適合というもの

10月、早朝。

「今日5qコースは?そのあとストレッチ」

「あ?足りるんか?」

「タイム重視。15分台目標で」

「余裕だわ」


勝くんと早朝ランニングが日課になって早1ヶ月。インターンでできない時期もあったが、準備運動をしながら今日のメニューを提案する。

ぶっちゃけて言えば彼は14分台で走りきるはず。私も頑張れば15分前半で走れるとは思う…個性出現前の時代だったらむちゃくちゃ速い方なはずなんだけどなぁ。

よーい…スタート。

1km3分を切るペースをイメージしながら足を進める。やっぱり速い、一歩も大きい。

走っても乱れない体幹、踏み込みをアシストする脚力。リードヒーロー"ハーツ"なんて謳ってるけど彼の前ではそれが出来るんだろうか。


「っだ!っは、は…っふー……っはぁー」

「ハッ……、タイムは」

「じゅ、14分52秒……、ッファ〜……勝くんは?」

「13分26秒」


化け物かよ。盛大に息を切らす私がゴールするまでに1分半もの時間があった。だからある程度息を整っている。


「性別の差があんだよ」

「はッ…っふー……にしても速くない?」

「ったりめーだ。おら、ストレッチすんだろ」

「もう…ちょっと休ませてよ、」


背中合わせでストレッチ。身体が暖まったときにするペアストレッチは普段自身では伸ばせない筋肉にも刺激を与えることができる。

このタイミングはなぁ。自分で提案しておいてだけど、じっとりと汗で湿った背中に熱が集中している。

青空へ腹部を晒す伸びは気持ちがいい…でも、筋肉質な勝くんの背中の居心地はそんなによくない。交代して私が彼をテコの原理で持ち上げる。

ロードワークに最適な季節になってきた。スポーツの秋だなぁ。


「……シオン…………背中の肉やべぇな」

「……」

「いっでッ!落とすンじゃねェー!」

「最ッテー」


背中に勝くんを乗せた状態から、体を捩って落としました。マジ許すまじ。

食欲の秋は加減しなきゃかなぁ…



 *


 *


ヒーロー基礎学前。


「麗日が浮かして酸の雨、瀬呂のテープでー…」

「エグない?」

「何の話してんの?」

「チームアップのことじゃないかな」


最近、Mt.レディ、シンリンカムイ、エッジショットがチームを組んだらしい。それに起因して芦戸さんは即席チームを提案している。


「口田と障子と耳郎が偵察。チームレイニーディ!」

「オー」

「俺たちは!?」

「いらない」


一刀両断された上鳴くんは同じく指名の無かった峰田くんと闇の…デスゲームを始めてしまった。ドンマイ。

性格の相性や個性の相性だったら私は…


「私、八百万さんと相性いいと思うんだよね」

「私ですか!?…でも環心さんなら誰とでも合わせられそうですし」

「だって私歩く辞書じゃない?」

「!!」

「きっとお役に立てると思うよ」

「環心さん!!!」


プリプリした八百万さんは可愛い。キラキラした目でこちらを見つめて、我慢できずに抱きついてきた。

発育の暴力やばァ。


「百合……グフッ」

「環心とヤオモモだったら司令塔かたまるし、パワータイプにはキツいしバランスあんまよくない気がする。あ、爆豪とか。最近アンタ達仲良いじゃん」


耳郎さんのイヤホンジャックにより制裁された峰田くんだけど……ありゃダメだわ。

確かに私と彼女ではバランスは悪くなってしまう。でも"しんり"で分子構造まで視て"創造"に至る。良いと思ったんだけどな。

逆に勝くんを薦めてきたけど。朝の一件から組みたくない欲が膨れ上がった。眉間にシワがよって不細工になるのがわかる。


「あんなデリカシーの無い奴、無し」

「何あったの…せっかく笑ってたのに…顔よ」


コスチュームに着替えてTDLに集合する。チームアップねぇ…組むのはずっと前からいずだって決めてるけど、現実的かどうかって考えたら…んー。


「ん?いず、寝不足?」

「……うん。ちょっと気になることがあって」

「あー…それって……青山くん?」

「っへ??!」


少し疲れたような表情のいず。後ろ姿からしても元気がなかった。それを指摘してあげればやはりというか……青山くん。


「だって……物凄く熱い視線を感じるもん」

「……そう、なんだよねぇ」

「お話ししてみれば?…通じるかはさておき、ね」


麗日さんが彼と期末で組んだとき、話が通じなかったと言っていたからどうなるかはわからないけど。言葉に出してみて、初めてわかることもある。


「じゃあ各自進めるように」

「「「「はいっ」」」」


私もアヘッドモードの精密度を上げなきゃだけど、今日はどうしようか。


「環心、教えてほしいことがあるんだが」

「ん?私でよければ協力するよ」

「熱膨張と過冷却で……」

「ちょうど良かった。個性の精密さ上げるために温度変化視ながらでもいい?」

「ああ、頼む」


今日の訓練メニューは轟くんとで決まりだ。

ん、何か書いてる……?

広いスペースを確保するために奥の方へと向かう途中にあったコンクリート。そこには何か文字が書かれていて……

Il faut se méfier de l'eau qui dort.
(眠っている水に注意しろ)

フランスの諺だっけ。見かけ上は攻撃的じゃないけど、最も注意すべき必要がある、ねぇ…?

フランス語だし、この焦げ跡はネビルレーザー。かなり細かく使えるんだ。

青山くんの言っている注意すべき事というのは何だろう。危ない人が近くにいる?それか個性の事、だと思う……けど。

彼の考えはいまいち視えない。喜怒哀楽は判るんだけど、脳内「僕さ!」ってのがほとんどだからなぁ。

まだ授業始まったばかりなのにお腹を痛めた青山くん。彼に手を差し出し介抱しているいずは疑念MAX。だけど少し会話をするだけでそれも晴れていく。

なんだ会話ちゃんとできてるじゃん。流石。


「ふふっ」

「お前最近よく笑うよな。良い事あったのか?」

「まぁね。さー始めましょうか」


仲が良いのはよろしいことだ。




【適合】ある条件や状況にぴったり当てはまること。



2020/2/9:加筆・修正

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