緘口というもの

仮免終了後、事件解決。

敵を集め警察に引き渡す準備をしていたら、この地区担当のヒーローがオールマイトと姿を表した。不自然にスライドしてるのが個性か。


「やや!君は雄英のヤバイ子だね!?」

「語彙力この野郎!」

「勝くんも大概だと思うなぁ」


良くも悪くもマイペースのヒーローは、敵を鎮圧した勝くんと轟くんに抱きつきその活躍を称える。ちなみに私は遠慮させていただきました。

知っている人にハグで褒めてもらうのは嬉しいけれど、初見のヒーローにあそこまで熱烈に抱きつかれるのはねぇ…まぁヒーローもセクハラに当たってしまうと危惧していたので利害の一致だ。


「籠手爆発したぞ」

「したね!闇市製の粗悪品を使うからだ!」

「それにしても……凄いな、3人とも」

「ありがとうございます」

「あっす…」

「ンガッ」


オールマイトに頭を撫でられる二人は憧れの人に褒められて嬉しいけど、外で子ども扱いはあまり好きではないようだ。素っ気ない態度の轟くんと、オールマイトの手を、頭を振り払い拒否した勝くん。

オールマイトにとっては、私たちはいつまでたっても"教え子"という枠から出そうにない。敵もやっつけたヒーローなのにね。

その敵へ視線をやれば警察はまだ到着しておらず現場保存ができていない状況だった。粗悪品と言っていたけど放出された炭酸水は殺傷能力のあるもの。質は高そうなサポートアイテムだった。

火力は高いけれど持続は期待できない使い捨てタイプのようなものだろうか。それも触って視れば製造者も解るから捜査協力しておこうかな。


「お嬢さん!証拠に無闇に触ってはいけないよ!」

「あ、すみません。個性で視て…」

「環心少女ここは任せて私たちは帰ろうか。油売ってたら相澤くんにボヤかれてしまう!」

「……今行きます」


勝くんと轟くんの仮免取得後初の事件解決は、とてもスマートに幕を閉じた。



 *



 *



夜、寮。


「二人ともお疲れ〜!」

「そんでもって仮免おめでとー!これでA組も全員仮免持ちだね!」

「俺の唯一のアドバンテージがぁ〜…」


帰宅すれば皆が二人の仮免取得を祝っている。砂糖くんはお祝いのデザートで、八百万さんはいい香りの紅茶で労ってくれた。


「てかさ!仮免取ってからすぐ事件解決したんでしょ!インタビューとかされた?テレビは映像あんまり無かったからさ!」

「まぁ…ヒーローが近くにいなかったからな。俺たちなら対処できると思って」

「あんな雑魚の余裕だろーが」

「はぁ〜ツートップは言うことが違ぇぜ」


事件については守秘義務もないので武勇伝として語られるだろう。なんだっけ、勝くんが前言ってた。

あ、トップヒーローは幼い頃より数々の逸話を残す?だっけかな。良かったね、仮免取得して30分で事件解決なんてすごいじゃん。普通じゃないね。

それを言ってあげれば肘でどつかれた。褒めたのにそんなそんな反応しなくていいじゃない。


「環心は怪我大丈夫?頬っぺた切れてる」

「2ヶ所の擦り傷だから平気だよ。ただタイツが犠牲になった」

「綺麗なお顔に傷が残ったら大変ですわ!私手当て致します!」

「大丈夫だってば。お風呂入って綺麗にすればすぐ治るよこれくらい」


顔に傷が残ってしまうのは嬉しくはないことだけと、小さな切り傷だから深刻に考えなくていいでしょう。

夕飯とお風呂を済ませば後は明日に備えて寝るだけ。コスチュームが入ったスーツケースを広げて、もう一度目良さんに渡されたボタン型通信機器の説明書を読む。

…公安から信用されているのか、利用されているのか。後者だろうけど私には拒否権がない。視てしまったら拒否できないよなぁ。

コンコンコン


「…はーい」

「開けろや」


時間は22時18分。こんな時間にお客様とは…その相手は一人しかいないんだけどさ。


「眉間にシワが寄っている怖い人は部屋に入れたくないです」

「これがデフォだろ」

「そうだけどさ。せっかく仮免取れたんだから喜びなよ。いずとか泣いて喜んでママさんに報告してたよ」

「クソナードと一緒にすんなや」


眉間のシワそのままに部屋にズカズカ入ってきた彼は、内心は仮免取れて良かったーとか思ってるのかな。事件の解決も相まってアドレナリンが出て眠れないようだ。


「勝くんも紅茶飲む?」

「ああ」


電気ポットでお湯を沸かせ2人分のカップを用意し、鮮やかな赤色と酸味のある香りのハイビスカスティーを淹れる。八百万さんに分けてもらったもので疲労回復に良いらしい。

ミルクは入れずに爽やかな酸味を堪能しながらほっと息をつけば、緩んだ頬を勝くんに引っ張られた。人のリラックス時間の邪魔をしないでよ。


「何?」

「別に」

「あ、マフラーダメにしちゃったの怒ってる?」

「そんな器小さくねぇよ」


嘘つけ。ちょっと前までだったらぜっっっっったいに怒っていた。私に非があるから怒られても仕方ないんだろうけど…ん?


「だったら何?」

「何かねぇのかよ」

「あのさぁ…質問を質問で返されるのは困るんだけど?」


何かとは何なのだ?マフラーのことでもないし明日提出の課題のことでもなさそう。仕方がないから顔を伺って感情を汲み取るしかないみたいだ。


「…仮免取得おめでとう、とか?」

「他には」

「他?……んー、事件の解決お疲れさまとか?」

「で」


会話をする気のない相槌にめんどくささを感じつつも、甘えたそうな彼に大人な対応をする。勝くんって付き合ったら俺に着いて来いタイプだと思っていたけど案外甘えてくれる。

私としてもそれでケアできるし、頼られているんだなって嬉しくなるからいいんだけどさ。

どうしてほしいかは言ってくれなきゃ解らないよ。個性で視ても良いんだったら話は別だけどね。


言葉にしてよ。


それが時と場合によっては余計なことであると…この先、嫌と言うほど実感することになるだなんて、今は知る由もないのだった。




【緘口】口を閉じてものを言わないこと。
- 125 -
[*前] | [次#]

小説分岐

TOP
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -