線を

某所内、女子更衣室。

「え…サイズ小さいかも。助骨痛い」

「まぁ…私が創造致しましょうか?」

「うん、お願いー…」

「環心さんにはこのデザインが似合いますわ!」

「わぁーお、大胆」


ジリジリと照りつける太陽。熱くて裸足出歩くことができない砂浜。熱風によって運ばれる磯の香り。


「海だぁーーー!」

「あつぅーい!」

「ビキニ女子だー!」

「おっぱい2つにお尻が2つゥ!!」

「アンタらは自重しろ」

「「ングハッ!!!」」

「耳郎さんのイヤホンジャック!!」


海水浴場があるここで束の間の休息。明日からは、またヒーローとして動かなきゃいけないけど、クラス全員で遊ぶ時間を得ることができた。


「待つんだ!準備運動をちゃんとしないか!!」

「さっきまで活動してたんだから、準備運動はできてるだろ」


飯田くんの注意むなしく数人は海へと駆け出して行ってしまった。遊びたい盛りの証拠じゃん。


「私かき氷食べながら荷物番する」

「私もここにいるわ」


ビーチバレーしたりスイカ割りしたり、バーベキューしたり…ここの海水浴場は規制が緩いみたい。ちょっと先に行った所ではおじさまたちがお酒を飲んでいる。


「水上アクティビティか。梅雨ちゃん行かないの?」

「後で行くわ。今は皆が楽しんでいるのを見るのが楽しいわ。環心ちゃんは?」

「日焼けしたくない」

「さっき素敵な水着を創ってもらったのに…残念ね」


気遣いができる梅雨ちゃんは長女気質を存分に発揮している。ただ「お姉ちゃん、あなたの水着が見れなくて残念だわ」といった悪気のない言葉が罪悪感をもたらす。

本当に残念だと思っているから…悪いことしてないのに悪人になった気分だ。


「だって…八百万さんが作ってくれたの胸と背中が」


八百万さんが創造した水着は、薄い水色のラッシュガードと短パンで隠れてしまっている。

過激なんだよ…クロスラインの黒ビキニ。

谷間を強調するかのようなデザイン、背中はラインが2本。内1本は蝶々結びにされていて下手したらほどける。セパレートの下の方もサイドが紐で、お尻が半分溢れ出る布面積しかない。


「とっても似合ってたのに…見せないのかしら?」

「……見せられないよぉ」


以前勝くんが黒ビキニを楽しみにしているようだったから、要望に答えようと思ってビキニを準備していたわけだが………恥ずかしい。八百万デザインの布面積が少ないの忘れてた。

これがコスチュームだとしたらまだ耐えられたかもしれないが。彼に見せる水着って考えたら途端に恥ずかしくなる。


「梅雨ちゃん、かき氷食べない?私買ってくる」

「いいの?じゃあメロン味をお願いするわ」

「了解」


恥ずかしさと暑さを誤魔化すためにパラソルから出て後ろの方にある屋台へと向かった。日に焼けた肌の持ち主のおいちゃんは地元の人だろう。白い歯とスキンヘッドが輝いている。

あまり並ばずにメロンとイチゴを頼むことができて、お代を払おうとしたら後ろからお札を出された。


「ねぇ奢るから俺らと遊ぼーよ」

「自分で払うのでお引き取りください」

「えー?連れないなぁ。大学生?ここら辺じゃ見ない顔だけど観光できたのかな?」

「肌が白いから観光客でしょー?ここの紫外線は強いから短時間でも焼けるよ〜良かったら日焼け止め塗るの手伝うよォ」


軟派な男二人の間延びした声。

支払いを済ませて、無視して通りすぎようとしたけどこのままだったら梅雨ちゃんのところにコイツらを引き連れていくことになる…

早く戻らないと溶けちゃうもんなぁ…だからってまともに相手にしてどっかに行くとは限らないし、問題行動は起こせない。

相手は成人しているように見えるから高校生って言えば立ち去る?婬行条例に引っ掛かるけど…いや、逆に興味を引かせてしまうか。


「おい、お前ら……俺の客に何か用か?」

「ゲッ、おっさんかよ…」

「っち、めんどくせぇ…行こうぜ」


救けてくれたのは屋台のおじさん。わざわざ表に出てきて追い払ってくれたようだ。


「ありがとうございました」

「嬢ちゃん可愛いからああいう輩には気を付けろよ」

「ふふ、はい。気を付けますね」


チンピラが離れたのを確認して梅雨ちゃんのところに戻る。幸いにもかき氷はあまり溶けていない。


「おまたせ」

「話しかけられてたけど大丈夫だったかしら?」

「うん、おじさんがかっこよく登場してくれたわ」


二人並んでかき氷で体温を下げていく。目の前では、仮設のコートでビーチバレーが行われている。

勝くん&瀬呂くんVS切島くん&上鳴くん


「よっと…いっけー!!爆豪!!」

「死ねェ!!!」

「ぬぁッ!?くっそー取れねぇ!」

「ヴぁーーー!手加減しろよバカ〜!」


点数は勝くん&瀬呂くんチームがボロ勝ちしてるんだろう。上鳴くんのリアクションを見れば考えなくてもわかるわ。


「流石爆豪ちゃんね」

「勝くんのお母さんがバレー得意だからね。小さいときは一緒にボール遊びしたんだ。遺伝かなぁ……あ、頭キーンってきた」


かき氷を口に多く含みすぎて頭がキーンとする。パラソルの外はジリジリと暑いからと氷で体温を下げるのは強引すぎた。


「わぁっ!!?やっべッ!!」

「危ない環心ちゃん!!」

「……ッブ、ッべェ……ッぺ」

「わッ?!悪ィ環心!あとでかき氷弁償するから〜」


顔面に飛び込んできたのは上鳴くん。ボールを追いかけてコートサイドに突っ込んできた。そのせいで砂ととかき氷が顔面へ。

半分以上残っていたピンク色が水色のラッシュガードを染めている。払っただけじゃ濡れた砂は落ちず、服は相変わらず砂だらけ。


「…シャワー浴びてくる」

「そうね。服も洗わないとベタベタしてしてくるわ」


外に設置された簡易シャワー室の一番右側に入り、コックを捻る。口に入っていた砂や全身についた砂たちを洗い落とした。


「うわ…砂がポケットにも入ってる……」


思ったよりも大惨事だった。濡れ鼠みたい…いや、別に良いんだけどね。でも海に入っていないのにこういう風に濡れるって…

濡れたラッシュガードと短パンを右手にシャワールームを出る。


「あーっ!さっきのお姉さん!」

「へぇー水着かわいいじゃーん」

「海に入ったのぉ?かきあげた髪の毛もいいねぇ〜」


気を付けろと言われていたのにまたも軟派野郎に捕まってしまった。右の奴は爪先から頭のてっぺんまで舐めるように見てくる。左の奴は褒め倒してくるけど微塵も嬉しくはない。


「お友達と一緒なんでしょ?」

「ねぇーいいじゃん!」

「何も良くないです」

「ツンツンしてるのも俺タイプ〜」


通せんぼして個性と思われる砂が胸元にかけられる。せっかく流したのに…コイツらなんなの?質が悪すぎるナンパ。

公共の場で個性使うわ、嫌がる女を連れ出そうとするわ、ムカつく。追加で砂をかけられれば、さすがの私も黙ってはいられない。


「いい加減にッ」

「あちゃーシャワー行こ!綺麗に洗い流してあげる」

「実はァ、俺たちに誘われて嬉しいんじゃない?」

「んなわけっ!」


腕を引っ張られてニヤニヤとした卑しい感情が流れてくる。こんな奴等とワンナイトを望む女の子なんている訳ないでしょっ。掴まれた腕を利用して投げ倒すか…そう思っていたけど、肩を抱く手に気づいて考えを改める。


「オイ」

「あ?なんだよ」

「コイツになんか用か、クソモブ雑魚チンピラ。触ってんじゃねェ、殺すぞ」


ヒーローにあるまじき言葉遣いで助け船を出してくれた勝くんは私の肩を抱いて引き寄せてくれる。あーこれちょっと怒ってるなぁ。


「おい、コイツ…雄英体育祭の……爆豪じゃんかっ」

「島に来てる奴らってコイツらかよッ、くっそ」


さっきの威勢と一緒に彼らは撤退していく。


「何ナンパされとンだよ、あれくらいぶっ飛ばせ」

「正当防衛にしろ暴力行為はなるべく、ね?」

「それでこれを晒したんかよ」


人差し指で胸元についた砂と水着を指摘してきた。これは不可抗力なんじゃ…?

だって、まずこうなったのは上鳴くんがダイブしてきたからだし…上着を着てないのは乾いてない状態だったら砂がつくなぁって思ったからで…

それにナンパ野郎の行動まで私が制御できるわけないじゃん…胸元の砂はソイツらのせいだし!


「私に怒られても」

「ソレ一番に見せンのは俺だろーが」

「あ……そっち?」

「ちゃっかりリクエスト聞く辺り…俺のこと好きだよなー?」

「違ッ!これ八百万さんが創ったもので…っ!砂!シャワーで流してくる!!」


色々あって忘れてたけど、この水着は危険なものだった。ニヤニヤし始めた勝くんの腕を肩からビシっと払い除け、シャワー室にリターン。

胸元に入り込んだ砂は谷間と水着の中に侵入していて、背中の紐を緩め水で流さなきゃ落ちない。


「黒ビキニ……」

「っちょ!照れるくらいなら見ないで!それと入ってこないでよ!出ていって!」

「見張りしてやンだよ」


見張りと言いながら個室のシャワー室に入ってきた。鍵はないけれど膝下からは見えるボックスだから中に入ってくる人はいないわよ。逆に個室に男女が一緒に入ってたら怪しむんじゃないの?!


「勝くん!」

「騒ぐと外に聞こえンぞ」

「いっ…触らないでよッ」


後ろから胸を持ち上げてうなじに噛みつかれてしまえば二人して頭から水を被る。彼の大きな手からも溢れ出る柔らかい脂肪。彼が大好きなヤツだ。

水着の隙間から落ちる水が砂を洗い流すけれど、その隙間を喜んで手を入れてくる変態もいるからなッ?


「やぁらけェ……それに背徳感」

「変態…ッ、」

「…まだ焼けてはねェか…まぁ、この背中が焼けるのは惜しいよなァ」


砂は流されても私は流されないんだからッ…でも私をかっちりと抱き締めて離さない彼は絶対に離れる気はないらしい。単純な力じゃ勝てず、筋肉質な腕で羽交い締めにされる。


「はぁ〜……ヤりてぇ」

「シない!ぁッ!っンッふ」

「青姦はしねぇよ………………今は」


今は!?今じゃなかったらいつかするんですか??

揉んでいただけの指が先端に触れる。明らかに異なる刺激に無意識に強ばってしまえば彼の思うツボ。執拗にそこを攻めて爪を引っ掻ける。


「んっ……、嫌い」

「嘘つけ。ほら、足の力抜けてっぞ」

「やだぁ…」


噛んだ痕を舐めながら左手は胸を弄り続け、右手でくびれやヘソを撫でる。遂には水着のサイドの紐に手が降りてきてそれを楽しそうに引っ張っていた。

後ろを向かされてするキスも…唇を合わせるだけなのにシャワーのせいで勝くんの体温をより感じて、エッチだ。


「チッ……外でンな顔すんじゃねぇよ」

「ん〜、勝くんが触るからぁ…」


欲を理性で押さえつけた彼は、シャワーを止めて小さなキスで離れていく。この水着は彼のお気にめしたみたいだけど、やはりというかなんというか…危険な起爆剤だった。

息を切らせて睨み付ければ、そこには水も滴るいい男。通常時爆発した髪の毛がペシャンて…黙ってれば顔面の破壊力も合間って天災レベルだ。

彼の白い肌は明日になれば、この地域特有の強い紫外線で赤くなってしまうだろう。それも格好いいんじゃないか?とか思うからもう末期。


「ぁンだよ」

「……なんでもない。後ろの紐結んで」


見惚れていたなんて言えない…

イチャイチャタイムが終わって大人しく後ろの紐を結んでくれる……訳がない。背中の結び目付近にキスして吸い付く。


「なぁ……このままフケようぜ」

「なに考えてるのよ。皆に怪しまれるのはヤ」

「水着のこのライン、くっそクる…ブチ犯したくなるんだよ…シオン」


チンピラに誉められてもなんとも思わなかったのに、彼に性的に見られて嬉しいって思っちゃう。

脇腹を撫で耳元で囁く悪魔と太陽の陽射し。

白いシーツと黒い水着のコントラスト。

背中に咲いた赤い花と焼けて現れる白い線。

砂と一緒に流されましょう。



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リクエストいただきました、水着に反応しちゃう爆豪くん。リクありがとうございます。

時期外れだけど水着ネタは書きたかったので楽しかったの。
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