舌長というもの

12月中旬、更衣室。


「汗ちゃんと拭かないとすーぐ冷えちゃうね」

「寒〜い!」

「葉隠さんの気合いすごいわぁ…」


冬で雪が降っていようと演習は行われる。野外演習もあるけれど今日はUSJでの体力強化訓練だったため皆かなりの汗をかいた。ハイネックのインナーが湿って気持ち悪い。

コスチューム着用で土砂ゾーンをずっと往復は足腰にクる。体力強化だから個性は使わずにってのが辛かったみたいだ。

女子では私と芦戸さんと梅雨ちゃんがトップ争いをして最終的には私がスタミナ勝ちした。一応負けず嫌いだから意地になっちゃったところはある。


「私は手が砂に埋もれて熱かったわ。乾燥するのも苦手なのよね」

「キツかった…次は環心に勝つから!」

「私も負けないから」

「グぅ〜あれ、環心ここ怪我してる」


芦戸さんが後ろから指差してきたのは首というか肩というか…項かな。自分では確認しきれない場所でいつの間にやら怪我をしていたようだ。鏡を写し合わせて確認すれば薄い赤み。


「……鬱血痕、キスマークだ」

「「「「「「え」」」」」」

「絶対そうだ!お相手は!?緑谷?轟?爆豪???」

「…なんでも恋バナに結びつけないの。この前、敵と戦ったときのよ」

「えーつまんないー!もうすぐクリスマスなのにぃ」


恋バナ大好きな彼女はなんでも恋に結びつけたがる。

勝くんと轟くんが仮免を取得した日に負った傷が治っていなかった。そうそう、違法サポートアイテムで攻撃されたのが当たったんだよ…

…いや、違うってのは解ってるんだけど。

気づかぬ間に鎖骨と項に…鎖骨のは暖めたり冷やしたりで直ぐに消えたんだけど気づかないところのは流石の私もわざわざ自分を視ないと視えないよ。

1週間も経っているのに消えないキスマークは、彼の執着心のようで、暫く触れていない温もりとアダルティな時間を思い出すのに苦労はしなかった。



 *



 *



数日後。

手足が冷たくなる季節、寮の気温は22度を保っていた。個性の影響で梅雨ちゃんの活動が鈍くなってしまうからA組は特に気を使っている。

だから授業が終わり寮に戻っても寒い思いをすることはない。だが、A組の面々は今別の意味でヒヤヒヤしていた。


「えーっと…次の質問しますね。二人の息はピッタリでしたけれど普段から仲良く訓練されてるんでしょうか!?」

「そう見えンなら眼科か脳外科行った方がいいぜ」

「仲は良いです」

「ハァ!?テキトーこいてんじゃねーぞ!いつ仲良くなったんだコラ!」

「仮免補講で一緒にいる事多かったろ」


仮免を取得してから30分での事件解決。これほど面白いネタはないだろう。しかも雄英体育祭で1位と2位の成績を収めた二人でその後も何かと有名人だしね。

雄英に取材交渉をするには様々な制約がある。雄英内に入っても問題ないかをくまなくチェックしたり、持ち込み物も制限があった。

だから今取材しているテレビ局の人たちはめんどくさい手続きをいくつかクリアしてようやくここにいる。先日来た2局もしっかりと手続きをしていたらしい。

苦労したにも関わらず…取材に訪れてみれば…


「何だそのシステムは!時間と親交は比例しねェンだよ!」

「システムって何だ」

「知らねーよ!てめーも脳外科行けや!!」


質問しているお姉さんが哀れに思えてきた。到底仲が良いとは思えない二人からは良い回答は貰えそうにないし、既に取材に来た2局もこんな感じのインタビューで終わってたなぁ。


「あの二人…やる気あるのかしら」

「殺る気はありそうだよね…かっちゃん」

「殺る気あったらアカンやろ。環心さんは今回も取材は受けんの?」

「今回取り上げるのは”仮免取得30分で敵退治した雄英生”だから私は当てはまらないよ」

「あの二人の仲裁するのがめんどくさいだけでしょ」


その通りです。4人掛けソファーの真ん中二つに座ってしまえばカメラも引かずに撮れるだろうに、勝くんはわざと端に座っている。

話も噛み合っていない二人の間に私が入るとしたら間違いなく挟まれる場所に座らされるし、二人の言葉を通訳してあげなくちゃいけない。そんなめんどくさいことは御免被りたい。


「んー…じゃあスピーディな事件解決の真相を教えていただけますか」

「それは索敵能力に優れたクラスメイトが的確に指示を出してくれたからです」

「は?シオンなんざおらんでも俺だけで解決できたわ」

「でも初動を速くできたのはアイツが状況整理したからだろ。敵が逃げないようにフィールド作ったり捕獲も手伝ってくれた」

「それがクソスクエアの仕事なんだよ」

「えーっと…事件当時一緒に行動していたクラスメイト…でしたっけ。お話伺いたいんですけどどちらにいらっしゃいますか」


急いで飯田くんの後ろに隠れる。しかし、皆が私の方を見るから視線がこちらに突き刺さっているのが視えた。やめてよ、何で私まで巻き込んじゃうのさ。轟くんのそういうところ天然すぎて意味がわからない。


「…」

「シオンちゃん話聞きたいってさ」

「…いませーん」

「誠心誠意回答することもヒーローとしては大事なことだぞ!」

「あっ、ちょっ、飯田くん!」


飯田くんがくるりと身を翻すものだから私の姿が晒され存在を確認され、渋々カメラの前に姿を現すとマイクが向けられた。


「仮免許は同じ日に取得したんですか?」

「私は夏季の仮免試験で取得していました。その日は個性強化のために補講に同行させてもらっていたんです」

「なるほど。現場に居合わせて、間近で見たお二人の活躍はどうでしたか?」

「…もともと実力はクラスでも抜きん出ている二人なので戦闘面に関しては何も心配はしていませんでした。状況判断から鎮圧まで5分弱…これからも多くの事件を解決すると思います」


模範解答にスタッフさんたちはまともなコメントがとれて喜んでいるみたいだった。ちょっと待って…これ流さないよね…?

再び轟くんと勝くんにカメラは戻る。そつなくコメントしてほしいけれど的を射ていない回答をしたり、テレビでは流せない汚い言葉を使っていたりしていたから使われる部分は少ないだろう。私が構成しても二人のインタビューが使われるのは30秒ないかもしれない。


「流石や環心さん、良いコメントするよね〜」

「あの二人が普通のコメントしてないだけよ」

「かっちゃん今回は喋ってるところ使われるかなぁ」


今から持って帰って構成して編集してだから…それが明らかになるのは明日のニュースだ。


「私だったら切る」

「だよね〜…はは」


皆解りきっている質問のようだった。




【舌長】言い過ぎである。言い方が生意気である。
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