仮免試験終了後、帰路。
「皆さん!こちらへ!」
「私も避難誘導にうつr…ッ、このっ!」
「お嬢ちゃんは俺たちと遊ぼうぜ!」
役割を避難誘導にシフトしようとすれば、轟くんの氷結から抜け出した敵たちに拐われそうになる。
戦闘特化型の勝くんと轟くんがいればこの場を制圧することは簡単にできてしまうだろう。ぶっちゃけて言えば私は邪魔なんだけどな。
「戦えるか?」
「んー?誰に言っているのか、なッ?!」
ナイフを投げて牽制し距離をとる。敵は綿密に計画していた悪行を語るが私たちにとっては”敵”であることには変わりない。
轟くんの隣に避難して彼の攻撃に巻き込まれないようにする。敵には二人の個性は知られているようだが、それは体育祭のときの話。
強烈な範囲攻撃と、豪快で繊細な局所攻撃。
「くっそ!!俺たちはこの年末の忙しい中この時間この場所に狙いを定めたってのに!」
「働けや」
「予定潰れて残念だったな」
「……逃がしてあげないから」
崇高な精神のように逃げる覚悟を語るな。そんな精神クソ食らえだ。一瞬で敵のほとんどを爆破でダウンさせた勝くんはさすがだと思う。だけど詰めが甘い。
気絶させた敵を拘束するまで油断しちゃいけないの忘れちゃったのかな?爆破で焦げ臭くなった敵を集めて、テグスで暴れることも逃げることもできないようにする。
「おっおおおっおおお強ッ過ぎじゃあ!!」
敵は残り一人。リーダーらしき敵は腕にサポートアイテムをつけている。それにより私のテグスのように放出された水…じゃなくて炭酸水は、まるでナイフのような切れ味を生む。
四方八方に放出されたソレは、水圧が強く太股と頬にかかすっただけで血が流れた。アヘッドで視ていた威力の予想以上。というか使用者本人も期待以上のパワーアップに精神が乱れている。
「雪と氷のカーニバル…」
「お嬢さんっ!ダメだ!!」
「!?ッ街灯!」
非日常的な光景に目を眩ませた女性が、オールマイトの誘導を無視して危険地帯に足を踏み入れた。私の足では彼女を庇うことはできないし、倒れる街灯を突き飛ばすようなパワーがない。
「くそっ!!自殺だったら他所でやれッ!」
女性はオールマイトが、街灯は勝くんが飛ばしてくれた…一応テグスで女性に当たらないくらいには軌道を変えることはできたけど、私の手助けは要らなかったようだ。
「ハハハこれっ!最強じゃああ!!」
「んっ、いった…」
「ヒャ〜たっのしィ俺強ぇ〜!!」
追加で放出された攻撃が髪の毛をかすった。散った黒髪に舌打ちしつつアヘッドモードを強化する。
体内からアッパーは視られず違法薬物は使っていない。しかし、あれ間違いなく違法製造されたアイテムだ。
薬は副作用が露呈したり検挙されてから売れなくなった。だから今度は違法サポートアイテムって?敵ながらめんどくさいことしてくれるわよね。
攻撃を避けながら避難状況の確認。市民の避難は完了しているし、敵は目の前のアイツ以外の意識はない。
「轟くん…体育祭のできる?」
「?……アレは、被害出るぞ」
体膨張率は1/273だけど、炭酸水の酸素濃度は多いからもっと熱膨張するはず。
体育祭のときと似たような状況で以前と違うことと言えば、私が視ていることと彼も炎の制御が可能になったということ。
あの時は約800度の熱膨張に加えて、いずと轟くんの衝突でかなりの圧力がかかっていた。今回はそのパワーがないから純粋な膨張率の計算だけでいい。ということは…
「気温マイナス2…正味700度で十分よ」
「…低すぎるのも難しい、ンだけどなッ!」
700度で低すぎる…らしい。まぁ2000度は出せるようになったからそう思うんだろうけど、彼によって産み出された熱波は余裕で敵を気絶させられるくらい過激なものだった。
「な”ぁ”!?」
「炭酸って暖めたら抜けるンだよな」
炭酸はただの水となり飛散し水蒸気と化した。炎は出ておらず高温の熱波を出すことができ、顔面が熱くなったと思えば凄まじい爆風。
私も風圧で飛ばされそうになるが彼が氷で足場を固定してくれたおかげで耐え忍んだ。スカートの間を熱風が通り抜けてヒラヒラと舞う。
「あつッ?!……700どころじゃないわよッ」
「わりィ。まだ調節が難しいんだ」
「あ”!?勝くんのマフラー…」
轟くんの近くに居すぎたせいか彼が放つ熱が燃えやすい生地だったマフラーを融かす。700度くらいでお願いと言ったのにも関わらず、それ意以上の温度だったみたいだ。さっき勝くんに借りたばっかりなのに不注意でダメにしてしまった。
「勝くんごめん…マフラー」
「汚ねェ下着見せとんじゃねェ!」
「下着って…いや、まずタイツだから見えないわよ」
「ンなもん履いてンじゃねェよ!」
「言ってること矛盾してるから!バカッ!変態!」
マフラーのことはそっちのけで口喧嘩。
その後ろでは"粗悪品"と呼ばれる、違法製造されたアイテムが煙を出した。
【後見】
背後に控えて世話をすること。またその人。後ろ楯。
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