除幕というもの

保健室。


「ッふ…やーっとお目覚めかよ。いつから眠り姫になったんだ?」

「……勝くんこそ、いつからキスで起こすような王子様になったの…?しかも舌突っ込むなんて…」


今目の前で何が起こった…?

シオンちゃんは演習から今まで眠ったままだった。その原因はおそらく個性によるキャパオーバーだ。そこで起こそうと試みることにしたが…かっちゃんは誰かに電話を掛けてその手段を実行する。

そこまではいい。

キス、したの…?

そしたら起きた?

待って、頭が追い付かない。本当にキスしたの?その瞬間はかっちゃんの背中に隠れて僕からは見えなかったけど…鼻から抜ける悩ましげな吐息はキスのせい?

で、起きたシオンちゃんは舌を突っ込むキスについて言及していた。

ん?僕の理解力が足りないのか?

君たち数ヵ月前まで口を開けば喧嘩してたじゃないか。最近は割りと仲がいいなーとは思ってたけどそういうこと…なのか。

キスまでしちゃってる関係…、ってかかっちゃんの声色が柔らかい…マジか。


「さっさ起きろ。部屋戻ンぞ」

「ちょっと待って…頭痛い……いずとオールマイトにも話さなきゃ。個性の暴走は、………え?いず?」


目を覚まして上体を起こした彼女と目が合った。途端に目を見開き口も開く。マズイぞ、なんて声をかければいいんだ。シオンちゃんのビックリした顔初めてかもとか?二人が付き合ってること?怪我の具合?さっきはごめんねって言うべきかな?

そして思い付いたのは間抜けな挨拶だった。


「…………あ……お、おはよう?」

「君たちが恋仲だったとは…先生衝撃的だよ」

「えッ!?何でいるの!!??」

「マジか!!!かっちゃん??!僕の知らないところで話進みすぎだろ?!」

「あ”あ”?何でわざわざテメーに報告せにゃならんのだクソゴミがッ」

「だって幼馴染みだよ!?その関係が変わるなんて僕にとっては一大事なんだからさ!?!」

「……二人とも黙ってよォ…もぅ…」


シオンちゃんはベッドから立ち上がる。その顔は熱を帯びているようで赤い。怪我のせいで発熱してしまったんだろうか…目元も潤んでいる。

足取りはフラフラしていないけれど首から吊るされた三角巾に腕を通す姿にやっぱり罪悪感が生まれた。僕の暴走がなければこんな姿には…


「シオンちゃん熱あるんじゃない?抱えていくよ」

「あ、いや大丈夫…熱はないよ。自分で歩けるからそんなに心配しないで」

「でも顔が赤いから…」


断られても気になる。保健室を出て階段を下りるときも倒れる様子はなかった。

僕も人には言えないけれど、彼女はよく無理をする人だ。だから一人で抱え込んでしまったり、大丈夫が口癖になってしまわないか心配なんだ。

昔から知る君だから、僕には頼ってほしい。


「ッハ、これだからクソナードは」

「緑谷少年…環心少女が赤くなっているのは何も熱があるからじゃないよ」

「え?」

「大方、私たちに知られたことが恥ずかしいんだよ」


隣を歩くシオンちゃんを見れば俯いてそっぽを向いた。だけど赤い耳は隠れていないよ。かっちゃんはそれを嬉しそうに見てる。

付き合っていることがバレただけならまだしもキスシーンを見られたんだ。たぶんオールマイトはガッツリ見えたと思う。

そりゃね、女の子だったら恥ずかしがる案件だ…、更に俯いて彼女が伸ばした右手はかっちゃんの体操服の裾を摘まんだ。


「……マジか」


そして直ぐ様、右手はかっちゃんの左手に収まった。



 *



「おかえりー、環心怪我大丈夫?」

「ただいま、左手使えないけど平気よ。明日の朝にもう一回診てもらおうかなって。あわよくば治癒してもらう」

「なら一安心!倒れたときはビックリしちゃったよ」


寮に戻れば労う声が迎えてくれる。声の主である芦戸さんは峰田くんを調教しているようだった。

寮にはB組の数名がいて、今日の合同訓練について反省会をしているらしい。だから賑やかだったのね。

晩御飯はビーフシチューだと、ビーフシチューが大好物な飯田くんが教えてくれた。部屋着に着替えて席につけば勝くんはもう食べ始めている。正面に座り準備したビーフシチューとサラダを片手で食べる。

怪我をしているときは不思議なもので食欲が沸く。それは本能的に怪我を治さんとするからだ。痛みを伴っていないからこその食欲だが、片手では行儀が悪く食べづらい。


「探したぞ緑谷。お前も”個性”2つ持ちだったのか?」

「違う違うっ、根本的な個性1つなんだけど、派生というか何というか…僕も初めてで驚いてるんだ…」

「そうか疑って悪かったな」


勝くんの後ろで話す二人は微妙に歯車が合っていない。質問に対して曖昧な返事しかできていないいずに、それでも納得してしまう轟くん。

体育祭の時全力で戦うことを口にしたくせに、俺に対しては個性を隠してた…という訳じゃないなら彼的には問題解決らしい。

なんか…もったいない洞察力だ。

勝くんも同じようなことを考えているようで、スプーンが止まっている。


「手が止まってンぞ」

「自分を見てから言いなよ……私、あなたがしたこと怒ってるから」

「は?」

「起こし方」


個性の影響で、自力で起きるには数日かかっていたかもしれないのを起こしてくれたことは感謝している。

あのときに視えたのは、私が起きなくて寂しがっている勝くんだった。だから起きなきゃって目を覚ましたのに、起き抜けに舌を突っ込まれている私の身にもなってほしい。

しかもそれをいずとオールマイトが見ている目の前でやったなんて…


「いずれはバレんだからいいだろ。手っ取り早ェ」

「そういう問題じゃない…」


知られるのが嫌とかそういうのは無い。でもわざわざ…大々的に付き合いました!以後よろしく!みたいなテンションは私が無理だ。たぶん勝くんも。

ビーフシチューはまだ半分以上残ってる。

勝くんは完食したのに席についたまま頬杖をついて凝視している。ああ、こりゃ皆に知られるのは時間の問題だ。




【除幕】
覆ってある布を取り払って関係者に披露すること。
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