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なみだの向う


きみを、護りたかった。護れると、信じたかった。
私を頼りにしてくれたちいさな手を。絶対に護ろうと、はなすまいと、心に決めた。


けれど

もう、それは無理なのだと。そうなのだと、思っていたのに。

あぁ、神様。どうして、世界は。
こんなにも、優しくて、…そうして、残酷なのですか。




なみだの向う




時期は師走のはじめ。関東でも、そろそろ雪も降ろうかといった季節である。
そんな真冬の夕闇時。そして場所が庭に面した縁側となれば、吐く息も凍るほどの寒さとなる。
そのような中、金髪の少女…凛は座り込み、ぼんやりと庭の景色を眺めていた。


「おなか、すきましたね…。」


ぽつりと口から出たのは、空腹を示す間抜けな言葉。
すると、まるでその言葉に応えるかのように、「くぅ〜」と情けないおなかの音が辺りに響いた。
自覚するとともに強く主張してきた空腹感に苦笑しながら、凛は濡れた瞳を月へと向ける。


「…莫迦みたい、ですね。」


あぁほんとうに、莫迦者だ。


ふっと瞼を閉じれば、思い出すは先ほどの会話。
凛が、女学校の帰りの姿のまま着替えもせず、そうしてご飯も食べもせずに、ここに居座るに至った、原因。


「…ごめんなさい。」


そう呟いた言葉とともに、涙がひとすじ落ちていった。


謝ったって、自分には何もできないけれど。それでも。
謝るくらいは、赦される筈だから。


「ごめんなさい…廉さん…。」




異人で、異なる容姿で。それだけで充分に扱いづらい、何処においても面倒な存在なのに。
それなのに、この“鏡音”の血を継いでるせいで、余計に厄介な存在になってしまう。


迷惑ばかり、かけてしまう。


この家に、そして…、廉さんに。


『貴女には、廉さんに嫁いでもらいます。』


あぁ、うそだ、嘘だ。そんなこと、…そんなこと。


『まぁ、あなたのその容姿に血。嫁にいける所なんて…いえいえ、なんでも。』


知ってる、それくらい。
自分がどれくらい…要らない存在なのか。
嫌になるほど、思い知っている。


でも、
でも、だからって。そんな、こと。
廉さんの迷惑にしかなれないなんて。そんなの、そんなの…。


『良いですね、凛さん。』


廉さんの、もとに嫁げるなんて。貴方の隣に、ずっといられるなんて。

そんなの、そんなの…。


『…はい。』


嬉しくないわけ、ないじゃない。


あぁ、なんて、愚かな女。
廉さんのことを考えれば、断った方が良い筈なのに。
姉としてならば、弟の幸せを考えて、もっと好い人との縁談を薦めるべきなのに。


あぁ、なんて。
――我儘な、女なのでしょう。




「姉さん?」
「っ!?」
「やっぱり、此処に居た。」


探したよ、と笑いながら近づいてくるのは、紛れもない、凛の弟…廉で。


ついさっきまでぐちゃぐちゃと考えていたため、凛は現状が処理できずにただただ廉の顔を見つめた。

すると、廉は少し面白そうに凛の表情をみて、それからストンと凛の隣に座り込む。


「ご飯、居なかったでしょ。皆心配してたよ?」
「えと、その、…すみません。」
「いやいや、別の良いんだけど。でも、…心配した。」
「…すみません。」
「はは、冗談。それより、皆におにぎりとか持たされたから、食べよう?」
「はい。その、廉さん。」
「ん?」
「有難う、御座います。」


はい、と手渡されたおにぎりを受け取りながら、おずおずと凛は礼を述べた。
すると、廉はぱちくりと目を瞬き、そうしてにっこりと破顔した。


「どういたしまして。昔もよくあったしね。」
「昔、ですか?」
「そう。姉さんも僕も小さかった時。憶えてない?」
「…っ」


昔、むかし。
まだ、自分が君の手を護れると思い込んでいた時。
…憶えてる。
いなくなる君を探すときの焦燥感だとか、見つけた時の喜びだとか。
わらってくれることへの、嬉しさだとか。


ぜんぶぜんぶ、憶えている。



「まぁでもあのときは逆だったね。僕がいっつもみつけてもらってて。」
「…そうですね、あのときの廉さんはとっても可愛らしくて。」
「…嬉しくないんだけど。」
「ふふ」
「…だから、これくらい、どうってことないよ。」


廉は、恩返し、と悪戯っぽく言って、ふっと凛に微笑みかけた。

そんな廉の優しさが嬉しくて、凛は言葉に合わせて微笑もうとして…失敗した。


確かにそんな出来事はあったけれど、あれはずっとずっと昔のこと。
もう、二人とも子どもじゃない。


だって、もう君は泣かないし。

私には、君の大きくなった手を護ることは、…もう、出来ない。

そして


私は、力のないちっぽけな女で、やっかいな、お荷物なのです。

そこまでわかってるのに、君の傍を離れたくないと、思ってしまうような。


「…姉さん?」
「…っ、れ、れん…さ…」
「なんで、泣いてるの?」
「…!!」


はらはらと涙が頬を伝う。

それを、そっとぬぐおうとしてくれているあたたかな手を感じながら、
悲しさと、申し訳なさと。そして少しの嬉しさを感じてしまう自分に対して、凛はぐっと唇をかみしめた。



ちがう、ちがうのです。
私は、私は。








ごめんなさい




(私は、もう姉でもなんでもない、ただの泣き虫な女なのです。)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

可愛いなぁ、凛姉さん(オイ
凛さん視点だと廉さんが普通に見える不思議。実際自分で凛姉さん泣かせてんだけどね。ね。
怖いやつだ。←
しかし、楽しいw←

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