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桜ノ下デ君想フ




「さくら…」


ひらひらひらり、ひらひらり。
学校から家までの桜並木、この時期はたくさんの花びらが舞い落ちる。


ひらひらり。ひらり、ひらり。


何本も続く桜の木々たち、そうして咲き乱れる幾千もの桜の花々。
歩いても歩いてもその道は尽きないような、変な気分。
ひらりひらりと桜が舞う。
あぁ舞い落ちる、落ちてしまう。
せっかくこんなにきれいに咲いたのに、咲いてくれたのに。


ねぇ散らないで、お願いよ。
だってこんなきれいに咲いたじゃないの。


ひらひらり、ひらり、ひらり。


待って待って。散らないで。
どうしてどうして散ってしまうの。
こんなにたくさん咲いているのに、こんなに皆を感嘆させているのに。
どうしてすぐに散ってしまうの?


ひらり、ひらり。


…ねぇ、どうして散ってしまうの。
このままではいけないの。
ずっとずっとこのままで、木々と離れず花を咲かせてそうして止まってくれないの?
ねぇ、いけないの?



「…えさん、ねえさん?」


ねぇお願い、散らないで。
ずっとずっと、咲いていて。


わたしの、となりに。
ずっと、いて。






桜ノ下デ君想フ





「ねえさん!どうしたの本当に…」
「!っえ、あ…れんさん?」


ハッと周りを見渡せば、そこは学校帰りの桜並木。
…私は何をしていたのだったかしら?
軽く目を瞑ると、よみがえるのは先ほどの記憶。
そして隣には心配そうな弟の顔、そこで凛の記憶はばちっと記憶が繋がった。


「私、廉さんを待っていたのでしたね」
「そうだよ。今日は桜がきれいだから歩くんだって海斗さんに言ったの、姉さんでしょ」
「…そういえば、そうだった…かしら?」
「そうだったんだよ…」
「あらまぁ」


呆れたように廉と、さっぱり動じない凛。
数秒見つめあった後、廉は負けたようにくしゃりとほほ笑み項垂れた。
そして凛はがっくりと項垂れる弟の姿をじっとみつめる。

心配、させてしまったのかしら。
…ごめんなさい。


「桜が」
「桜?」
「はい、とっても綺麗で…だからつい願ってしまうのです」
「ねがう?」
「願う、です」


そう、願ってしまった。
とってもとっても綺麗だから。
なんだか悲しくなってしまったの。


「散らないで、と。願ってしまうのです」


このままでいて、と。
散らずにずっと、咲いていてほしいと。
…無理なことだと解かっていても、どうしても。
ねがって、しまうの。


「ふふ、御免なさい…」
「それでも」
「?」


誤魔化そうと笑おうとしたら、想像以上に真剣な…廉の瞳。
その瞳に魅せられたように、凛は続く言葉をのみこんでいた。
いつのまにか顔の作り笑いは消え去り、真顔のままに続きを待つ。
すると凛の顔がまじめ過ぎたのか、ふっと廉は表情を緩めた。
その顔は、ちいさな頃と同じような可愛らしい笑顔。
懐かしくて愛しくて、どうしようもなく胸が詰まる、そんな顔。


「それでも、また咲くよ」
「!」
「今、ここで散ってしまっても。来年また咲いてくれる」
「らいねん…」
「うん、そうでしょう?」


ぱちくりと凛は目を瞬いた。
でも、言われてみればその通りだ。
来年も、再来年も。また、この道で桜は咲く。
まったく変わらずにはいられないけれど、それでも桜はまた咲いてくれる。
季節は廻って、また戻る。


「また、ですか…」


あぁでも。
季節が巡って、春が来て。そうして桜が咲いてくれたとして。
…貴方はここに、いてくれるのでしょうか。
ここに。


「姉さんは随分桜に魅せられたんだね」


苦笑気味な廉の声に我に変わる。
魅せられた、たしかにそうかもしれない。
でも私が魅せられたのは、…きっと、桜ではないのです。

なんだか泣きたくなってぐっと口を引き結ぶ。
変なことを考えているのだろう、凛は既に自覚していた。
しかし自覚をしているからと言って、どうにかなるものではないのだ。
そう、どうにもならない。
どうにも、なってはくれないの。

…それでも、これくらいは、赦されるでしょうか。


「廉さん」
「ん?」


赦して、くれるでしょうか。


「また、一緒に見てくれますか?」


来年も、同じに。
こうして学校帰りに寄り道をして、笑い合って。
ふたりで、桜を。


「勿論」
「…有難う御座います」


凛は、つめていた息をそっとはきだした。
そして作り物でない心からの笑顔を浮かべていた。


「さ、行きましょうか」
「姉さんが見惚れてたくせに」
「ふふふ、そうでしたね」
「なんか余裕だなぁ」



ひらひらひらり、ひらり、ひらり。


私がどう想ったって、願ったって。
桜は、時は、何も言わずに散ってゆく。
…でも、悲しむ必要はないのですね。








(来年の約束ができるから)
(貴方と一緒にいる、約束を)





おわり


・・・・・・・・・

桜が綺麗でつい。
桜と言えば夢桜、夢桜と言えば大正みね。そして義姉弟!
学校ってどうしてあんなに沢山桜があるんでしょうね。

次はオマケ、弟。

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