衝動というもの

2月26日、入試当日。

「いってきまーす」

「いってらっしゃい。怪我はしないように」

「はーい」


眠さを吹き飛ばすような朝の冷たい風。気温3度かぁ…雪が降っていないだけマシである。

ヒーロー科に進路変更してから1月と少し。母から教わっていた近接格闘術も仕上げることができた。試験内容は不明だが実技は恐らくヒーローになりうる最低限の身体能力、戦闘力、柔軟性を見るはず。


「やっぱり大きいなぁ」


門と校舎を眺めオープンキャンパス時を思い出す。ヒーロー科を目指すなんて考えてもいなかったが…まぁ落ちる気はさらさらない。


「何でシオン、てめぇがいんだよ?あ"あ"?」

「入試だから」

「ここはヒーロー科の入試だぞ、舐めてンのか」


プレゼンテーションが行われる会場で黙想しながら待っていたら厳つい声。試験官に申し出したい、席変えてほしい。ひとつ空席を挟んで右隣に座ったのは傲慢な彼だった。


「うるさい、騒がないでよ。どこを受けようが私の勝手でしょう」

「俺と同じ土俵で戦えるって言いてぇのかよ?クソスクエア風情が!」

「同じ条件で競えるのよ。それともいつもみたいに負けるのが怖い?」


顔を正面に向けたま発すれば甘い匂いと焦げ臭い匂いがする。これは個性で見るまでもなく怒り充満って感じ。


「おい、あれ見ろよ。ヘドロの」

「爆豪と環心だ」


こそこそと噂の種になり気分が悪い。試験前だって言うのに、ミーハーな彼らも噛みついてくる彼も私の気分を害すのがとても上手いようだ。


「個性持て余して…たかが知れてるわ。彼らも、あんたも」


睨み付けてやれば睨み返される。


「え?シオンちゃん?何でここに」

「枠が減っちゃうけど…いずは大丈夫よ」


隣に座った彼と肩が触れ合う。両親と担任にしかヒーロー科を受けることを言っていないから親しい彼には絶望の顔に変化した。


「大丈夫だよ、いず。器はできたんでしょ?」


 * 


演習会場C

ざっと50人。倍率的に考えればここで最も仮想敵を破壊することは合格の必要最低条件だが、充分条件ではない。

アンチヒーロー行為は減点どころか失格案件。ならばヒーローらしいことをすればいい。

ヒーローは敵を倒し、人々を守るもの。


「はいスタート」


気の抜けた合図だがプレゼント・マイクの声だ。さっさと集団から抜けて仮想敵とやらと対面したい。

いた。

素早く懐に入り、頸部を持ち込んだナイフで傷つける。弱点はどのポイントも太い導線。次々と現れるロボを倒し累計が30点を超えた辺りでめんどくさくなって後はひたすら急所を狙っている。


「何だあれ!!?!?」

「逃げろっ!!!」


他の受験者たちの戸惑いの元凶を視界に入れる。0点ギミックの巨大ロボ…大きすぎるでしょ。弱点見つけても簡単には倒せないなとその場を離れようとするが。


「お前ら早く逃げろって!!」


巨大ロボの足元には数人まだ残っている。肘から何か噴射した男子が動けない子を捕まえ引き寄せるがあと11人いる。止めなきゃ…停めなきゃ!


「私をあそこに飛ばして」

「何でだよ?!死ぬ気か!!!?」

「停めるのよっ」


伝達中枢は頸部奥、この巨大ロボは避難シェルターとしても使用されているのか。ならばコントロールルームがあるはず。装甲を蹴っ飛ばし見つけた制御ルームへ体を滑り込ませる。大丈夫、できる。


「私にあなたを教えて?」


「と、停まった…?」

「助かったぁ」

「あの子がやったのか…あっ、出てきたぞ!」


大人しくなった巨大ロボの肩に乗っているのは間違いなくあの少女で、長い黒髪が風に揺れる。


「試験、終了〜!!」


実技試験終了の合図。敵ポイントは十分に稼いでいるし、ヒーロー候補生としての動きも及第点だろう。珍しく後先考えずに動いてしまったが、それはきっとオタクな彼の影響だ。


「あ、降りられない」

「だろうと思った、手伝うぜ」


登ってきたというよりは飛んできた彼は、さっき私をここに運んでくれたTHE日本人顔。


「あなたみたいな機動力ないから地道にしがみついて降りようかと思ってた」

「皆アンタに助けられた。俺は瀬呂、名前は?」

「環心。本当に助かった、ありがとう」


地面に降りて周りを見渡す。疲労、後悔、不安、燃焼、高揚、自信、重圧、驚愕、畏怖。

ここにいるライバルたちは私にそんな感情を持っている。となりの瀬呂くんは単純に好奇心と尊敬かな。


実技試験が終った。



【衝動】
目的を意識せず、何か行動をしようとする心の動き。
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