敢闘というもの

昼休み、教室。

「見てー見てー!見ててー!ブレイキン!!」


右の方を見ると、教室の後ろの空きスペースで披露される芦戸さんのブレイクダンス。

高く飛び上がってから捻りを入れてフリーズ。わぉ、回転も入れてきた。ダンスのことは詳しく知らないけど、あれはコークスクリューだったのかな。

フットワーク、パワームーブ全般出来るみたいだし流石はBgirl。この動きが彼女の戦闘スタイルに活かされている。

趣味がヒーロー活動に直結している人は少なくない。例えば砂糖くんのお菓子作り。口田くんはちょっと違うけど部屋にかわいいちゃん(ウサギ)がいる。

あれ、私の趣味はなんだ?


「趣味といえば耳郎のも凄えよな」

「もぉやめてってば、部屋王忘れてくんない!?」

「いや、ありゃプロの部屋だね!何つーか正直かっ…」

「マジで!!」


上鳴くんの誉めの猛攻に耐えられなくなった耳郎さんは、強めの言葉で制して席につく。

悪気はなかったのに怒らせちゃったのかなって、オロオロしている上鳴くんが不憫だな。


「何で…?」

「んー……」

「ちょぉっと、照れちゃっただけだよ。可愛い」

「環心……やっぱお前百合っ気があrグハッ」


梅雨ちゃん、アシストありがとう。

そして午後の授業。


「文化祭があります」

「「「「ガッポオオォイ!!」」」」


久々にガッポイ(学校っぽい)もの来ました。

普通の高校にもある行事が、雄英でも実施されることに不思議な感覚に陥る。そりゃ高校だからあっておかしくないんだけどさ。

切島くんみたいに敵のことを考えたら、今度こそ中止すべきだ。ただ文化祭は、ヒーロー科の体育祭のように他の科にとっては外せないイベントなんだ。

特に経営科やサポート科は手腕の見せ所。普通科だって大いに楽しむ権利がある場所だ。

そして各クラスで企画や出し物を考えなければいけないんだけど……


「メイド喫茶!!」

「おっぱゥグハッ」

「クレープ屋!」

「ビックリハウス!」

「ダンス!!」

「デスマッチ!!」


このクラス主張強すぎんよ。相澤先生に進行を丸投げ…もとい任命された飯田くんと八百万さん。なかなか進まない。


「手打ち蕎麦って何で?」

「好きだからな。お前は?」

「結果に従うだけ」


こんなに候補があるんだから、今さら意見を付け加えてもこんがらがるだけだ。


「中学ん時は何もしなかったのか?」

「劇したよ、あれは黒歴史だ。劇は…他と被りそうだからナシだね」

「主張しないんだな」

「みんなに合わせられるのは私の特技なんでね。それに個性柄全体視るの癖になっちゃって」

「…そっか」


キーンコーンカーンコーン


「実に非合理的な会だったな、明日朝までに決めておけ」


授業の終わりを告げる鐘が、相澤先生の琴線を震わせる。意見がごった返して生産性の無い話し合いになってしまった。そもそも話し合いではなく意見の押し付け合い。


「決まらなかった場合…公開座学にする」

「「「「((((公開座学!!))))」」」」


このとき、久しぶりにみんなの意見が一致しました。


[[[[[[[[[公開座学は死んでも回避する…ッ]]]]]]]]]



 *


 *


総合病院。


「会いに来れなくてゴメンね」

「フルーツの盛り合わせがあるの。好きなの剥くよ」

「エリちゃんはももが好きでしょ!?ピーチっぽいもんね!」

「…リンゴ」

「だと思ったよね!!」

「先輩ざんねーん」


総合病院の他の棟から少し離れた個室。そこがエリちゃんの部屋だ。

何故ここに居るかというと…

放課後、インターン組補習中。


「エリちゃんが会いたがってる?」

「ハーツと言っていたからお前だろう。あと通形と緑谷を気にしている」


個性の暴走を危惧されて、あえて事件に関係するものは排除した生活をしていたそうだが…今のところそれは無いだろうと判断された。

そして彼女の要望でようやく顔を見ることができた。常に下がっている眉毛に伏せがちの表情。伝えたいことはたくさんあるのに過去の記憶がそれを邪魔している。


「お名前、ルミリオンさんとハーツさんしかわからなくて…知りたかったの」

「ハッ!!…んーデクの方が呼びやすいかな…うん、デクで!デクです!」

「デクさん…あと、メガネの人も……私のせいで苦しい思いさせてごめんなさい」


サーの死を彼女は知らない。今知ってしまえば自責の念でせっかく落ち着いてきた精神も、またボロボロになってしまうだろう。


「私のせいでルミリオンさんは力を失くして…ハーツさんはきれいな髪の毛が…」

「エリちゃん!苦しい思いしたなんて思ってる非とはいない。皆こう思ってる!”エリちゃんが無事で良かった”って!」

「そうよ?それに私短い髪、気に入っているの」


ミリオ先輩の手が彼女を優しく撫でる。今まで彼女に触れてきた手は、恐怖の対象でしかなかった。

皆あなたの笑顔が見たくて戦ったのよ。頑張って笑顔を作ろうとするけれど、彼女にはどうやって笑えばいいかわからないみたい。


「エリちゃん、お姉ちゃんのこと嫌い?」

「…嫌いじゃない」


いつかの彼と似たような反応だ。これなら大丈夫そう。彼女は自由になったにも関わらず、治崎に囚われている。


「ちょっとお姉ちゃんとギュってしようか?」


腕を伸ばすと恐る恐る触れてくる。優しく抱え込み彼女の柔らかい白い髪の毛に頬を寄せる。


[あったかい…あの時もそうだった……]
[あったかくて、あの人たちとは違う]


慈愛を感じたことがない彼女はこの気持ちをまだ表現することができないらしい。


「先生!エリちゃんも文化祭来れませんか!?」

「!!!」


さらに甘いリンゴアメに興味を惹かれているけれど……彼女が笑うためにはショック療法だ。ああ、洸汰くんと同じだな。


「私、考えてたの…皆のこともっと知りたいなって考えてたの…ッ」


彼女の笑顔がみたい。涙で濡れる頬に赤が差す。

頑張る、女の子。


 *


 *


「ねぇ!俺もギュってしたいんだよね!」

「ダメですーこれは私の特権ですー」




【敢闘】 勇ましく戦うこと。果敢に戦うこと。
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