運動場γ、第四試合。
A組
爆豪・耳郎・瀬呂・砂糖
B組
凡戸・泡瀬・取蔭・鎌切
暴言を吐き散らしながらに観戦ブースを出ていった勝くん。作戦会議も彼のワンマン振りが目立っていた。
スタート位置に到着したけどまだ音声は聞こえない。カメラに映る彼は真面目に作戦を告げている。メンバーがわちゃわちゃ言っているのは作戦に些か不安があるからだ。
大雑把過ぎるけど……彼らしい作戦。
『第4セットスタートだ!!』
合図と共に両チーム距離を詰めていく。こちらには諜報に秀でた耳郎さんがいるから有利。勝くんが先行して3人はついていくようなフォーメーションだ。
「あー僕第4セットがとても楽しみだったんだよね……なんたって取蔭がいる…彼女はとてもいやらしいぞ!」
「確かにあのボディラインはイヤらしいな」
「ふむ、けしからん」
「そっちじゃない、そっちじゃない」
物間くんが言う”いやらしい”は性格的な面を指しているんでしょーが。現に、そのいやらしい策でA組をネチネチといたぶる。
『早よしろ!耳!!』
『名前!!、待って…やっぱやられた!!』
『ハイしゅーりょー』
索敵を逆手にとって複数の音を発することで位置を気取られないようにした。取蔭さんの分割された身体はあちこちで雑音を産み出している。
彼女の影が見えた瞬間に飛び出した勝くんはまんまと作戦に引っ掛かってしまい、パーツが幾つも攻撃をしてくる。
その隙に待機していた凡戸くんが接着剤の雨を振らせ、距離を詰めさせないように展開していた瀬呂くんのテープごと3人を飲み込む。
そして追い討ちをかけるように鎌切くんが周辺のパイプを切り落とした。ここで固められてしまったら一気に3ー0。それじゃ…戦闘力に定評のある彼でも部が悪い。
「A組の動きが全部逆手に…!」
「砂糖が守ろうとしてるけど引っ付いたら全員アウトだろ!」
BOOOOOOOOOOM!!!!
耳をつんざく爆音。全く……派手派手だよ。
取蔭さんのパーツに身動きを封じられていた勝くんが離れたところから接着剤やパイプを吹っ飛ばした。威力は十分ではないが救出するにはいい手加減になったようだ。
B組としては索敵できる耳郎さんを一番最初に捕まえたい。彼女めがけて刃を向ける鎌切くんはスピードが速く対処が間に合わない…。
けど…この中で一番速く動ける彼は穴を作らない。
「あっれぇ、僕の目が変なのかな?彼、耳郎さんを庇ったように見えたなァ」
「庇ってたな、足蹴で!」
「変じゃねえよ。アイツは意外とそういう奴だ」
「キャラを変えたっていうのか!!?」
「うんまァ……身を呈するようなわかりやしーのは、初めて見るかもな!」
最初は自分が勝てば良かろうな人だったのに、オールマイトに諭されて…短期間のうちにレベルを上げた。
切島くんの言う身を呈する…皆の前では初めてだけど、彼はいつも全身で私を受け止めてくれるんだよ。
『ありがと!』
『うるせぇ!逃げた奴探せ!授業だろうと関係ねェ。俺ァ決めてンだよ!勝負は絶対完全勝利!4ー0無傷!これが本当に強ェ奴の”勝利”だろ!!』
「うわージャイア○だ」
「でも一部キレイなジャイ○ンだ!お前のものは俺のもの!お前のピンチも俺のピンチってな!」
横暴な感じはやっぱりそのまま。横暴の中に”仲間”を孕んだ彼は、仕切り直すB組に突撃していく。
「音をたてずに潜んでた!また逆手に!」
「泡瀬のくっつけるのむちゃ早ぇ!」
仕切り直しのサポートのために待ち潜んでたいたのは泡瀬くん。勝くんの身体と周囲の柱を鉄筋でくっつけて動きを止めた。
やるだけやって逃げる彼は瀬呂くんのテープじゃ捕まえられない。射程距離の目測間違えた……?かなり手前にテープは落ちたようだが…
『なめんな!!』
『行け』
砂糖くんのアシストで助け出された勝くんが怒りそのままに進んでいく。狙うのは、
『任せた』
『任』
『された』
泡瀬くんじゃない。バトンタッチしたのは瀬呂くんと耳郎さんだ。複雑な地形では瀬呂くんのテープは決定打に欠ける。耳郎さんの機動力じゃ追い付けない。欠点を補った連携プレー。
試合開始前の作戦会議で彼が口にしていたこと。
『てめェらが危ねェ時は俺が助ける……で、俺が危ねェ時はてめェらが俺を助けろ』
その唇の動きを読んだとき、思わず目を見張った。何でもできて一人でやってしまう彼が、仲間に任せて最低限の動きで最大限の効果へと導く。
…まぁ、頼ることを覚えたのは私のおかげだと自惚れても良いよね。口角が上がりそうになったのを押さえて、彼が向かった先を見つめる。そこは引き上げる凡戸くん。
『冬は調子がクソでよォ…やっとあったまってきた』
『確保だ!!』
凡戸くんに放たれる爆破。軌道を変えながら全身に攻撃するとか、ウォーミングアップの終えた彼の火力はかなりのものだぞ。冬は威力が出ないから嫌いだとか言ってたくせに。
そんな彼を再びアシストをしたのは砂糖くん。凡戸くんをしっかりと捕まえて離さない。
「協調性皆無の暴君だったろ…丸くなったどころじゃないぞ…ッ!」
「耳郎さんたちも信用してるから任せられるんだよ」
「ドラムが効いたな」
「バンドが効いた」
共同作業って素晴らしいな。目的が一致して、心も一致して…そうして絆を作っていく。
「鎌切ヤラレタ!!」
「爆破で勢いつけてぶん投げるとか乱暴すぎ…」
「…確かあれは…爆破式(エクス)カタパルト……技名かっこよくつけるのに何でヒーローネームのセンス無いんだろう」
小さな疑問は彼すらも答えられないものだろう。形勢逆転。一気に3人をダウンさせ残るは取蔭さんだけだ。
どうやって見つけるか…撹乱を続けてはいるが、彼女一人ではできることは多くない。雑音が少なくなっている。それは彼女の個性も有限であるから。
瀬呂くんの考察は、彼女の個性も有限であり、分割したパーツの一部は消えてしまう前に身体に戻すというものだった。
小さな隙からネチネチと拡げて崩壊させるつもりだったみたいだが、隙から崩壊させられたのはB組の方だった。焦りと戸惑いが顔に出ている。
少し離れたところで聞こえた爆発音。瀬呂くんの機転で考案された、勝くんの手榴弾付きパーツに気づくのが遅れ位置を晒す。
『アンタ変わりすぎなんだよーーッ!!』
『変わってねぇよ。今も昔も俺の目標はオールマイトをも超えるN0.1ヒーローだ』
ゼロ距離閃光弾で動けなくなった彼女は浮遊能力を失う。あんなに眩しかったんだ…爆破の攻撃ではなく、閃光弾というダメージの少ない攻撃を選択したのは周りを鑑みてからだ。
試合時間、わずか5分。
「……かっこいい」
「凄いや、あっという間に勝っちゃったよ」
『思わぬチームワークでA組、4ー0の勝利だ!』
有言実行の完全勝利。被害は最小限で最速。勝くんを軸に支えた3人は完璧なチームだった。反省会も相澤先生から高評価をもらい、文句なしだ。
「爆豪少年、震えたよ!」
「……風邪でもひいてんじゃねーの」
照れてるな?嬉しいけど、オールマイトからの労いにはそっけなく返した。コスチュームに隠した口許はきっとそういうことだ。
「かっちゃん!」
「どけカス!」
「進行方向上にいないけど…」
「俺ァ進んでんぞ…ケッ、てめーにゃ追い付けねぇ速度でだ」
「超えるよ!」
「うるせえな!んな事言いに来たんか!?てめーには絶対超えられねぇよゴミカス!」
勝くんに怒鳴られても畏縮しないいず。パブロフの犬のように存在だけで畏怖していたのに変わった。
あの喧嘩には驚いたけど、荒療治がここまで功を奏すとは…
「ねぇ勝くん」
「今度はてめーかよ」
「かっこよかったよ」
「ッたりめーだ」
そうだね、かっこいい。彼だけに聞こえる声量で誉めればやっぱり素っ気なく返される。
「あのね、惚れ直した」
「……ッ!はァ?悔しかったらお前もやってみろや!」
「うん」
ねぇ勝くん。
私さ、入学式の日に"あなたは最高のヒーローにはなれない"って言ったじゃない?あれさ、間違いだったよ。
あの時は傲慢で嫌な奴だった。でも挫折を知って、屈辱に溺れて、現実を見せつけられて……理解してくれる仲間ができて、絶対に負けたくないライバルができた。
私に未来を見る個性はないけど、あなたが最高のヒーローになる姿が見えたよ。
「じゃ、行ってくるよ」
最終試合が始まる。
行こうか…次は私たちの出番だ。
【豪気】威勢のよい様。素晴らしく立派な様。
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私が小説書こうかなと思ったきっかけは爆豪くんのこの活躍です。衝撃的でしたね、肉食獣みたいですっっっっっごく好き。
PS.22巻のキャラ紹介で描かれてた取蔭ちゃんがタイプです。エロかわいい。
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