速断というもの

入学式、放課後。


「ねぇねぇ!何で朝教室にいなかったの?」

「お名前は?教えて!?」


窓側一番後ろの一人だけ飛び出した場所。そこが私の席。名字は"わ"から始まるから出席番号は大体最後だから慣れているけど。


「名前は環心詩音。朝は入学式に出るから教室には寄らずに式場に来るように言われてて」


好奇心旺盛なクラスメイトだ。女子の比率は男子より少ない予測はできたけど思ったより多い。葉隠さんの表情は読み解くことができないから個性をしっかり使わないと何考えてるかわからない。


「なぁなぁ、あんた入試の時の子だよな?」

「……瀬呂くんだ!」

「実技試験凄かったから受かってるだろうとは思ったけど…再試って何したんだ?」

「あー…筆記を追加で2回」


皆少し引いている。雄英の筆記は他に比べて難しい。難易度のレベルが他校より2,3段階上なのだ。中には難しすぎて二度と受けたくないという人もいるらしい。


「筆記は個性使用禁止だったでしょ?カンニングを疑われてしまって…」

「ってことは疑われるくらい点数が良かったのか!?俺筆記は自信なかったのに」

「じゃあさ!入学式出たのは代表挨拶だ!」

「まぁ、そう…それ終わって皆の所に行ったの」


雄英の入学式の新入生代表挨拶は筆記成績トップが行うというのは常識として知られている。そのため、みんな目を輝かせて「わかんない所あったら教えて」と友好的。

入学式の時に感じた他学科の子達からの妬み嫉み僻みは感じない。こういうところからヒーローの素質は違うのかと実感する。


「んー…教えるの下手くそなの。中学でも勉強会してたんだけど細かすぎてわかんないって言われてねぇ…」


遠目をして思い出してみても、個性柄見ればわかる、聞けばわかる、触ればわかる、なので説明しようとしたら情報量が多すぎてしまう。回りは落胆しているのが申し訳ない。


「中学と言えばさ、緑谷と爆豪とも一緒?」

「二人とも名前呼びじゃね?」

「中学同じだったよ。いずとは生まれた頃からのお付き合い、生まれて並べられたベッドが隣だったの。爆豪くんも家が割りと近かったから昔何回か遊んだことはあるよ」

「じゃあ競い合いながらここに来たんだな!」


赤髪の切島くんがなぜか燃えながら言う。まぁ色んな意味で互いに刺激し合いながらの中学生活だったと思う。あ、競うといえば…


「爆豪くん、入試の勝負は私の勝ちだよ」

「実技は俺ンが上だ」


先ほどからこちらを睨み付ける爆発野郎の側に行き挑発してみる。筆記に関しては中学の間私がずっと上だったから、この結果も予想はしていたんだろう。皆に話すのを聞いていたのかして反発はないからご理解いただけた様子。


「実技の点数私聞いてないや。上かもしれないけど…じゃ今回はドローってことで」

「ムカつくなぁ、没個性が俺に勝てるわけねぇだろ」

「フィブリス…お灸すえられちゃえ」


フィブリス…傲慢で自尊心が高くて後に天罰が下る。このクラスには強個性だけでなく強い心技体を持ち合わせた人間ばかりだ。彼は確かに色んな意味で強いがそれは中学までの話。きっと彼はクラスメイトの誰かに負けて挫折する。それはきっとすぐに。


「っは、説教か?なら俺に勝ってから言え!」

「…身長体重、デカイ態度以外で負けたことないけど?」

「ンなこと聞いてんじゃねーよ!実技で負かしてやるわ!テメェなんか一瞬で殺してやる!」

「このやり取り懐かしいわね、まるで成長してない…本当にヒーロー志望なのか疑わしいわ」


ちょうど1年前に起こったヘドロ事件の日に彼を嫌悪した会話。恐らく彼も覚えているだろうけれど、気持ちを改めてヒーローになろうという意思は見受けられない。


「爆豪くんは最高のヒーローにはなれないわね」

「黙れクソスクエア。テメェが実技通ったのも奇跡だわ。俺よりも弱いことを証明してやる」


その言葉が間違いであることを、まだ知らない。




【速断】
素早く判断・決断すること。早まった判断。
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