわかってかっこいいヒーローなんだって気づく……と思う。たぶん。そして、残りのインタビューは私といずの二人だけとなった。


「次は…環心さんいきましょうか」

「わかりました」

「じゃあ早速…えー、ヒーローハーツ今回の事件のスピード解決流石です!突入指揮を執ったそうですね」

「…情報をたくさん収集できるのが私の強みですからね。事件の解決は私の指揮に賛同してくださったヒーローたちのおかげです」

「個性で情報収集!それはどのように行うのですか?」

「視て、触れて…考えていることまで見透かせるので私に嘘はつけませんよ」

「……なーんか、模範的すぎない?」


Mt.レディからのコメントは、可もなく不可もなくといったところ。シチュエーション的には神野区での突入指揮のような感じだろうか。

インタビューに応えるときは自分の個性の特徴を交えながら良いんだろうが、私の個性は人には見えないためアピールがかなり難しい。

ミッドナイトの個性”眠り香”は見えないが、個性に由来しているらしいあのコスチュームは何人の記憶にも残るだろう。

相澤先生とプレゼント・マイクも見えない個性だ。相澤先生はメディアに出ないことを前提に活動しているから、今回の授業では参考にならない。プレゼント・マイクは個性と性格をマッチさせアピールしているからこちらも参考にはならない。


「キメ台詞を作りましょう。例えば、オールマイトは”私が来た!”ってあるじゃない?」

「キメ台詞ですか…」

「……、”丸裸にしてあげる”…とか」

「却下で」

「生徒を犯罪者にしたいんですか、センパイ」


決め台詞という考えは妙案かもしれないができれば私はプロになってメディアに出ることは控えたい。だって情報を仕入れる上で顔がバレていたら潜入捜査とかしにくくなるじゃない?

残念ながらこの授業の評価は中の下と言ったところだろうか。結局は地味だけど誠実に求められている事いついて応えるという形に収まった。

最後にインタビューを受けるのはいず。


「デクくん、でしたっけ!?活躍見ました!」

「それは…良かった。良かったです……!」

「ご自身ではどのようにお考えでしょうか!?」

「それは…良かった……!」


カチカチに固まって"良かった人形"と化したいずはこの人数でも緊張してしまっている。クラスメイトには不格好な姿なんて散々見せているっていうのに、今さら何を緊張する必要があるのさ。


「いつも通りに話せばいいのに」

「…って言っていつも通りのブツブツ始まってんじゃんかよ」

「ボソボソ長ェ……」

「あれは初見で引かれる可能性大ね」


自身の事について話すのは儘ならなかったのに、そこに敬愛するオールマイトが絡んでくると瞬時に饒舌になる。ナードの根幹は変わらないらしい。


「そういえば例の”暴走”…進展があったと聞いたけど、大丈夫なの?」


ミッドナイトが心配していたのはB組との対抗戦で暴走した”黒鞭”の個性。あれから約2週間、放課後に勝くんと特訓していたから前みたいに暴走することはないだろう。

気持ちを静めて彼がイメージするのは鍵のかかった扉。

それを1つ、開ける。


「よっしゃ!!……今はピョロっとですがコントロールの第一歩です。ゆくゆくはこれも」

「「なにそれ」」


フルカウルを纏いサポートアイテムから少しだけ飛び出した黒い…鞭にも満たない紐のような個性。Mt.レディやミッドナイトが想像していた進展具合ではなかったらしいがいずにとっては大きな一歩。


「重厚な南京錠じゃなくて…引き出しくらいのイメージで個性引き出すにはもうちょっと時間かかるかな」

「ピョロっとで喜びやがって」

「レベルアップには経験値が足りないみたいだわ」


勝くんとの特訓も慣れてしまえば大して成長は見込めない。オールマイトにみてもらってはいるものの、やはり体育館での特訓と校外でのインターンでは得られるものに差があった。

私たちが厳しい世界で生きていくためには、もっと成長しなければいけない。


晴れた冬空に、虎落笛が鳴る。




【余聞】
本筋とは離れた話。また、聞き漏らしていた話、溢れ話。
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