伏在というもの

合格発表日、夕方。


「通知、来た」


触っても中身が見えないということは何かまたギミックがあるのか?出てきたのは小さな機械。


『環心詩音殿

あなたの実技並びに筆記試験の結果はヒーロー科合格に値する得点でした。しかし、今回は本校の合格を見送らせていただきたいと思います』


機械に投影されたのは無機質な文字がスライドしていくのみ。実技も筆記も十分なのに落ちた……?なぜ??


『つきましては、3月15日再び雄英高校に赴いていただきたいと思います。このメッセージは5秒後に消滅します』


事態を収拾できずにいるといつの間にか最後まで進んでいたため、途中を見落としてしまった。え、消えるってどういうことよ。


ピピピピと機械からメモリが消えたであろう音がする。ん?文書?


『3月15日 午前8時40分 雄英』


 * 


「どうした、怖い顔して」

「この顔見てそれ言う?お父さん」


表情には出ていないはずだが、私の精神状態からそう判断したんだろう。


「理不尽。実技も筆記も点数足りてるのに雄英落ちた」

「でも理由はあるんだろう?」

「理由が示されてるであろうとき放心状態で見てなかった」


それはお前が悪いと諭されて、同じ封筒に入っていた文書を見せる。経営科も不合格扱いなので今から別の高校の二次募集を受けるとしても、その日はちょうど雄英が指定した日。


「僕はあんまり心配していないんだよね」

「なんで?」

「これはきっと確認だろうから」


父が指差した日付部分。人生経験で父に勝つことはできない。なんせあの母を落とした人だし、駆け引きはとても強い。雄英、ましては日本の高校に行けなくてもiアイランドに行けばいいと言う父の考えはいまいち読めない。え、スカウト推薦貰ってたんだ。


「15日…確認、行くよ」


もう、どうにでもなれ。


 *


3月9日卒業式。答辞を読んでいるのは大嫌いな彼。3年間で不良に磨きがかかったにも拘らず雄英進学を決めた。実は真面目なイイコちゃんはそつなくその役目を終える。


「シオンちゃんよぉ、雄英落ちたんだってな?どこに進学すんだ?」

「……」


今は相手にしたくない。担任と校長の3人で面談があるから卒業式後のお食事会(?)を断ってここにいたんだけどな。教室で感傷に浸っていたというのに邪魔をするな。


「黙りかよ、そういや俺が勝ったらなんでも言うこと聞いてやるっつったよなぁ?」

「正しくは点数勝ったらじゃなかったかしら」

「関係ぇねーよ。そうだな…」


は?何、して。

表情が乏しい私でも感情がないわけないないし、怒るし焦ることだってある。この状況に持ち込ませてしまった自分に苛つきつつ、張本人を睨み付ける。

座っていた状態から後ろの机に背中と腕が縫い付けられる。椅子が背中に刺さって地味に痛い。


「何のつもりよ」

「お前を俺の下で一生可愛がってやるよ」


征服欲で満たされた瞳は気持ちが悪い。意地悪く上がった口角から覗く犬歯に今にも噛みつかれそうだ。脈も瞳孔も呼吸も体温も…欲情してる?

巫山戯るのも大概にしてほしい。誰がこんな奴の下につくもんか。


「喚かないで、発情期の犬」

「っは、なら犬らしくマーキングして…ウグッ」


赤いセーラーのリボンを捕まれ彼との距離が近づく。その瞬間腕の拘束がなくなり、逃げなきゃと顎にフックを一発かます。脳が揺れて平衡感覚が失われるためしばらくまともに動けないはず。暴力じゃない、正当防衛だ。

教室から飛び出したが幸い今日は卒業式のため持ち物はない。後輩に着けてもらったお花を置いてきたのはもったいないが仕方がない。


「婦女暴行未遂…あんなのがヒーロー志望とか終わってる」


およそ1年前にも感じたことは今も健在だった。


「ドちくしょうが…っ」


真っ黒焦げになった花は静かに散る。




【伏在】
潜んでいること。表面に出ずに存在すること。
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