novel
櫻
どんな時でも、彼女はいつも目を逸らさなかった。
対する物の怪がどれほど気味の悪い姿をしていようと、
対する人間がどれほどむごい状況になっていようと、
彼女は絶対に目を逸らそうとはしなかった。
逆に、何かを見極めようと、えられるものは全てを得ようと。
彼女は必死に目を凝らしていた。
どうして、未だに年若い姫であるはずの彼女にそんなことができるのか。
目を逸らさないということがどれほど難しいことなのか。
いままで俺は考えたこともなかったんだ。
・・・・櫻誰もいないときいていた、とある貴族の大きなお屋敷。
しかし、そこには。
「女人…?」
その女性の姿は、貴族の女性にみられる一般的な外出姿である壺装束。
しかし、被きを深くかぶっており、みえるのはうっすらの微笑を浮かべた口元のみ。
そんな姿のはずではあるが。
きれいなきれいな、…否、言葉では彼の人の美しさを表すことは不可能であろう。
そう真面目に思ってしまうほどにうつくしい女性が、儚げな微笑を浮かべて佇んでいた。
「っ!」
思わず、といった体で藍鉄は武器の場所へと手を持っていく。
強張る身体、嫌な汗が背中をつたう。
耳元で響くは警鐘の音。
其の人は、確かに美しい。美しい人。
しかし藍鉄とてそれなりに場数を踏んでいる。そしてなにより、蘇芳と護衛である。
こんな時間に、しかもこのような出現の仕方。
どう考えても、其の人がただの貴族のお姫さまなはずが無い。
でもそんなのは、蘇芳にとってはどこ吹く風か。
「今晩は、ご機嫌いかが?美しい方」
にっこり。
この不可思議な現象の前に、きれいにきれいに微笑んで。
なんとも場違いなセリフをのたもうた。
あまりの変わりのなさに、どうにも気が抜けてしまうもので。
藍鉄は蘇芳の傍へ音もなく近づきつつ、弛緩した体を震わせる。
さてその女人は何を想ったことか。
うふふと楽しそうに微笑んで、真っ赤な唇をゆっくりと開いた。
「今晩は、普通のお姫さま…ではないみたいですわね」
「あら?普通のお姫さまよ?」
「…どの口が」
「煩いわよ藍鉄」
ついうっかりいつもの癖で口を挟んでしまった藍鉄。
そんな言葉を、どんな状況であろうと無視する蘇芳ではなく。
蘇芳は笑顔で藍鉄の足を踏んづけ、そうして悶絶する藍鉄を無視して女性へと向き直った。
すると、
「まぁまぁ。随分可愛らしい方々ですこと」
「ふふふ。あなたみたいな綺麗な方に言われても嬉しくないけれどね」
「あら有難う。それにしても、ここにいつもいる方々はどちらに?」
ゆうらり。、
風なんて吹いてはいないのに、空気がほんのすこおし揺らめいた。
その変化に蘇芳はチラリと周囲を見渡し、そして変わらず笑顔をつくる。
「秘密、よ。そんなのより、私とお話ししましょうよ」
「まぁ…でも用があるのは彼らなの。ねえ可愛らしい方、貴女を傷着けたくはないのよ?」
「残念ね。私もあなたを傷つけたくはないのだけれど」
さてはて何故か、理由は何か。
深い藍色の夜の空気、ただそれだけだった筈なのに。
ゆらり、ゆうらり。
闇が濃くなり重くなる。
静かに佇むその女性の周りだけ、空気の色が重苦しく染まっていく。
ゆうらり、ゆらり。
「ねえ、どいてくださらない?」
「嫌よ、…ねえ貴方、どうするきなの?」
「…言う必要があって?」
「出来れば教えていただきたいわ。…ねえ」
「なにかしら」
「貴方がなさることに、本当に意味があると思っているの?」
「っ!!!!!」
ざわり。
と今までとは比べ物にならない殺気が充満する。
渦巻いていただけの空気が、突如として凶器となる。
一瞬で姿を変えた場の空気、向かうはすべて蘇芳の方向。
「っ蘇芳様!!!!!」
「だいじょうぶ、よ、藍鉄」
思うより前に体は動く。
藍鉄は即座に蘇芳の前へと身体をおき、護るように周りを見遣る。
それでも蘇芳は、変わらぬまま。
唯己のするべきことをこなすため。
彼女は決して目を逸らさない。
「ねぇ、お話ししましょう?」
にぃっこり。
彼女は変わらずほほ笑んだ。
(ゆうらり、ゆらり。ゆらゆらり)
(それでも彼女は揺らがない)続け
・・・・・
おおおおお久しぶりです!
蘇芳ちゃんと藍鉄君五話!
相変わらず自分の道を突き進んだ設定ですが、ですが!
こんな二人でも…いいよねてへ!←
語彙力が無さ過ぎて辛い!(絶叫
2012/12/18
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