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桜ノ噂


次はオマケ




「そういえば、姉さんしってる?」
「何ですか?」


桜並木を通り抜けながら、ふと思い出したこと。
何かの本で読んだのだったか、定かではないけれど。
桜ばっかり見つめる凛が遠い人に見えて。
なんだか、連れて行かれて、どこかに行ってしまいそうで。

ねぇ、こっちをみて。
桜なんか見てないで、僕を見て。


「桜が綺麗なのは、根元に人が埋まっているからなんだって」


怖がってくれればいい。
そんなにいいもんではないんだって思ってくれればいい。
そうすれば、こっちを見てくれるだろう?


「そこに捕えられた哀れな人のおかげで、こんなに人を魅せるんだよ」


そこまで言って、さすがに言い過ぎたかと口をつぐむ。
まぁ、此処まで言えば怖がる筈。
ぽかんと口をあけて姉さんはこっちをじっと見てきた。
…そのまま、ずっと見てくれればいいのに。


でも、やっぱり姉さんは謎だ。
そっと手を口にやってから、何故だかくすりとほほ笑み始めた。
え、なんで?


「ね、姉さん?」
「ふふ、あっ御免なさい。なんだか羨ましくて」
「はぁっ?!」
「ふふふ、良いですね」
「…ど、どうして」


ふんわりとほほ笑み、顔を上げている姉さん。
なんで、どうしてだ?
おかしい、本当におかしすぎる。だって、今僕は怖がらせたかったのに。
なんで楽しませているのだろうか。


それに、また。
また、桜ばかりを瞳にうつして。
…ずるい、狡い。ねえやめてよ。こっちをみてよ。
僕をみて。



「自分を」
「え」


ふっと視線をこちらにずらし、じっと僕をみつめてくる。
綺麗な瞳。そこにうつるのは、今は僕だけ。
…ずっと、そうだったらいいのに。


「自分を糧として、こんなに綺麗な花を咲かせてくれるなんて。羨ましいな、と」


どうしてそう思えるんだ。
照れたように笑む姉さんを、まじまじと見返してしまう。
だってこれ、怖い話のはずなのに。


「なんだか素敵な話ですね」
「…そう、かな」
「ええ」


全然そう思えない。
だって埋められてしまうのに。
そう言いたいけれど、姉さんの笑みをみたら何故か言葉がひっこんだ。
そんな風に言われたら、反論できないじゃないか…。


「私も、綺麗な花を咲かせてみたいものです」


桜なんて大それたものじゃなくて。

なんて小声で付け足しながら、苦笑する姉さん。
姉さん、僕の姉さん。

そして気づいた。


「姉さんだったら、絶対に咲くよ」
「え?」
「絶対に、咲くよ」


とてもとても綺麗な花が、桜が。
咲くに決まっているよ。


そういえば、照れたように、でもとっても嬉しそうに微笑んだ。
まるで花が咲いたみたいだ。
桜じゃなくて、桜なんかよりもっと素敵な花が。

…そうか、そうだね。


「…」
「はい?何かおっしゃりましたか?」
「んー。なーんにも」
「?」
「さっ歩かないと。さーさー」
「はい…?」



不審そうな姉さんの視線を無視して歩む。
そしてさっき呟いたことが実現できないことにちょっと不満を覚えた。
まぁ、貴女を放す気はこれっぽちもないけどね。





(もし姉さんが桜に囚われたら、そしたら僕が桜になろう)
(そうすれば、貴女はずっと僕のものになるだろう?)









おわれ
・・・・・・・・・・・


弟…おい弟。姉さん逃げて。

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