novel
楝
例え何があろうとも、どんなことが起ころうとも。
私には、譲れないことがあるの。
それは何にも代えることはできないわ。
私にとって、命より、護るべきこの都よりも大切なことなの。
だから私は絶対に。
絶対にこの目を逸らさない。
・・・・楝ゆぅらりゆらり。
ゆっくりと揺らめく、深く昏い夜の闇。
中心には美しき女人。
そして対する、あまりにも若すぎる陰陽師とその護り人。
今までだって、たくさんの相手と対峙してきたわ。
「ねぇ、お願い教えて?この邸の主は…どこ?」
「さぁ?どこかへ遊びに出歩いているのではなくて?」
「…そう。本当に教えてはくれない、のね?」
悲しげに目を伏せる麗しき人。
それはとてもとても幻想的で、こんなときにも関わらず蘇芳はほぅとちいさくため息をついた。
ひとはとても麗しい。
いつのまにか刀を取りだし構える藍鉄。
そんな彼をチラリとみつめてから、其の人へと近づくために一歩進めた。
あぁ、なんてふかく哀しい闇。
昔からこの都に憑いていたあやかし。
此処から離れることが出来なくなってしまった余所のあやかし。
無残に殺され、使役されるに至ってしまった動物の生霊。
果てはこの地に宿る神様の…残骸。
崇め奉られたのは疾うに昔。
哀れにも忘れ去られてしまった、八百万の神々。
たくさんたくさん、彼らをみてきた。
時に調伏し、時に滅して。
様々な者を、私はみてきたわ。
そして、わかったことがあるの。
まだ経験が浅い私でも、言えること。
それは、
蘇芳は静かに口を開く。
「ねぇ、どうして貴方はこんなところにいるの?」
それはね。
「…成さねばならない願いが、あるからよ」
「願い?」
「そうよ。これは…私が、何としてでもなさなければいけない。たとえ何をしようとも」
人の願いが、いちばん恐ろしい、ということ。
羨望、嫉妬。恐怖、そして殺意。
人は簡単に負の感情へと囚われる。
ずぶずぶりと沈み込んで、そのまま戻ってこれなくなる。
嵌ってゆくはとても楽。
暗闇はだれも拒まない。どんな人にも等しくやさしい。
やさしくやさしく包みこんで、そうして正しい目すらも包み込む。
気づいたときは、もう遅い。
光がただただ煩わしくて、闇がどこまでも心地よくて。
人を恨み、陥れることを願い、自分のことは棚に上げたままで。
そうして呪いに手を染めるのはあまりにもたやすいこと。
でもね、容易いことだからと言ってそこに嵌ってしまってはいけないの。
確かに恨むのはとても楽。
でもね、全てはかえってくるの。
誰でもない、自分の元へ。
かえって、くるのよ。
其の人は被衣をかぶっており、表情は読めない。
其の人の目を見つめることも、蘇芳にはできない。
それでも彼女は顔をあげる。そうして顔を見つめ続ける。
「とてもとても、愚かしいわね?」
「ッ!!!」
「蘇芳」
「だって、そうじゃない」
ちいさく声を上げ、其の人は唇をかみしめる。
それに伴い、どこからか燃え上がり飛び込んでくる黒い炎。
藍鉄は呆れたように名を呼び、刃を閃かせ炎を斬る。
白い光が走り、黒い炎は霧散する。
そんなことはお構いなしに、蘇芳はかわらず言葉を続ける。
ひたと見つめるの其の人の瞳。
その向うの心の中。
例えば本当に相手が悪くて。
もう願うしかなくて、それ以外はどうしようもなくて。
そんなことが、あったとしましょう。
でもね。
「あなたがその願いをかなえたとして、被害をこうむる人はいないの?」
「…被害を、私が望んでいるというのに?」
「そうではないわ。相手ではない。貴方でも無くて」
「…?」
見つめ続けていた目、一度静かに瞼を下す。
頭によぎるは今までのひと。
闇にのまれて堕ちていった、とても愚かな、哀しきひとびと。
闇はとても恐ろしい。
どれほど強い願いがあろうと、それを果たすためだったとしても。
静かに静かに、歪んでいく。
そうして自分では気づかずに。
静かに静かに壊れていって。
「…じぶんの周り、だろう」
「あたり、ねぇ…貴方の願いは誰の為なの?」
「!そ、れは」
「それは?言えるかしら。私達の前で?」
最後には、貴方自身で貴方の願いを壊すでしょう。
そんなこと、望んでいなかったはずでしょう。
だから、ねぇ。
「その願い、私達が責任もって壊してあげるわ」
闇は私達人間如きに扱えるようなものではないの。
だから早く目を覚ましなさい。
(広がる闇は、恐ろしくも甘く優しく)
(光はどこまでも眩しくて)続け
…………
六話!
かがたんまでにここの流れを一区切りつけたいんだぜ!!!
レポートだって、復習だって終わらせたいぜ!!!
あと運転免許な!←
やったるぞー!!!!!
2012/12/20
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