時は遡り、文化祭数日後。
「ミッドナイト、お話って…」
「あら、シオンちゃん早かったわね。もうちょっと時間があるから私の席で座っててちょうだい」
先生に呼び出されて放課後に職員室に足を運んだ。席に座っててと言われましても、先生だらけのこの空間に私が座ってても良いものか…
「あんたって職員室の常連なの?前もいた」
「あ、心操くんだ…職員室は……常連さんかなぁ。だいぶ筋肉ついたんだね」
「まぁね。”心”も”身体”も鍛えないとダメなんだろ」
「ふふっ。”心”あるものとして、そうだね」
彼がなぜ職員室にいたのかはわからないけど、私のちょうどいい話し相手になってくれている。
体育祭の時よりも身体は大きくなり、夏休み明けよりも引き締まっている。ヒーロー科編入を強く希望しているだけあって、口先だけではないことが体現されていた。
目の下の隈は改善されていないけど、あれはもう消えないかもな。
「シオンちゃーん!こっちに来てー」
「はーい…じゃあまたね」
「ああ、”また今度”」
ヒーロー科に対しての劣等感は消えていないが、代わりに闘争心が視えた。心操くんに軽く挨拶をしてミッドナイトの声がした方に向かえば…ここは。
「やぁ!君も大好き校長さっ!」
「こんにちは。今回呼び出されたのは文化祭での警備のことですか?」
「いいや、その報告はもう終わっているよ。今回は君宛てに書類が届いたから来てもらったんだ」
校長の手元には白いA5サイズの大きめの封筒。名前は確かに私宛てになっているけれど、そういう場合は寮の方に届けられるんじゃないんだろうか。
「ヒーロー公安委員会からさ」
「は?」
公安から個人宛の書類。そりゃ学校側としても私に届けるのを渋るわけだ。公安とのやり取りなんて今までしたことあっただろうか。
近い接点と言えば、仮免試験時の敵連合に関して。しかしそれは報告済みだし公安が引き受けた案件だ。
「学校にもメールで連絡が来ていたんだよ。協力を依頼したいって。もちろん君自身に危険が及ぶことはなく、学校生活にも影響のない範囲だと言っていた」
「公安から直接来るって……怖いですね」
「僕もそう思って先方の許可を得て中身を確認させてもらったよ。ただ入っていたのはなんの変哲もない誓約書…」
『捜査協力願い書』の見出しと守秘義務が課せられること、あとは日付と名前などごく当たり前の紙切れだ。
内容がわからないのにサインするわけがないし、文面からはこれ以上の情報は得られそうに無いんだけど…
「恐らく…君の個性で視えるようにしているんだろう…。教育者としてこの書類を君に触らせるわけにはいかない」
「触った途端に情報流入……ですか…、」
「僕の勘が言っている、一生徒が関わっていい案件ではないと。君は優秀だが…時々その聡さに人格を乗っ取られるんじゃないかと心配になるんだ」
こんな回りくどい依頼をしてくるってことは、きっとろくでもない…と言ったらいけないだろうけど、重要な捜査協力願いだと思う。
「この件…相澤先生は」
「もちろん良い顔はしなかったさ。しかし、彼は環心さんの判断に任せると」
愛ある指導をする先生のことだから、きっぱりNOと言いそうだけど…私に任せる?
危険の及ばないということは単純に考えて外での活動は基本的にないんだろう。
でも精神面でやられることはあるんじゃないだろうか。メンタルケアも万能じゃない。ストレスの受領してくれる勝くんがいたとしても、守秘義務のため吐露できないぞ…?
「でも」「やっぱり」…なんて考えが堂々巡りして何も進まない。
「少し…考えさせてください」
「うん、ゆっくり考えてみてくれたまえ。とは言え、公安は早ければ今週末にも一度だけ顔を出してほしいと言っている…」
「金曜日までに…出します」
結局その場で回答を出すことはできなっかった。学生の本分は勉強、そしてヒーローになるために多くの単位をクリアしなければならない。
学校生活に支障なくできる自信が…今はない。憶測でしかないが、あの紙切れには書かれている文字の数千倍…数万倍の情報が詰められているはず。
「3時の方向敵2!応戦するわ!」
「俺も援護する!くらえっ!!…ッ!?環心そこはッ!!」
「環心さん!!」
「グッ…」
3人一組で仮想敵を捕獲する戦闘訓練中。集中力に欠けて、らしくない失敗をした。上鳴くんがセットしたポインターを視ることができず、中間地点に入りモロに食らってしまう。
「わりぃ!!?…俺の配置ミスだったわ…」
「いや、いつもだったら個性で視えてるのに…気を抜いてた私のミスよ…」
「私ももっと早く声かけられれば…」
「反省はゴールしてからにしましょ」
反省と言っても、これは間違いなく私のミスだ。考えることが多すぎ。私の頭の中は、ファイリングされることなく情報が棚に入れられてる状態だ。
公安への返答とか、むちゃくちゃガン飛ばしてくる勝くんの行動とか…
学生生活と社会貢献を天秤にかける。
思えば高校に入学してからヒーロー候補生ではなく正規ヒーローのように事件に関与している気がする。
体育祭では怪我で参加できないのもあったけど、監視したし。職場体験ではステインの情報集め。
夏休みは神野の作戦の指揮を執らせてもらって…仮免試験では人知れずトガヒミコ侵入対策。インターンでサーに付きっきりで情報集め。
文化祭では開催条件の一端を担って…。少し思い出しただけでもこんなにも、ある意味特別扱いされていた。
「……己の個性を、恨むよ。ねぇ…?」
部屋に消えていく私の小さな呟きに応えてくれる人はいない。
改めて思うのは”しんり”の卓越した成果。人智を越えた個性の重要性。
支える者であれ…縁の下の力持ち…暗躍せよ…リードヒーロー”ハーツ”は未知を切り開く者。
どう転がっても、私の本質は変わらなかった。
【別命】 特別の命令。別に出される命令。
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