合同演習後、夜。
「オ”ラ”どうした、びびってんのかゴラ」
「待ってって!!待ってマジで出ないんだって!」
「やめー!そういうんじゃないから止めなイガッ!」
デクの黒い個性について何か情報を掴めないかと話し合った結果、実戦で窮地に追い込ませたら発動するんじゃないかと至ったが…何の効果もない。
ワン・フォー・オールもオール・フォー・ワンも不明点が多すぎて何をどう動けば良いのか、こちらはいつも後手に回ってしまう。
解決しようにも、器がゴミのデクじゃ限界があり今も俺に一方的に爆破された挙げ句、今は使えないことだけがわかった。
「ッチ…俺ァテメーのブツクサ聞くとサブイボ立つんだ。扱えねーんなら意味ねェ、帰る」
「今日はこの辺にしとくか」
「はい…、僕シオンちゃんの所に行ってきます」
「私のところにも目が覚めたと連絡が来ないからまだ保健室だろうね。私も行くよ」
シオンは保健室で療養中。左腕の骨折と頭部へのダメージによる脳震盪以外対した怪我ではないが、何故かまだ目覚めない。
「あれ、かっちゃんも来るの?」
「つーかテメェ、よく怪我させた相手にノコノコ顔出せるよな」
「う”…それ凄く気にしてるんだから抉らないでよ」
今回の怪我の要因はデクの黒い個性の暴走だった。普段のシオンだったら視て動けたんじゃないかと思ったが、初手でかすった後様子がいつもと違った。
身体の軸がブレて動きは半秒遅れていた。動揺しているのがこちらにも伝わるようなガタガタ具合。
暗い校舎を進んで保健室に足を進めながら演習の様子を思い出す。ぶっ飛ばされてタンクにめり込んだ後なんかは機嫌が悪いっつーか口が悪かったわ。
「リカバリーガール…シオンちゃんは…?」
「まだ起きてないよ。怪我の影響じゃないかもしれないね。起こし方わかるんだったら起こして部屋に連れて帰ってやんな」
「起こし方…」
「わたしゃ教員寮に戻るから戸締まり頼んだよ、オールマイト」
「はい、そこは私が責任もって…」
目覚めない原因はやはり個性だろう。デクが言うにはキャパオーバーしたときの気絶のし方だったらしい。
つーか起こし方なんぞ知らんわ。
部屋に連れて帰るんだったらこのまま抱き抱えて行けば済む話だが……わからなければ聞くか。
ケータイを取り出してかける先は一度も鳴らしたことはない番号。互いに登録だけしたはいいが今まで役に立つことはなかった。
prprpr prprpr prprpr
『はい、環心です。こんばんわ勝己くん、どーしたんだい?君から連絡なんて初めてだねぇ』
「あー……ばんわ。シオンがキャパオーバーで起きねぇ」
『ふ〜ん。勝己くんがシオンの心配ねぇ。君も丸くなったもんだ。でも僕は君を認めた訳じゃないから!いや、一個人としては認めてるけど…』
電話を掛けた先はシオンの父親。この人は医療従事者だし、キャパオーバーのシオンについても起こし方は知っているだろうと踏んでのSOS。
回りくどい言い方で俺を牽制しているんか…?付き合っているのをシオンが報告してるんだったらその反応もあるだろうが今はそれじゃねェんだよな。
「そーいうんのはいいんで、起こし方」
『はぁ……外傷が原因ではなく個性が原因で目を覚まさないのであれば、シオンに触れて”起きろ”って強く念じて。そうすればそっちに誘導されて起きるはずだ』
「あす」
『…シオンをよろしくね』
「…っうす」
通話時間にしたら2分ほど。最後の言葉が嫌に刺さる。なんつーか、娘をよろしく的な?意味合いは深くは無いんだろーが…任されたんか。
「かっちゃん、誰に電話してたの?」
「誰でもいーだろ」
デクを押し退けてベッドの側に立つ。眉間にシワを寄せとんじゃねぇ。俺にいつも怖いからやめろとか言うくせに、そんな険しい顔で寝るとかしっぺ返しもいいところだ。
包帯は巻かれているが頭の傷はもう大丈夫なはず。体力の関係でリカバリーしきれなかった腕も演習直後より痛みはないだろう。
寝ているシオンを見るのはこれが初めてじゃない。USJや夏休みのi・アイランド…部屋で一緒に寝たときも見たか…
頬には擦り傷。そこに手をあてて想う。
早く起きろ。
じゃねーとキスすんぞ。
寝たふりか?
マグロ相手は御免だわ。
なぁ、起きろよ。
「…んっ、ぁ」
「ッふ…やーっとお目覚めかよ。いつから眠り姫になったんだ?」
「……勝くんこそ、いつからキスで起こすような王子様になったの…?しかも舌突っ込むなんて…」
キスで目が覚めるだなんて、おとぎ話のようだ。それと違うのは軽く触れるものではなく、ディープなやつだったところか。
最初は反応がなかったが、空気を求めるように口は開き舌も絡まった。覚醒するにつれて俺の動きを受け入れるのはいつもと同じ。
「さっさ起きろ。部屋戻ンぞ」
「ちょっと待って…頭痛い……いずとオールマイトにも話さなきゃ。個性の暴走は、………え?、いず?」
「…………あ……お、おはよう?」
「君たちが恋仲だったとは…先生衝撃的だよ」
あ、いるの忘れとった。
シオンとデクは悲鳴を上げた。
【誘発】
ある事柄が原因になって、他の事柄を引き起こす事。
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