仮免試験終了後、コンビニ。
「買い食い…」
「肉まんは嫌いだったかな?」
「いえ、好きですよ。でも私も貰っちゃって良かったんですか?」
「二人の合格祝いと、環心少女のお疲れ様の意を込めてね」
帰りのタクシーを待つ間に寄ったコンビニで、オールマイトから奢ってもらった肉まんを貪る。鼻から抜けるお肉の香りと湯気までもが美味しく感じた。
勝くんと轟くんは中で何か買っているらしく私は特に用事はないので雪を眺めて待つばかりだ。天気は雪だけど、晴れて全員が仮免を取得することができた。
戦闘を含めたテストだったから、彼らは心置きなく実力を発揮できた様子だ。仮免許の写真を見せてと言ったけれど、二人とも恥ずかしがって見せてくれなかった。どうせ帰ったら皆に集られるんだからいいじゃないの、ねぇ?
「寒い〜!」
「だからマフラー巻いて行きなさいって言ったじゃないの」
「だってぇ〜……」
待つ間にコンビニにやって来てきたのは小学校に上がっているかどうかというくらいの年齢の男の子とその母親。雪が降っているのにかなり薄着に見えるが、寒さに耐えきれずここに暖を取りに来た…といったところか。
あの男の子、鼻が真っ赤になってる。
「お姉ちゃんのマフラー使って」
「えっ!いいの!」
「うん。お姉ちゃんはもうすぐ帰るし、おうちにもあるから」
ネイビーのマフラーを巻いてあげればピョンピョンと跳ねて手触りを確認している。色も男の子が巻いても似合うし…ブランドものじゃないけど渋いデザインだと思うよ?
喜びから頬に赤みが差す。嘘は言っていない。エリちゃんと作る予定だったシュシュの毛糸はまだ余りがあるから、新しく作ろうと思えば作れるしネックウォーマーもあるからね。
「そんな、申し訳ないです…」
「いいんですよ。風邪引いてしまう方が問題ですし、ヒーローはお節介しちゃうんですから」
「お姉ちゃんヒーロー?オールマイトがいるからゆーえーこーこー?!」
「ふふ、そうよ。見習いヒーローしてるの」
「おや、この姿の私も知っているんだね」
さらにピョンピョン跳ねてそれはまるで某ヴィジランテのよう…いや、これは明らかに滞空時間が長すぎるから個性か。
ヒーローの単語とオールマイトの姿に先程よりも頬が赤くなって興奮している。
「僕もっ!ヒーローに!なるのっ!」
「ああっもう!そんなに跳ねないの!」
どうやら嬉しいと飛び跳ねる癖があるらしい。薄着の理由を聞くと雪が嬉しくてピョンピョン跳ねながら外に出てしまったと。母親は申し訳なさと焦りで眉を下げているけれど、将来がとても楽しみな男の子だ。
「こーら。お母さんを困らせるのはヒーローがすることかな?」
「ん!困らせない!」
「なら飛び跳ねるのは我慢ね」
「はーい!」
元気な返事と共に地に足をつけた彼は褒めてほしそうな眼差し…頭をグリグリと撫でてあげれば、にこにこと聞こえてきそうなくらい喜んでいる。
「タクシーも来たことだし私たちは失礼しようか」
「え、いつの間に」
正面を向けばオールマイトがタクシーから声をかけ、買い物を済ませた勝くんと轟くんは私の後ろに控えていて何やってるんだ的な顔で見られた。
意外と早いお買い物だったな…コンビニの袋からは赤いパッケージが見えて、目的の激辛の何かをすぐに見つけられたからもう終わったのね。
男の子と母親に小さく手を振ってタクシーに乗り込む。うん、来るときと同じで私は後部座席の真ん中だ。
「ハックシュ」
「環心少女、お節介は良いけど君が風邪をひかないようにね」
「っけ、貧弱が意地張ってンなよ」
「やっぱり俺の左側に座るか?」
「ングっ、大丈夫だよ…ちょっ、マフラー巻かなくていいって…」
来るときと似たようなやり取りの後に右横から勝くんが私の首を絞めてきた…という訳じゃなくて、彼の髪の毛と同じ色のマフラーが首に回っている。
ただちょっとくしゃみが出ただけなんだけど、皆に心配…というか過保護にさせてしまったぞ?と思いつつも好意を甘んじて受ける。
勝くんのマフラーからは甘い香り、心なしか暖かくなった車内はタクシーの運転手さんか轟くんが温度を上げてくれたおかげかな。
あ、オールマイト…青春だなぁって思ってるでしょ?
「おい、あれ」
「んん!?トラブルか!?」
「みたいですけど…」
「発生直後か、大丈夫。30秒もしないうちにヒーローが…」
騒がしくなった外を見てみれば、一定方向から逃げているように見える。
直ぐにヒーローが来るだろうと少し待機してみたけど来そうにはない。個性を展開してみれば1ブロック先に敵が7人…周囲のヒーローは謀ったかのように視られない。
「……近くにヒーローいません。到着までに3分49秒かかりそうなので私行きます」
「…じゃー俺も行くぜ」
「ム!3人とも!まずは周囲の状況を」
「確認済みです。私たちは敵を、オールマイトは避難誘導をお願いします」
「あなたは戦えねぇが、俺たちは戦える」
タクシーを勢いよく飛び出しテグスを伸ばす先は敵。統制されたひったくりは褒められたもんじゃないけれどリーダーらしき彼は自信満々に周囲に何かを撒き散らす。
避難、敵グループの確保、最低限の損壊。最善解にするためには…
「轟くん敵を囲って。勝くん上から」
「…解った」
「言われんでもわーっとるわクソシオン!」
私たちの登場は予想外だったというように、氷で動きを封じられた敵たちはイラつき出した。けれど制服姿を確認すると、焦る必要はなかったとうように高笑いをする。
「まだ取って30分だぞ!」
「何分経ちゃヒーローなれンだよ?」
「私たちは今…ヒーローです」
ヒーローの門出、参りましょう。
【善根】よい報いを受ける原因となる行い。
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