震撼というもの

ビルボード翌日、夕方。


『この光景、嫌でも思い出される3か月前の悪夢』


脳無の攻撃でエンデヴァーが深傷を負った。それでも炎は上がり続けている。


「パニックだ…!マズいぞ」


常闇くんの言う通りパニックになっている。神野の時はランク上位を含めた多くのヒーローや警察官が配備されていたし少なからず情報もあった。

だが、現在の福岡市街はヒーローたちも状況を把握できておらず、白い脳無の相手で手一杯。帰宅ラッシュと重なっているのもあり集団でパニックに陥ってしまった。

最悪、あの時より被害が…


「轟…もう見てたか!」


勢いよく開いた玄関の扉から駆けてきた相澤先生。酷く慌てた様子で轟くんにエンデヴァーのことを伝えに来たみたいだ。

生徒のメンタル面のサポートが大事なんだろうけど…彼ら親子は極めて特殊だ。

歪な親子関係。

No.1ヒーローの父とヒーローになりたい息子。


『象徴の、不在…これが象徴の不在…!!』

「ふざけんな…」


『てきとうなこと言うなやテレビ!あれ見ろや』

『エンデヴァー生きて戦っとるやろが!』

『おらん象徴の尾っぽ引いて勝手に絶望すんなや!』

『今俺らの為に体張っとる男は誰や!見ろや!!』


ニュースキャスターの不安を煽る喝を入れたのは私たちと年代が変わらないであろう男の子。


この子はエンデヴァーのフォロワーなのかな…

この子は見ている、エンデヴァーの炎の決意を。

この子は信じてる、エンデヴァーの勝利を。


飛んで行く脳無を炎を纏ったエンデヴァーが追跡している。でも火力を上げっぱなしだと…轟くんのリスク同様、身体能力に支障が出るだろう。

そんな初歩的なこともエンデヴァーも解っているはずだ。ただ、やらざるを得ない。あそこであの脳無を倒すことができるのは、エンデヴァーしかいないんだから…

ホークスの斬撃も強個性の集合体の前には多少の刺激を与える程度だ。


「轟くん…あの時エンデヴァーさん言ってたよね…あなたが胸を張れる、父は偉大なNo.1ヒーローにって」

「環心……」

「"エンデヴァー"は、戦ってるんだよ」

「親父…っ」


轟くんに誠意を見せた日、ビルボードでの決意を表明した日。彼は…私たちの未来ために戦ってる。その姿を一番見てほしいのは君なんだよ、きっと。

轟くんの体温が上がったり下がったり不安定だ。強く握りしめた拳と歯の食い縛りから、言葉を探している。


『戦っています、身をよじり…足掻きながら!!』

「見てるぞッ!!!」

「負けるな!エンデヴァー!」

「勝って!!!」


声援が彼に届くことはない。けれど声を出さずにはいられない。

脳無を捕らえたエンデヴァーはホークスの羽によって空高く持ち上げられ、大気圏に入った隕石みたいに激しく燃え上がる。炎の羽が生えたみたい……


「左腕を犠牲にして…脳無の頭部を、灼いた…?」


今まで見たことがないくらいの灼熱。限界を越えた彼の炎が脳無の急所をついた。再生できないくらい熱く、もがくことも許さない。

焼き炭となったものが落ちていく。エンデヴァーは…ッ


『エンデヴァー!!!立っています!!』

『勝利の!!いえ!!”始まりの”スタンディングですっ!!!』


煙の中から姿を表したエンデヴァーは確かに立っていた。右腕を突き上げて、己の存在を知らしめるために。


「…〜〜ッ、はぁ……」

「っちょ、轟くん!?大丈夫?」

「悪ぃ…肩、貸してくれ」


極度の緊張状態から解き放たれた轟くんは大きく息を吐き寄りかかってきた。態勢を崩して転けないように彼の背中に腕を回す……熱が篭ってて熱い。自身の体温調節も忘れちゃうくらい夢中になっていたんだ。


「エンデヴァーさん…凄いね」

「…ああ、」

「……何だ、青い炎…?!ッ敵連合だ!!」


一難去ってまた一難。脳無を倒すことができて安堵に包まれていたのに、エンデヴァーとホークスを青い炎で包囲したのは、敵連合の荼毘。


「あいつか…!堂々とどういうつもりだ」

「今はヤバい…エンデヴァーもホークスも余力無いんじゃ…ッ」

「炎に強いヒーローいねぇのかよ!!」

「ミルコだ!蹴っ飛ばせっ!!」


跳んできた好戦的なミルコのおかげで荼毘がいなくなった…?彼女が行動的で怖いもの知らずで良かった…。流石にトップヒーローと戦うのは分が悪いと思ったんだろう。


『危機は…敵連合は過ぎ去りましたっ!………私の声は届いていないでしょうが……ありがとう!』


ヘリの中継のからエンデヴァーやホークスの活躍を称賛するアナウンス。この戦いで多くの人が感動したのは間違いない。そして、エンデヴァーはNo.1ヒーローに相応しい活躍をしたと評価されていいだろう。

しかし、またしてもヒーロー側は敵連合を捕り逃してしまった。これによるヘイトは少なからず存在する。

それでも今日は、彼が大きな一歩を踏み出した日だ。



 *



 *



2日後、新潟。

prprprr


「はーい、こちら測定係り計良です。ただいま込み合っているため外注は受け付けていまs…」

『あー!ケラさん今時間大丈夫っスか?もうすぐ朝礼やった?』

「君か…私今日は外回りだから大丈夫ですよー」

『良かった…"オリジナル"はどんな感じですか』

「勉強中です。でもしっかり視てるところ流石は私って感じですね、ご心配なく。で、そっちの具合は?だいぶ派手にしてましたけど」

『想定外すぎたとよね……もうちょい時間かかる』

「そうですか……こちらも手一杯なので"速く"追い付いてほしいですね。文字通り手に余って仕方ない」

『それ俺に言うと?まぁ…気張りィ』

「ありがとうございます。無理はせずにー」



「お客からの電話かい?会社の中枢は違うね〜」

「同僚ですよ。取引先と上手くいってないみたいで、企画に合流するの遅くなるって…あ、この携帯は探知されないやつなんでご心配なく」

「超怪しいな!ケラちゃんには前から助けられてっから心配してねぇ!恩着せがましいなぁ!遠いところ感謝するぜ!」

「個性でサイズ測定してるだけですけどねぇ」

「俺の義手とか直せない?」

「開発は専門外なんで、調節ぐらいしか。代わりにご飯持ってきてるので食べてください。さて、と…死柄木さん、痩せましたねぇ。ちゃんと休んでます?」

「………さっさとしろ、計良栞」

「承知」




【震撼】
強いショックで震え動くこと。震え動かすこと。















オリキャラの計良栞(けらしおり)さん。
ちぃとばかり頭に入れておいてくだせぇ。
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