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雪下






まんまる満月、かげる三日月、そして暗闇。
さて今日は、そのどれでもないお月さん。
微妙で微妙な満ち欠けで、正しいものにも昏いものにも。すべてにやさしい日であります。


周りは闇に包まれたある十字路。
そこで響くは誰の声?
そこで踊るはだれの意思?


「もうすぐ…もうすぐです。あと少しで…貴方の敵を…」


踊る理由はさてさて何か。
あぁ勿論、解かる解からぬ本人次第。
全てを知るのお月さん。
だぁれもしゃべってはくれないものよ。




雪ノ下




館では今なお華やかに催される宴、そうして忙しく働く館の人々。
しかし、そうではない館の住人が此処にふたり。


「で、なんでこんな恰好でいるんです?」


そのうちの片方…藍鉄が、ため息交じりに蘇芳に問いかけた。
まぁ、応えは既にわかっているのだろうが。
それは蘇芳も解かっているのか、藍鉄の声に振り向き綺麗な笑みを口に浮かべた。
…なんというか、きれいなのに物騒な笑顔である。


「それは愚問というものよ」
「…姫」
「私は行くけれど?」
「…。着いて、ゆきます」
「有難う」


もう一度にっこりと笑む蘇芳に無言で返し、藍鉄は自分の身を改める。
蘇芳はすでにばっちり万全。言い出した方なのだから当然と言えば当然なのだが。
もう少し、事前に言うとかしてくれないだろうか。
そんな愚痴を心の中でぼやきながら、藍鉄は正装から着替えるために自分の部屋へ急いだ。


宴を抜け出し蘇芳の自室に戻ってから、一寸待っている様にと藍鉄は部屋の外へ出された。
そうして、声と共に部屋に入れば、すっかりいつもの水干姿に戻った蘇芳の姿。
後ろにはきちんとたたまれた正装の服。
彼女の腰にはちいさな荷物、手に持つのは呪符の類。
嫌でもこれからしようということがわかるものだ。
それでも問いかけてしまったのは、もはや習慣というものだろう。


「姫、待たせしま…っ?!」
「あら藍鉄、はやかったわね」


つらつらと考え事をしつつ蘇芳の部屋へ入れば、何故かそこにはいつも以上に袴を短くした姿で。
いくら貴族の姫らしくないとしても、それに藍鉄がなれているとしても、心臓に悪いものは悪い。
というか、慣れるもんでもない。


「ななななんて恰好をしてらっしゃるんです!」
「一寸ね、新しい呪符の効き目を…藍鉄も試す?」
「…遠慮しておきます。というか早く服を」
「はいはい」


適当に返事をする蘇芳を睨みたいが、今の状況ではそちらの方へは向きたくない。
…どうしてこうも鈍感な姫なんだ。
生まれ育った環境が、なのか。それとも生来の性格ゆえなのか。
この姫にはどうも自覚が足りないのではなかろうか。


「藍鉄?もういいわよ」


言葉に我に変わる。もうそこには、普段通りの蘇芳。
さっさと藍鉄をおいて部屋を出て行く蘇芳を追いながら、未だ何も聞いていないことに気がついた。


「それで姫、どちらへ?」
「それは勿論…依頼人の館へよ」
「依頼人…今こちらにいらっしゃるのではありませんか?」
「ええ。だから行くんじゃない」
「?」


いぶかしげにしている藍鉄に気づいたのか、蘇芳はくるりと振り返った。
その瞳は面白そうに煌めいていて…まるで子供の様。
…あぁ、これは。
嫌な予感がとてもする、と藍鉄は苦虫を噛み潰したような顔をした。
そんなことはお構いなしに、蘇芳は話を続ける。


「一度見てみないとはじまらないでしょう?」
「…自分でみてみたいと?」
「うーん、そうではないのだけれど…姿を見ない限りは、判断のつけようが、ね」
「判断?」


真意が測れずただ繰り返す。
そんな藍鉄を、楽しげに目を細めてみつめてくる蘇芳。
大変不公平な気がするが、蘇芳がこうなったら大抵止まってくれないのは経験からよーく解かっている。
まぁ楽しそうだがやるべきことはこなすのが彼女である。
心配すべきことでもないのだが…。
解かっていても、やはり、だ。


「さっ行くわよ」


蘇芳はヒラリと身軽に塀を越え、さっさと藍鉄の視界から消えてしまう。
そんな蘇芳に続きひょいっと塀を飛び越えながら、藍鉄は小さくため息をついた。






「しかし姫、いくら主人が外出中と言えど、誰かしらはいらっしゃるでしょう?」
「誰もいないのよ。そうするように頼んだわ」


夜の都を疾走しつつ尋ねると、こともなげにあっさりと言ってくれる。
しかし、随分と無茶な頼みだ。
全部を空にするなんて、そんな。



「さ、ついたわ」


立派な、貴族の寝殿造りの屋敷。
その塀をまるで我が家のようにひょいっと飛び越える。
もういいやと藍鉄は腹をくくり蘇芳に続く。
そして飛び降りた庭では、蘇芳はふいに振り返った。


「ほら、御出ましよ」


先ほどまでに風ひとつない静かな夜の空気。
その空気を破るようにひんやりとした風がすぅっと二人をなでるように吹いた。

そして、蘇芳の視線の先に。
今まで誰ひとり存在していなかったはずの場所、そこには。


「まぁ、どうやらわたくしにお話のある御仁?…それにしては随分若いわね」


にぃっこりとほほ笑む一人のうつくしい女性が立っていた。




(その夜現る、影はさて人か)



さてはて夜はまだはじまり



・・・・・・・・・・・



お久しぶりです。
ちょっと陰陽師モノっぽくなってきた。
正直ほかのお宅の藍蘇ちゃんと性格違いすぎてちょっと泣ける。
まぁ、…可愛いけどね!それは勿論!
こんなふたりもありだと信じてる。

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