懇願というもの

雄英文化祭、pm5:00

「環心、ここからは校舎中心に視てくれ。外は俺たちがする」

「わかりました。教室からで良いですか?高さがあるので中間地点の方がやり易いです」

「そこは任せる」

エリちゃんのお見送りはできなかったけど、最後は笑顔でハグもしてあげられた。そのとき”大好き”って感情が視えたから、この時間も苦痛ではない。

キャプチャー・オン。

ヒーロー科1―Aの教室。今日は誰もいないから普段の騒がしさはない。教室展示のところは撤収作業を行っている。

サポート科はまだ人が結構いるな。他の施設は…誰も立ち入っていないみたいだから大丈夫。悪意を持った人はいない。

朝視たときとは大違いで、9割9分がストレス発散できていると思う。できていないのは先生たちなんだけどね。あとは、こちらに近づいてくる不機嫌の化身。

prr

『環心どうだ、何か異変はあったっか?』

「校舎含め周辺施設問題ありません。一応敷地全体まで広げて視てみます」


ガラガラ


「勝くん、私仕事中だから邪魔しないでね」

「わーっとわるわ」


音で殺るに成功したことは、彼の中で十分満足に値することだろうけど、不機嫌である。監視が終わった後に理不尽な不機嫌くんの相手は嫌だなぁ。

そんなことより今は目の前に集中。

範囲を雄英敷地全体に広げて視る。悪意はない。邪心の痕跡はジェントルという端迷惑な動画投稿者といずの”揉めた”ものだけ。

敷地が広すぎるため細かくを視ることはできないが…私も成長したよなぁ。吐かなくなったし。


prr

『コチラエクトプラズムB、外ノステージ撤去並ビニ外部カラノ入場者全員撤退確認』

『こちらスナイプ、外は各クラス撤去に入った。ハウンドドックからの報告で、外には怪しいものはいない』

「環心です。雄英敷地内の安全を確認。敵と思われる人物はいません。校舎内は撤去作業にあたる生徒はいますが…順調です」

『了解。環心、お前は以上をもって監視の任を解く。よくやってくれた』

「はい、お疲れさまでした」


最終報告を終わらせた途端に身体の力が抜ける。そりゃそうだ、広範囲を視てたんだから。机の椅子にもたれ掛かり息を吐く。ちょっと頭痛がするかな。

で、私はこれからどうするのが正解かしら?八百万さんの席に柄悪く腰かけた勝くんは眉間のシワがいつもの2割増し。


「…勝くんはどうして不機嫌なの?文化祭楽しくなかった?」

「別に不機嫌じゃねェ」

「アスレチックでオールマイトの記録抜けなかったのが心残り?」

「!!……来年は越えてやる」


それが不完全燃焼なのねぇ。でもオールマイトの在学中の記録って5秒とかでしょ?化け物だ。私とのアスレチックに挑戦するまでずーっとそれをやっていたらしい。結果全部ダメだったみたいだけど。


「でも良いじゃん。私とのチャレンジで1番になれたし。スコアもタイムも歴代1位らしいよ?」

「……」


あ、また不機嫌になった。あー、あれだ。最後の挨拶のやつが腑に落ちないんだろう。


「エアーキスとか海外じゃ普通だってば。私が無理矢理しないと勝くんできなかったでしょ?思考停止してたし」

「あんなん……すっかよ、」

「まぁ挨拶のキスだったら手の甲とかでも良かったんだけどね………それも恥ずかしいか」

「そんくらいできるわッ!!」


バッと右手をとられて手の甲に唇が落とされる。

え、勝くんってそんなことできる人だったの?知らなかった。驚きと少しの感動で間抜けな表情をしていると思う。


「ンだよ」

「いやー……光己さんの教育の賜物だなぁって、」

「バッバアは関係ねェだろ!」


握られたままの手が暑い。手の甲にキスとか挨拶じゃん。ハグとかしてる仲だし?昼間はハグして頬っぺた合わせるエアーキスだってしたのに。

ちょっと、恥ずかしい。

夕日はとっくに沈んでるから頬の火照りはライトに照らされていると思う。そして甘い香り。

勝くんのニトロだ。


「…慣れないくせに見栄張らないの」

「ニトロはいつものこったろーが」

「まぁそうなんだけどね。勝くんのニトロ好き」

「シオンの見透かすのは好かん」


彼のニトロは危険な物質であるにも関わらず私に安心感をもたらしてくれる。ステージの初っぱな爆発でも少しだけニトロが香っていた。

見透かすのは好きじゃないって…勝くんが分かりやすすぎるんだって。

いまだに繋がれている手は幼少期を思い出させる。個性が出現する前まではいずと3人で手を繋いでたっけな。

その手がゆっくりと彼の顔に持っていかれる。

私の掌がちょうど彼の口許を覆うようにして…


prr

「「!」」

『環心伝え忘れだ。インカムを俺のところに持ってきてくれ。3年の教室にいる』

「わっかりましたッスナイプ先生!すぐに行きます!」

『?そんなに急がなくても良いぞ』

「すぐに行きます!!」



 *


 *


何だったの、あれ。


意味わかってんの?


わかっててしたんだったら…ッ


掌に触れたのは彼の唇。




【懇願】 誠意をこめて頼むこと。
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