11月11日、共有スペース。
「ポッキーゲーム!」
「いぇーい!」
製菓会社の思惑に嵌まってしまったクラスメイト。棒が並ぶからって安直すぎる。しかし学生を中心にカップルや若い夫婦はこれをダシにして交友をはかる。
女子が数人でしてるけど葉隠さんと当たったらキス不可避だと思う。彼女が先に顔を背けない限りチキンレースをしなければ。
というかポッキーゲームの勝敗って?ダメだ、カップルがキスするのしか見えない。
「三奈ちゃん強ーい〜」
「へっへーん!さぁて次の相手は〜環心!」
「甘いの嫌だからしない」
「そう言うと思って〜…プリッツ!!」
なんと準備のいいこと。その機転のよさを勉強に生かしなさいよ。咥えた状態で待機して私とポッキーゲームをする気まんまんだ。
「一回だけだからね」
「イヒヒっ、」
小さく息を吐いて仕方なく反対側を咥える。その状態でもかなり顔の距離は近い。カリカリ食べ進めるが彼女は数ミリまで粘るみたい。
「あれちゅーするんとちゃう?」
「二人とも動じなさすぎでしょ……」
残りの長さを視てみれば3センチを切っていた。芦戸さんもようやく近さにおののき始める。所詮お遊びだとしても女子とキスするのはね…私は別に気にしないんだけどあそこの人が怒っちゃうから。
それからは食べ進めることなく膠着状態が続く。
「これは…ドロー?」
「そうね、二人ともこれ以上やっても勝敗がつかなそうね」
目の前の芦戸さんはこれ以上攻めるか攻めまいか決めあぐねている。でも勝ちたい感じが無くなっていない。
「っ!ちょ!!なんでそこでそこで攻めるかなぁ!?」
「芦戸さんが逃げるって解ったからー」
食べ進めてあげればあっさりと逃げちゃう。キスをするつもりで食べたら、彼女は案外初で避ける…っていうのが視えたんだよなぁ。
「もう一回!!」
「だーめ、一回だけって言ったじゃん」
駄々を捏ねたってダメなんだからね。ターゲットを私から八百万さんにチェンジしたみたいだけど、秒殺。ピュアセレブかわいいなぁ。
「お前らまだやってんの?」
「男子同士ではしないの?」
「切島と上鳴がしたけど危ない空気だったからやめさせた」
「俺も野郎じゃなくて女の子が良いッ!!!!」
お風呂上がりの男子たちが女子に口出しする。
男同士の需要は少なからずあるだろうけど、彼らは自分自身でやってて悲しくなったみたい。
ちなみにいずは轟としたらしいけど、いまいちルールを理解していない轟くんが全く動じず勝利したと聞いた。あの子の貞操観念大丈夫か…?
「なぁ男女でやらねぇ!?」
「しない!!」
「滅べ」
「む、無理やって!」
「私も遠慮するわ」
「私も殿方とそんな破廉恥な…」
「でもさぁ?…爆豪くんと環心さんはできるよねぇ!?」
「え、無理。できない」
葉隠さんそれは無茶ぶりすぎるでしょ。全視線がこちらに来るけどしないからね!!
「むっちゃ拒否られてるじゃん」
「かわいそー」
「あ”?黒目とはできて俺とはできねーってか?」
「できないッ!それと外野煽らない!この人が煽り耐性ないの知ってるでしょ!?」
上鳴君と耳郎さんが煽るけど、この人たちは私たちを冷やかすのが好きだ。いつもは軽く流しているが、挑発に乗ってしまった勝くんを目の前にしたらそんなこと言ってられない。
「しないってば!!」
「はぁ”??何いっちょ前に拒否ってんだよッ!」
「ばっかじゃないの!!?っちょ触らないッで!」
両の手を握り合う。
字面だけだったら恋人同士らしいけれど、現在の私たちは取っ組み合いの時にするような感じ。私はソファーに座った状態だから、上から押さえつける彼に案の定力負けしちゃう。
ああ、外野も勝くんの味方をし始めた。心配しているのは、極一部の女子だけだ。何故こんなことになってしまった。
部屋に戻ったらしてあげるからさ…お願いだからここでポッキーゲームなんて中止しようよ。飯田くんがいれば不純異性交遊だと強制終了してくれるのに。
「カッチャン、あ〜ん!これ咥えて!!」
「さぁ環心、腹括るんだよ」
「きゃ〜!」
「いっ…ッ、次の演習で仕返ししてやるっ!」
大人しく齧ってすぐ離れれば良いや。たぶん勝くんは舐めプするなって言うけど知らないッ。この状況に陥れたみんなにささやかな復讐をすると誓い、勝くんが咥える反対側に目を向ける。
せめてプリッツにしてくれませんかね、とか思いながらも変えたところで何も好転はしない。本当なんで公開処刑されてるの…ッ。
涙ちょちょ切れで先程と同じようにカリカリっと食べ進める。もう頑張った、私頑張ったよ…
これくらい食べれば勝くんも文句は…ッ!?まずいッ…
危険を察知し暴れる私を、勝くんは力で押さえつける。
「んーッ!!」
「暴れんなや、っ……シオンちゃんよぉ?」
「うっわ……マジ?」
「ディープなのっすか……」
「俺たち何見せられてんの…部屋でしろよ、部屋で」
「っちょっ!!助けてよ!」
「「「「「無理」」」」」
咥えていたポッキーを一気に口に含んだ彼に気づいたのは、その行動をする直前だった。そんな感じは視えなかったのに…
救いは全員に拒否されてしまう。あなたたちそれでもヒーロー志望なの!?
「んッ!…ふん〜〜ッ」
「………っは、ん」
舌を絡め空気を奪うようなキスは、鼻で呼吸をしても声が出てしまう。もう関わっていられないというように皆離れていく。エレベーターのチンという音が希望を奪った。
好きでこういう状況になったわけじゃないのに…ッ。皆がいなくなっても勝くんはキスをやめてくれない。
ポッキーの欠片はなくなり、チョコの仄かな甘い香りのするキスになった。
「んぁッ、ねぇ勝くん…もう止め、っ」
「まァだ……シオン、舌出せよ」
取っ組み合いをしていた手はいつの間にか両頬を固定して上を向かせる。首が痛いよ…背中が完全に背もたれに頼ってしまった。そしてここが共有スペースのソファーだと思い出す。
まァだ……ってすっごく意地悪な顔だ。
「…ふッ、で…?その顔はもっとして欲しいんだろ?」
「顔、見ないで……ッ」
いつもはなに考えてるか解らないって言うくせに…、それくらい私の顔は情けないんだろう。
製菓会社の策に溺れて、尚且つそれをダシに使ってしまった。
明日、盛大に冷やかされるんだろうな。
ー
ー
ー
「シオンちゃんよぉ?」って、ちゃん付けさせるの好き。温度差凄くて風邪ひいちゃうッ!
時計は高校生の時に身長167cmの女子とポッキーゲームしました。際どい写真撮った気がする。勝敗ってどうやって決めるの。誰か教えて。
- 160 -
[*前] | [次#]
小説分岐
TOP