高1春、入学式。
待ちに待った雄英高校での僕のアカデミアライフ。1年A組の生徒はみなあの凄まじい入試を勝ち抜いた猛者である。
ここにいる時点で優秀なのは目に見えてわかっているのだが、いかんせん傲慢な態度をとる彼は浮いている。
シオンちゃん……はここにはいないんだ。経営科も落ちたって聞いたんだけど、シオンちゃんに限って…。暗い思考と新しい高校生活に期待して扉を開けた先にいたのは一緒になりたくなかったツートップ。そして担任は不審者みたいな人。僕のヒーローアカデミアは前途多難なようだった。
*
「「「個性把握テスト?」」」
「お前たちも中学の頃やってただろう。個性使用禁止の体力テスト」
担任の相澤先生が手にした端末にはこれから行うテスト8種目が表示されている。入学式やガイダンスは必要ないとばかりに進む。
「実技入試成績トップはこの中じゃ…爆豪、お前だったな。中学んときソフトボール投げ何メートルだった?」
「67メートル」
「じゃ個性使ってやってみろ」
*
『新入生代表挨拶、ヒーロー科 環心詩音』
「はい」
「代表挨拶って筆記試験成績トップなんだろ?」
「頭良くてヒーロー科に入れる個性とか嫌みかよ、しかも女だし」
「顔整ってるのも、なんかねー…」
他の科や保護者たちの嫉妬や羨望をもろともせず、長い黒髪を棚引かせた少女が壇上に上がり挨拶を書き留めた用紙を取り出した。
「柔らかく暖かな風に舞う桜とともに、私たちは今日、この雄英高校の門をくぐりました。咲き誇る桜の花々は、私たちの入学を歓迎しているかのようです。
本日は、私達のために立派な入学式を行っていただきありがとうございました……………、しかし」
テンプレートの季語を含んだ挨拶から始まり謝辞。このままそつなくこなすだろうと誰もが予想していたのに、言葉を選んでいるかのような…その姿に周りもざわつき、少女は用紙を畳んで述べ始めた。
「私が所属するクラスは素晴らしい式を挙行していただいたにも関わらず、見ての通り出席していません。彼らは今、除籍処分をかけた個性把握テストを行っていることだろうと思います。プレゼント・マイクのお言葉をお借りするなら全くもってシヴィーです。
これから短くも長い高校生活は前途多難です。
クラスや学科関係なく私たちはライバルです。特に普通科在籍の生徒は下克上を狙っているやもしれないため、私もうかうかしていられません。
そして互いに高め合い、支え合い、刺激し合い、叱咤し合いながら…よき仲間であり、理解者となれることを強く願います。
校長先生をはじめ、プロヒーローの先生方、先輩方…いかなる時も努力をしていきますので、どうぞ私たちに壁を与え続けてください。
苦悩し苦汁を飲むと思いますが…PlusUltra。私たちはきっとその壁を壊して成長して見せます。期待していてください。
4月8日 新入生代表 環心 詩音」
「随分と気合いの入った挨拶だったね」
「一応私首席ですから、首席らしく堂々としないとと思ったので…。根津校長、私もA組の所に行って良いですか?」
「HAHAHA、君の出番はこれで終わりだよ。さぁ行ってくるんだね」
彼女の颯爽と歩いていく姿に会場は見ていることしかできなかった。
*
教室に戻り一応誰かいないか見てみるがもぬけの殻。あれ、机の数20しかないし私の名前が書いた席がない。プリントを教卓に置きハブられた回数と同じだけため息がこぼれた。
*
「先生…まだ、動けます…!」
いずの声と直前に感じた風圧。慣れないながら個性を使ったんだ。
「かっこいいですよね、いず」
「ん!?環心少女!入学式はどうしたんだい」
「それはこっちの台詞ですよ。新任がここにいて良いんですか、まったく。個性使ったんですね」
「あぁ、彼は最小限の負傷で最大限の力を引き出した。なんてクレバーなんだ」
相澤先生は本当に除籍してしまう人だから内心ヒヤヒヤしてたけど、いずは一人で危機を乗り越えた。
「私前に言いましたよね"あなたが思っているより多くのことを知っている"って」
「確か君の個性を聞いたときだね。それがどうしたんだい?」
「いずは誰よりもかっこいいヒーローだって、私昔から知ってるんです」
オールマイトは譲渡の話をしたときに彼女たちの関係に疑問を持っていた。新生児のベッドが隣だったと言っていたが、幼馴染みというには一緒に遊んでいないし、親友というには壁がある。
だが大事な場面には必ず居てくれる。互いに好き合っていても恋愛とはまた別で、依存とも違う。
齢15にして多くのことを知ってしまう彼女にはいったい何が見えているのだろうか。
「……それは秘密です」
人差し指を唇に当てる姿は無表情のはずなのに、イタズラに笑っているようだった。
【優良】
品質・成績などが他のものより優れていること。
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