薫陶というもの

合同演習翌日、朝。

今日の早朝ランニングはお休みだ。怪我の影響もあって走れなくて、今からリカバリーガールのところに行って怪我を治してもらうところだ。

その後に相澤先生から教員寮に来てくれと言われたのでそこにも足を運ぶ予定。何だろう…エリちゃん関係のことだとは察しが付くけど。

怪我を治してもらうときにリカバリーガールからお説教を食らった。亜脱臼も重症なんだから自己判断で入れてから戦うのはバカがすることだって…ヒーローは大抵バカだからどうしようもないと思うな。

あとキャパオーバーの際の対処法をどうにか確立しなければいけないね、とも注意された。リカバリーガールの手に余ることだから自己管理しとけってことだね。



 *



「シオンちゃんようやく来たね!」

「ハーツさん…ッ、雄英の負の面が…」

「アハハハ!だからァ!僕ほど正道を行く人間はいないってばァ!?」

「こんな感じでさっきから怖がってるんだよ…」

「…エリちゃんに悪い影響与えないでよ」


教員寮に入ればミリオ先輩の足に隠れたエリちゃんと、エリちゃんを威嚇(?)している物間くん。いずはそれにい対して苦笑いを浮かべて、先生は傍観、先輩はカラカラと笑っている。軽いケイオスかよ。

物間くんも呼ばれたみたいだが…彼女の教育上物間くんと一緒にいるのはよくないと思う…根はいい人だって視えているんだけど言動が問題なんだよね。エリちゃんの手をとる姿は王子様っぽいのに残念。

手を取ってから物間くんの額にはエリちゃんとお揃いの角…個性のコピー?


「んー…"スカ"ですね。残念ながらご期待には添えられません、イレイザー」

「……そうか。残念だ」

「スカ?」


相澤先生が考えたのは、物間くんが個性をコピーして個性の安全な使い方を伝授するというもの。

しかし、彼は相手の個性の性質をコピーすることしかできない。何かを蓄積して発揮する個性はコピーできないらしいが、初見の個性を見極めなければいけないのを考えると意外と複雑なの扱っているんだな。

私の個性の”しんり”はその場で視ることで理解してしまうものだから物間くんにも使うことができた。キャパオーバーになってたけど…

じゃあいずの個性をコピーされていたら?あの時の物間くんはいずの個性をコピーして無双したかったんだと思うから…譲渡されたワン・フォー・オールの個性は複雑になっていてその性質は検討もつかない。


「ごめんなさい…私の力、皆を困らせちゃう……。こんな力無ければ、よかったなぁ…」

「困らせてばかりじゃないよ。忘れないで、僕を救けてくれた」

「そうだよ。凄く優しい個性だもん。"ごめんなさい"じゃなくて、心配してくれて"ありがとう"って言ってほしいな」


笑えるようになったからと言って、周りに不幸を与えてしまったトラウマはどうしても消えない。例えば大人になっても嫌いな食べ物が克服できないように。

個性の使い方はこれから一緒に考えていけば良いんだよ。不安がることはない。だって貴女の周りにはヒーローがいっぱいいるんだから。

相澤先生も、ミリオ先輩も、いずも、物間くんも…私もいる。優しい眼差しを一身に受ける彼女は眉を下げて拳を握りしめる。


「あり、がとうございます…私、やっぱりがんばる」

「ふはっ。うん、偉い。かわいいよ」

「……あのね…ハーツさんみたい…に…、」

「?……私みたいに?」

「かっこよく笑って、ギュ〜ってできるようになりたい」


ぎこちない笑顔はまだ練習中ってところかな。作り笑いが得意になってしまうのはいただけないが…私みたいになりたいという姿に母性が溢れる。

可愛い。思わず抱き締めて子供特有の柔らかい頬に頬擦りする。前に抱き締めたときよりふっくらしてる。甘いものが好きだから糖や脂肪の吸収は上手くいっているんだろう。

相澤先生が面倒みるって聞いたときは、効率を求めるあの食事をエリちゃんも真似するんじゃないかって不安になったけど…ミリオ先輩がついていてくれて良かったァ…


「おい、環心そろそろ離してやれ」

「エリちゃんがかわいいから…つい」

「シオンちゃん本当に子ども好きだよね」


子どもは好きだ。純粋な想いは表情だけで視えてその大半が好奇心と好意。たまに意地汚いちびっ子もいるけれど、彼らが皆未来への可能性を秘めた原石。

施設で遊んでいた子や合宿の時に懐いてくれた洸汰くん、仮免補講で出会った小学生…出会った全てに明るい未来がありますように。

そう思うだけで優しい気持ちになれるんだ。


「僕を血だらけで殴った女と同一人物だとは思えないよ!」

「ぇッ…ハーツさん…怪我したの」

「雄英の負の面をやっつけたんだよ」

「やっつけた…」


怪我に対して表情を曇らせていたけど、ヒーロー面で自慢してあげたら笑顔になり尊敬の眼差しが向けられる。そんなに凄いことでもないけれど…ミリオ先輩の腕に抱えられて目線を合わせれば柔らかい感情。

誰かに生かされてきたけど、これからは救っていく立場だ。悲しい出会いと別れを経験して強くなって…

それは一概に”私たち”だけとは言えない。好奇心はハンドリングできて初めて…、未来を語れる。




【薫陶】
指導者の人格に影響されて周りが育っていくこと
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