連袂というもの

運動場γ、第五試合。

A組
緑谷・麗日・環心・芦戸・峰田

B組
柳・庄田・小大・物間・心操


「私たちにできることってさぁ…」

「視る」

「浮かす!」

「溶かす!」

「くっつける!」


スタート位置に着くまでの最終作戦会議。

攻め切れないし迎撃もし辛いチーム。攻撃の要はいずだ。個性の暴発があったと言っていたが、慣らしているのを視た感じなんともなさそう。


「やっぱ私といずが囮になるよ」

「狙われるから逆手にとって誘い込むのもわかるけどよ…逃げられなくね?」

「私が何のために機動力身に付けたと思ってるのさ?全力のいずはムリだけど梅雨ちゃんに着いて行けるくらいには鍛えたんだから」

「…そうだね。シオンちゃんは心操くんに有効だし、物間くんは複数の個性で僕に来ると思う。狙われる者同士一緒にいた方が対処はし易い。B組は十中八九洗脳を生かした作戦で来るはずだから…戦闘中の会話は顔付き合わせなきゃだね……あ、でもシオンちゃんが視て解ったときは普通で……」

「「さすがオタク…」」


私の個性は狙われる。索敵要員やブレーンが厄介で最初に狙うのが帝石というのは、この4試合でイヤと言うほど痛感した。

リードヒーローだから読むだけじゃなくて、前にも出られる。接近戦がある程度できるのは私のアイデンティティだ。あと足りないスピードを補うことができれば、私の理想のスタイルに近づく。


「あとさ、芦戸さんが言ってたコンビ技やろうよ」

「おー環心ノリ気!いいじゃん、どれする?」

「それは……判断に任せる!」

「結局しねーパターンじゃねぇーか!」


いやー、ね?ぶっちゃけ、相手にどれが有効かっていうのはわからない。酸の雨も柳さんのポルターガイストと、小大さんのサイズがあれば傘っぽく防がれる。モギモギは峰田くん以外触れないから罠か彼専用にしか使えない。

私の個性は目に見えないし触れない。いずがモギモギ蹴れたら面白いけど…くっつくからなぁ。


「今までの試合、チームメイトの弱点を補ったりコンビ技がある方が優位に立ってるじゃん?」

「えーっと、1試合目は宍田くんが円場くんの機動力になって…梅雨ちゃんの粘液をチームメイトに塗布して相手を翻弄」

「んー??2試合目はぁ…ジメジメ加湿器でキノコ増殖、その上黒いキノコで黒色くん避難」

「3試合目は骨抜が全面バックアップしてたよな。角ダッシュハンマーもコンビ技じゃねーか?」

「4試合目は1試合目同様に瀬呂くんと耳郎さんが補い合って、パワーの砂糖くんが合わせる」


試合中に皆で感想を言い合って、どのような立ち回りが理想的かはわかっている。それを実践できるのと出来ないのとでは、今後プロになる上で大きな差となってくるだろう。

今対抗戦では…より仲間を理解して、個性を噛み合わせ、活かしたチームが勝利を納めている傾向にある。一人より二人の力。二人よりチームの力。


「私のサポートアイテムも持ってて。位置を共有できるやつ」

「救助用の?」

「そ」


仮免試験のときに披露してるから、仕様はわかってもらえてた。これは私が視て更新しなきゃいけないから、動く敵が相手だと少々めんどくさい。だけど無いよりはマシだろう。

これで敵と味方の位置を把握できる。1分以上更新されない場合は、自動的に網掛けで予測位置が入力されるようにしておこう。あくまで補助的なものだということは頭に入れておいてね。


「アイテムもありがてぇけど…個性大丈夫かよー、おまえ頼りにしてるぜ緑谷」

「大丈夫、任せて!」


個性をバチバチを身に纏った彼は自信に満ち溢れている。情けない顔は過去の産物。キョドるのはプライベートで女子と話すときくらいかな。


『第5セット目!最後の試合だ!気を抜かず頑張れよ!』

「よし!!勝つぞ、A組!!! 」

「「「「おう!!」」」」

『スタートだ!!』


キャプチャー・オン


いずのかけ声に合わせて士気を高める。直前にあんな試合を見せられちゃ、負けてられないよね。良いとこ見せなきゃ。いずと共に飛び出して相手を誘い出す。フォーメーションは勝くんたちのと似ていた。

手首の内側から放出されたフロロカーボンのテグスは移動用に改良されている。最適な場所を視て括りつけて切ったり巻き付けたり貼り付けたり。狭い場所でも振り子の要領で推進力を生みスピードを上げていく。


「いず、10時の方向に物間くん。心操くんも一緒。このままいけばあと13秒で「キャア!!」」

「!!?」


聞こえた叫び声は麗日さんの声だ…けど彼女じゃない。彼女たちは今7時の方向にいる。近くには心操くんと物間くんしかいない。


「やっぱり君らを警戒してて正解だったよ。まぁ、クレバーな人間ならそう考えるさ」


声のした方を振り向いたいずは、黙ってお喋りな彼の言うことを聞いている。煽ってくるのはいつもの事だけど…視線で仲間の居場所を探るつもりだったのか。

アヘッドモードの範囲内まであと少し…


「心操くんとこんな話をしたよ…"恵まれた人間が世の中をブチ壊す"」


一理あるけどそれは違う。恵まれているように見えて実はそうでなかったり、自称恵まれていない人間が実は恵まれていたりする。

狭い概念の中でしか生きられない人たちが敵犯罪の源になっているんだ。良く言えば芯が通っている、悪く言えば頑固で自己中心的。

視野を広く持つことで見える世界は変わる。逡巡して初めて"しんり"を知るんだ。


「君たち幼馴染みなんだろ。だったら教えてよ、爆豪くんさ!何故彼は平然と笑っていられるんだ?」


憧れを終わらせてしまったと嘆いた彼が、平然と笑っているように見えるの?

事情も知らないくせに彼を推し量らないでほしい。私の前で泣いたのも、いずとライバルらしくなったのも、身を呈するような戦い方も……変わらなきゃって歯を食い縛っている証に他ならないんだよ。


「平和の象徴を終わらせた張本人がさァ!!」


コイツなんて言った……?

煽っているのは解っている。けれど…言って良いこと悪いことがあるでしょうが。

アヘッドで視えた彼は劣等感と正義感の塊だった。ファントムシーフ…あの仮面の怪人のように嫉妬にまかれて救われない死を迎えるつもり?

あなたは音楽、美しい音楽、あなたは私に光を灯してくれた。あなたは私の人生……、いつの日か観た、女性が彼に被せた悲しい仮面を思い出す。

彼も彼で悩んでいる。だったら、演習じゃないときに話聞いてあげる……その前に謝ってもらうけどね。

ムカつくがこれが彼らの戦い方だ。私だって成長している。仮免試験の時のようにイラついて先行することはない。

戦闘へ意識を向け当初の作戦通り物間くんはいず、心操くんは私が相手をする。パイプの隙間に隠れている彼は、こちらの動きを伺っていた。


「グゥアっ!!?」

「!?」

「まーた知らない力か、嫌になる!」


知らない。

この成長は。

感情が荒ぶって様子がおかしい…、若干の怒りのあといずは物間くんを捕まえようとしただけなのに激痛に苦しんでいる。ワン・フォー・オールの暴発が起こったの?私には視えない、彼を覆う黒い何か。


「逃げて!」


それは四方八方に飛散して無差別に攻撃している。いずの意思じゃない。ギリギリで避けるけど…動きが視えないのは何故だッ。

物間くんと、心操くんも攻撃を上手く避け…られないじゃない!初期動作が遅いのは減点だってば!


「逃げっ…なさいってばッ!」

「なっ”?!」

「ッグ!…ン”ーッ、いずゥ"!!」

「おい!!……どうなってんだ、」


[痛い痛い痛い…]
[何だこれ…個性がっ]
[溢れて止まらない……ツ]


全身を締め付けられる鈍い痛み。黒い何かは意思を持っているようだ。

いずの個性の暴発に巻き込まれそうになった心操くんにテグスを絡ませて回避させた。私がいなきゃ破壊されたパイプの下敷になっていたわよ。

左腕のテグスを心操くんに使っていたため反応が遅れて、黒い何かに胴体を捕まれ引っ張られる。無理矢理引っ張られるので宙に投げ出される感覚が酷く気持ち悪い。

ああ、やっぱり彼の個性だ。

アヘッドの状態だけでは視えなかったけれど、捕まれたら少しだけ個性の事がわかった……でもそれは私を投げる理由にはならないんじゃないかしら?

挙げ句、暴発したワン・フォー・オールは私を給水タンクに投げつける。呼吸が一瞬止まる衝撃。

不安定な体勢で打ち付けられて受け身がとれず、左肩と頭に鈍い痛みが走った…、泣きっ面に蜂だ。腕の損傷に加え、タンクにあった冬場の水が冷たい。

タンクの側面から剥がれて、2メートルほど落下して地面とこんにちは。追い討ちのダメージが付与される。頭は霞がかりながらなんとか動くのに身体はダメだ。個性も展開できない…

消えかけの意識の中で個性が伝えようとするのは無法者のパレード。今日は随分と主演の役者が多いなぁ。

ああ、うるさい。



【連袂】たもとを連ねること。行動を共にすること。



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映画もうすぐで死にそう。
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